ST介護職の考え事

認知症・高次脳機能・ケアについての覚え書き

【ABAを用いた認知症BPSD対応事例】トイレでの転倒頻度減少を目的とした介入

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セラピストは介入方法を考えるとき、論文検索を必死で行います。

介護現場も対応に困るケースはたくさんあるのに、だからと言って論文を探す人は中々少ない印象を持っています。

ということで、今回は介護現場で活かせる論文をご紹介します!

今後もこのように介護現場で使える論文をご紹介していきたいと思います!

 

【論文】トイレでの店頭頻度の減少を目的とした応用行動分析学的介入による効果の検討

橋本和久・加藤宗規・山崎裕

理学療法科学,26(2):185-189,2011

トイレでの転倒頻度の減少を目的とした応用行動分析学的介入による効果の検討 (jst.go.jp)

【POINT】 

認知症例であっても、適切な刺激(形・タイミング・量)の呈示で動作の定着を図ることができる。

・適切な行動に対して賞賛・御礼を強調して強化する。

不適切な行動は無視/適切な行動を嫌悪刺激にならない形で示す。

この二つが守られないと、適切な行動が消し去らわれてしまう結果になる可能性がある。

 

【対象】

介護老人保健施設老健)入所中の69歳男性。既往歴は腰椎椎間板ヘルニア・多発性脳梗塞認知症(←診断名は不明。多発性脳梗塞の既往があるので脳血管性はありそう?)

・身体機能:上下肢ともに麻痺無し。重力に抗して動ける程度の筋力はある。

・認知機能:長谷川式5点/30点(やや高度~非常に高度)

日常生活動作:BI35点/100点

食事摂取自立。車いす自操。座位にて体幹の動揺あり、更衣に介助を要す。

(←前傾時に転落リスクあるからか?車いす自操レベルの座位ができていて、更衣に介助必要な理由が「体幹の動揺」であるイメージ難しい。認知機能の影響も大きくあると考える)

尿意・便意の訴え無し。トイレ誘導での排泄はあり。

手すり両手把持にて立位保持見守りで可能だが日により変動あり。

車いす⇔ベッド移乗は中等度~全介助、車いす⇔トイレ移乗は二人介助で中等度~全介助(中等度介助の目安は50%を自分で行っている=介助者が半分くらいは介助しているイメージ。トイレ移乗は下衣の上げ下ろしの介助で介助者がもう一人必要になっている)

 

【介護上の問題点・介入対象になった経緯】

・トイレへの移乗時ブレーキ操作・フットサポートの跳ね上げをせずに立ち上がることによる転倒

介助者がトイレを離れている間に一人で立ち上がろうとして転倒

トイレ誘導への拒否・暴言あり。誘導に時間を要し、その間に尿・便失禁が多い

 

トイレでの転倒頻度は225日間に10件であったが、その後の16日間に転倒が4件集中して発生し、うち1件は前頭部を打ち救急搬送された。重大なアクシデントを防ぐため、応用分析学的介入を行うことになった。

 

【方法】

ターゲット行動:適切な方法でのトイレ動作の実施

 

“適切な方法”

トイレ動作を20の下位行動に分割

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理学療法士が手順を介護リーダーに見せ(理学療法士出勤時は毎日1回)、申し送り時に内容を伝達。上の表をを対象者の使う車いすの後ろに掲示した。

 

先行刺激:適切な動作から逸脱した際は、逸脱前の手順に戻す。

プロンプト(ヒント)として

5秒待って適切な動作が開始されなければ口頭指示

→(5秒経過)ジェスチャーを加える

→(5秒経過)モデリング・手本を見せる

→(5秒経過)身体的ガイド

 

後続刺激:不適切行動に対する嫌悪刺激をなくす=叱責や注意をしない。不適切行動に対しては適切な行動を示す。

適切行動に対する強化=適切な動作ができた際に賞賛・御礼を強調して行う。

課題分析表(上の表)のチェック欄をチェックし、不適切行動が減少していた場合には介護スタッフ・理学療法士が賞賛する。

(不適切行動のチェックリストでのチェックは“毎回”と書いてあるが、タイミングは不明。介入したスタッフが…と書いてあるので、トイレ介入時か?)

 

【結果】

転倒回数

ベースライン期225日:1.3回/月

転倒増加期16日:7.5回/月

介入期41日:0.7回/月

フォローアップ期28日:1.1回/月

 

不適切行動発生率

第1週:27.8%

第2週:18.9%

第3週:24.7%

第4週:16.1%

第5週:13.3%

第6週:9.5%

 

転倒発生率は転倒増加期と介入期で統計学的に意味のある差があった。

また、第1週に比較し、第5週、第6週では適切行動発生率に統計学的に意味のある差があった。

 

【考察の要約】

なぜ対象者は不適切なトイレ動作を繰り返していたか?

→適切な手順の理解とその必要性の認識が困難であった。

排泄中に手がかり刺激を与えることなく、介護者が不在の状態があった。このため適切な行動を行うための手がかり刺激が不足していた。

+適切な行動への強化はなく、不適切な動作への注意・叱責(嫌悪刺激)が与えられていた。このため、適切な行動は消去・弱化されていた。

+注意や叱責、転倒経験は、不安や緊張、怒りなどの条件反射(レスポンデント行動)を誘発し、トイレ誘導/介護スタッフの声や表情などとのレスポンデント条件付けが生じていた。

 

ABA(応用行動分析学)についての説明はこちらの記事をご覧ください!

 

ryo-kobayashi.hatenablog.com

 


 

【介護報酬改定】“科学的介護”LIFEに求められる指標/評価スケール(機能訓練・認知症ケア)

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介護報酬改定の概要が発表され、対応について頭を抱えている方々も多いかと思います。

今回の改訂でのキャッチーなフレーズに【科学的介護】があります。

介護も「エビデンス・根拠に基づいて、科学的に行っていく」方向へ舵をきることを、国が示したことになります。

 

セラピストにとってはインテーク→評価→アセスメント→訓練→再評価…のサイクルを回しながら臨床を行っていくことが当然とされていますが、介護現場では「経験」や「何となく最近○〇だよね」に頼った判断がされることがとても多いと感じています。

 

経験則に基づく判断が必ずしも悪いわけではありません。その結果良い方向へ進むこともありますし、エビデンスに基づいた判断とその判断が同じこともあります。

「経験」「勘」に頼り良い介護ができていたとしても、その介護は特定のその人がいなければ成り立たないものです。

加えて、情報提供や多職種で話し合う際の論理的な説明が難しくなります。

その意味で、どんなに良い介護ができていたとしても、どうしても脆弱になってしまいます。

 

同じ状況で論理的に考えていけば同じ判断ができること、介護職が足りない中で一定の介護の質を担保するために、「根拠に基づく科学的な介護」が求められています。

 

【科学的介護】データベースLIFEに提出するアウトカム指標

厚生労働省は以前から介護施設にはCHASE、訪問リハではVISITに利用者のデータを提出することを求めていました。

今回の介護報酬改定で、CHASEとVISITは一元化され新しく「LIFE」に変わります。

 

そこに提出するデータは年齢、体重、食形態などなど多岐にわたります。

ここでは施設リハ職として関わる、「個別機能訓練」「認知症ケア」部分で提出する(認知症ケアに関しては候補に挙がっている)評価スケールについてまとめていきます。

 

機能訓練:バーセル・インデックス(BI)

機能訓練・リハビリのデータは【バーセル・インデックス】で提出するように求められています。

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b07_2_.pdf (doc-net.or.jp)

 

 バーセル・インデックスは全10項目、100点満点で、対象者の「できるADL」を評価するスケールです。

 

ADLには「できるADL」と「しているADL」があります。

一日の生活の中で、例えばリハビリの時間だけは手引きで移動していて、他は車いす全介助の方がいるとします。

この例で考えると、

できるADL(移動)=手引き歩行

しているADL(移動)=車いす全介助

となります。

 

バーセル・インデックスは、「できるADL」の評価です。

その方の機能を最大限生かした場合、どこまでできるのかを評価する必要があります。

そのため、現場の職員がこの評価を見ると「この人こんなにできないよ!」となる場合があるかと思います…

 

バーセル・インデックスのメリット/デメリット

バーセル・インデックスのメリットは「分かりやすい」ことです。

5点刻みの100点満点。どのくらいの機能かが直観的に分かりやすいです。

 

その反面がデメリットで、「おおざっぱすぎる」ことです。

上にバーセル・インデックスの一部を載せていますが、5点刻みで評価しなければならず、同じ5点でも幅が広くなってしまいます…

例えば、トイレ動作は後始末やポータブルトイレの片づけまでできて10点です。

施設に入所されている方を考えれば、この基準ではまず10点に値する方はほぼいません。

そのためポータブルの片づけはできないけどそれ以外介助がいらない方は5点に当たります。

しかし、手すりをもってぎりぎり立位はとれるけれどそれ以外は介助が必要な方も5点になります。

同じ5点でも、随分介助量に幅が出てしまいます。

 

施設リハ職として、何でバーセル・インデックスでつけなきゃいけないのかな…というのが正直な感想です。

同じ点数の中で幅がある分、何か大きなエピソードが無い限り「点数が下がる/上がる」が起こりにくいのは確かかなと思います。

 

実際の生活レベルの変化を見るなら、しているADLを評価するFIMの方がいいんじゃないか…と思ったりしますが、お国の方針なので仕方ないです。

施設としてリハ介入による生活上の機能の変化を見ていきたいのなら、FIMで評価していくことをお勧めします。

FIM 機能的自立度評価法 | 慶應義塾大学医学部 リハビリテーション医学教室 (keio-rehab.jp)

FIMは評価点をつけるのに勉強が必要ですが、その方のしているADLを丁寧に評価できます。

FIMの評価方法の参考書としては以下2冊がおすすめです。

 

認知症ケア:DBD13

認知症ケアに関するアウトカム指標として暫定候補に挙がっているのが【DBD13】と【Vitarity Index】です。

先にDBD13から取り上げていきます!

 

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DBD(Dementia Behavior turbance Scale)=認知症行動障害尺度は全28項目ある、認知症のBPSDを評価するスケールです。

その28項目の中から13項目をピックアップしたものがDBD13です。(上の図はDBD13です)

カットオフ値は決められておらず、どこか1項目、1点でもあれば介入の余地があると考えられます。

付け方はとても簡単で、普段の様子をよく知る職員にそれぞれの行動の頻度を○してもらうだけです。

(付け方が簡単であることがDBDのメリットです。デメリットとしては心理症状の項目がないことが挙げられています。BPSDを全般的にカバーする評価スケールとしてはNPIが知られています。)

 

施設の実施する認知症ケアによって、この点数が低くなれば、BPSDが軽減したとして、行っていた認知症ケアが質の高いものであったと評価されるわけです。

 

項目にざっと目を通してみると、どれも「よく見かける行動」だと思います。

よく見かけるけれど、「まあこういうことはあるよね」「この人はいつもこうだから」と放っていたり諦めていたりする行動でもあると思います。

 

介護する側としても「ちょっと困る」これらの行動を、介入によって軽減させていくのは、職員側としてもメリットのある話ではないでしょうか?

介護負担は軽減する+介入によって改善した!という達成感や自己有能感、認知症対応のスキル向上などなど、うまくいけば一石三鳥(施設の評価が上がる+介護が楽になる+職員のモチベーション向上)の可能性があります!

 

STとしては高次脳の評価に加えて、行動分析的な部分で関わっていくつもりです!!

DBDの点数を下げる=BPSDを軽減するためのプランを立て実行していく過程そのものが、「科学的な介護」になっていきます。

 

BPSDへの対応方法、応用分析学的な視点から考えたBPSD対応については前回の記事をご覧ください。

 

ryo-kobayashi.hatenablog.com

 

認知症ケア:Vitarity Index

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Vitarty Indexは認知症高齢者を対象とした、「日常生活動作」に関連した客観的な「意欲」の評価スケールです。

「意欲」という目に見えないものを、「日常生活動作(ADL)」を媒介に評価するものです。

こちらも付け方は簡単で、普段の様子をよく知る職員がそれぞれ当てはまる点数をチェックすれば良いです。

 

認知症患者では「アパシー」「意欲の低下」を呈することが多くあります。

アルツハイマー認知症が最重度の状態になると「無言無動」の状態に至ると教科書的には記載されています。

 

機能としては歩ける・話せる方でも、アパシーにより自分からは動かなかったり、発話が認められない方がいらっしゃいます。

そのような方々に適切なケアを行うことで、少しでも自発的な行動が認められるようになると評価点が上がっていきます。

 

アパシーとは?アパシーへの具体的な対応方法はこちらをご覧ください。

 

ryo-kobayashi.hatenablog.com

 

認知症ケア評価スケールと【介護の質】

BPSDを予防するケア、アパシーへの対応ともに、「活動的な生活」「環境的な多様性」「役割創出」などが重視されています。

 

つまり、“施設に入居されている方が「ずっとぼーっとしている」「何もしていない」状態にある”ケアをしていると、意欲は低下し活動も乏しくなりBPSDも総合的に見て増えるだろうと予測されます。(極端に考えると、です)

 

BPSDを軽減・予防したり、意欲を向上させようとするならば、

具体的には、楽しい雰囲気を作り、役割・日課認知症の人が持ち、残存機能を発揮して、ほめたりおだてられたりするような上手な対応を介護者ができるようなれば、行動障害が減少し、同時に介護負担が減少する

認知症疾患医療センターでのDBDスケールによる行動障害評価の検討

p389-397.pdf (umin.jp)

このような対応が必要になってきます。

 

一人一人の機能や嗜好、生活歴をアセスメントしなければ、楽しい活動や日課・役割を見つけることは困難です。

入居するお一人お一人に対してこれらの丁寧なアセスメントからケア方法を立案し実施していくことで、BPSDの軽減=DBDの評価点↑↑、意欲の向上=Vitarity Indexの評価点↑↑に繋がり、施設の評価向上に繋がっていきます。

 

反対に言えば、一人一人に丁寧に向き合ったケアを行っていくその成果が、これらの評価スケールによって目に見える形になるということにもなります。

【科学的介護】は、評価スケールを用いることでそのケアの効果を目に見える形にしてくれます。

 

是非、「面倒くさい」「分からない」と敬遠してしまうのではなく、また点数にこだわりすぎるのでもなく、評価スケールをうまく使ってより良いケアのために取り組んでいきましょう!

 

 

 

 

食事の自力摂取に「真っすぐ座る」ことが大切な理由

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今回のテーマは「自力摂取と姿勢」です。

食事介助時の姿勢がスムーズな摂取と誤嚥予防に重要であるのと同様に、自力摂取においても姿勢はとても重要です。

 

食事を介助で行う時の姿勢の優先度は「誤嚥しにくい」が先になることが多いですが、自力摂取できている方の姿勢を考える時は誤嚥しにくい」と同等に「スムーズな摂取が可能か」が問題となってきます。

 

そのため、「自力摂取できているけど、食べ始めたらのどがすぐにゴロゴロしだす」という方は食事の姿勢を検討するのにとてもとても悩む典型例です。

 

誤嚥を防ぐには角度を付けた方が良さそうだけれども、そうすると自力摂取はしにくくなる。角度によっては自力摂取が困難になる。

 

「自力摂取」は「自分の好きなペースで好きなものを好きな順番で食べられる」自由と尊厳が保たれています。

出来る限り、利用者さんには自分で好きなものを好きなペースで食べてもらいたいと思っています。

けれど、誤嚥リスクが高くなってくるとその「自由・尊厳」と「安全」を秤にかけなければいけなくなる時がきます。

そのような場合には、ご本人・ご家族と多職種で情報共有・話し合いを行いながらどの方向に進んでいくのかを決めていく必要があります。

 

特に介護施設では「自力摂取できているならわざわざ介助にする必要はない」となってしまいがちです…。

誤嚥リスクの高い方に限っては「自力摂取を黙認する」ことが、その方の命に関わる事態になりえます。

なんの検討もなしに、本人・家族の意向を確認しないままに、誤嚥リスクの高い方の自力摂取を続ける事は危険です。リスクを把握、対策を立てた上で、本人・家族の意向を加味したケア方法の検討が必要です。

 

自力摂取時の「良い姿勢」

 

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一般的に食事を自力摂取する際の「良い姿勢」は上の図のように言われています。

横から見た姿勢はこの通りなのですが、正面から見た際に「傾いていない」「真っすぐ」であることも重要とされています。

 

「まっすぐ座る」のが「良い姿勢」であることは当たりまえすぎてあまり考えずに流してしまいますが、今回はこの部分にフォーカスしてみたいと思います。

 

なぜ、食事時「真っすぐ座る」ことが大切なのでしょうか?

 

結論から言うと「真っすぐ座る」ことで

①嚥下に関連する筋肉が効率的に動くことができる

②頭頚部・上肢が効率的に動くことができる

 

この大きくこの2つのメリットがあるためです。

それぞれを詳しく解説していきます。

 

嚥下に関連する筋群が効率よく動くことができる

筋肉が働く時、主となって動く筋肉がぐっと収縮します。

その時反対の動きをする筋肉は、弛緩して引き延ばされなければいけません。

 

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よく例に挙げられる肘の曲げ伸ばしで考えると、上の図のようになります。

肘を曲げるには上腕二頭筋が収縮し、代わりに上腕三頭筋は弛緩しなければいけません。

伸ばす運動の時には、それが反対になります。

 

この収縮、弛緩(伸展)の動きは、筋肉がもともとの長さから開始される時にその動きが最大になります。 

バネのイメージで考えてみると分かりやすいかと思います。

バネは元の長さから伸び縮みさせる時が伸びるのも縮むのも、その変化が最大になります。

引き延ばした状態から更に引き延ばしたり、縮まっている状態から更に縮めたりした時は、元の長さから変化させた時よりも変化の幅は小さくなります。

 

そのため、筋肉が効率的に働くには、その筋肉が動き出す時に過剰に引き延ばされたり縮められた状態ではないことが大切です。

 

食事の姿勢で考えてみましょう。

体が傾くと、頭はバランスを取ろうとして反対側に側屈したり、そのような反射が出ないかたでは重力で傾いた方向に頭も傾いたりしています。

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頚部が側屈していると、上の図に示された筋群の片側の筋肉は収縮し、もう片側は引き延ばされている状態になります。

そうするとどちら側の筋肉も生体長(元々の長さ)からは変化してしまい、本来持っている筋力が発揮できなくなってしまいます。

 

筋肉がもつ力を十分に発揮するためには、筋肉がもともとの長さの状態でることが重要です。

筋肉が生体長であるために、「真っすぐ座った状態」がベストです。

 

頭頚部が自由に動くことができる

 安全な嚥下・効率よい嚥下動作の視点から考えると、「頭頚部の位置」が大切です。

誤嚥を予防するなら軽度前屈させたいですし、食塊をどのルートで送り込むのかを調整するのには頭頚部の可動性が十分に保たれていることが前提です。

 

しかし、この頭頚部の可動性は可動域の問題だけでなく、姿勢の問題でも制限されることがあります。

姿勢の反射が保たれている場合には、頭は「姿勢を保とうとして動く」からです。

 

体が傾いているとバランスを保つために頭頚部が使用されます。

この時頭頚部は姿勢を保つために使われているので、バランスの崩れた体の方を整えず、その状態で頭頚部だけ動かそうとするととても抵抗感が大きくなります。

可動域が保たれていても、頭頚部がバランスを保つために使われている状態では、頭頚部は固定的になり効率の良い嚥下のために自由に使うことができなくなります。

 

頭頚部が固定的であると前述したような代償手段がとりにくいだけではなく、箸やスプーンに対して口唇が近づいていく動作が困難になります。

そのために食べこぼしが増えたり、効率の悪い食事動作を繰り返すため食事に疲れやすくなったりしてしまいます。

 

 もちろん、体の傾きのバランスを頭でとっているので頭頚部はまっすぐな状態ではなく、嚥下に関連する筋群は生体長から逸脱しており、嚥下動作の効率も悪いです。

 

頭頚部を自由に使えるようにするためにも、体がまっすぐなっていることが大切です。

 

上肢が自由に動くことができる

体が傾いていることで、頭頚部がバランス保持に使われてしまうという話を先ほどしました。

上肢もまた、体が傾いているとバランスを保つために使われてしまいます。

 

歩いていて躓いてバランスを崩した時、転びそうになった時、私たちは手を使いますよね。

近くにある何かに捕まって、バランスを取ります。

同じように、座っていても傾いていたら、私たちは崩れ落ちないように何かに捕まります。

片麻痺の方に多いですが、健側の手でアームレストを強く握りしめていらっしゃる方がいます。

このような動作は、上肢がバランス保持に使われていることを示す典型です。

 

その状態で行われる食事動作は、健側が利き手であっても粗大で効率の悪い方法になっていることがほとんどです。

 

麻痺がある場合にはセラピストが介入して身体感覚に対するアプローチをしていくことも重要ですが、それよりも一日3度の食事時に間違った身体感覚を与えない姿勢でいることも大切です。

 

真っすぐに座ることで、上肢は姿勢保持のため固定的に使われるのではなく、上肢の本来の機能を行いやすくなります。

(麻痺のある方はその方の頭の中の体のイメージや感覚が崩れている方もいらっしゃるので、一概に真っすぐ座ればOKとはならない方もいらっしゃいます。

そのようなタイプの方はセラピストの助言や介入の必要があるかと思います)

 

おわりに…

「食事の時は良い姿勢で!」と何となく思っていたことにも、ちゃんとした理由があります。

私たちはちょっと体が傾いたくらいの負荷に対して、それを負荷と感じないくらいに代償することができますが、高齢者の方やもとの筋力が低下している方々は違います。

「体が傾く」という少しの負荷でも、発揮できるパフォーマンスが大きく損なわれてしまうことが十分にあります。

毎日の楽しみである食事時に、その方がベストなパフォーマンスを発揮できるようサポートしていきましょう!!

 

参考文献

 

 

 

応用行動分析の視点から考えるBPSDへのアプローチ

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認知症ケアを行う中で、避けて通ることができないのが「BPSDへの対応」です。

暴言や暴力、収集癖や落ち着かないで動いて周る…

 

「何でこんなことをするんだろう?」

「どうしたら、この行動をやめさせられるのだろう?」

 

問題となる行動に遭遇するたびに、そんなふうに頭を抱えてしまうことが多くあるかと思います。

 

BPSDに対して「その方の気持ちによりそって」「生活リズムを整えて」「睡眠・排泄リズムを見直して」「服薬の再検討」などなどが一般的に対応としてあげられます。

 

STとして、高次脳機能の特性からその方が「どんな世界にいる」のかを推察すること、そこから環境調整をしていくことは、1つBPSD対応に役立てることができるのかなとは思っています。

ST的視点からのBPSDの分析方法についてはこちらの記事にまとめています。

 

ryo-kobayashi.hatenablog.com

 

生活リズムを整えること、見当識をサポートする環境設定をした上で、でもどうしようもない時どうしたらいいのか?

「寄り添えてないから」BPSDが軽減しないのか?

 

そんな時に考える1つの視点となるのが「応用行動分析」のアプローチです。

 

ここではざっくりと大枠をまとめさせていただきます。

応用行動分析による行動問題へのアプローチの考え方は、こちらの本にとても分かりやすく書いてあります!

こちらの本では対象がASDや知的障害の方などですが、認知症の方にも十分応用できる内容になっています。

 

 

応用行動分析(ABA)って何?

ABAとは、B.F.スキナーが創設した基礎研究としての行動分析学を、人々の生活上の困難を改善する目的で応用したものです。 …(中略)…ABAでは行動を「外から観察可能である」と捉えます。しかし全ての行動が外観から観察可能かというと、中には難しい行動(その人の思考や感情など)もあります。

ABAでは、その人の行動の原因をその人の内面(例えばこころや性格など)に求めることはしません。…(中略)…すなわち「その人の行動は、その人の周囲の環境との相互作用によって生じる」と考えます。…(中略)…ABAに基づく支援の目標とは、それら周囲の刺激(環境)をコントロールすることによって、その人の望ましい行動を増加させ、不適切な行動を減少させるというものです。

(施設職員ABA支援入門 村本譲司)

 

BPSDを応用行動分析学の視点から感がえる際の一番のポイントは

【行動問題を「環境」との関連で考える=「心の問題」を先に取り上げない】

この部分に尽きると思います。

具体的な考え方については後で触れていきます。

応用行動分析の元となる考え方

スキナーの名前は、少し心理学をかじったことのある方は聞いたことがあるかと思います。

心理学でスキナーの名前は「行動主義」「オペラント条件付け」等の用語と一緒に出てきますね。

今回ご紹介している「応用行動分析」も、「行動主義」の考え方に基づいています。

 

行動主義とは?

とてもとてもざっくりと「行動主義」とはどんな考え方なのかを誤解を恐れず表現すると、「目に見えない心の動きは、目に見える行動として観察可能である」という考え方です。

「心」はブラックボックスではあるけれど、入ってくる「刺激」を変化させることで、出現する「反応」は変化する。

刺激を変化させ生じる反応を観察することで、心的過程(心で起こっていること)を推察することができる。

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「生じる反応を、入ってきた刺激との関係で考えていく」

とざっくり考えて頂ければ大丈夫です。

 

応用行動分析の視点からアプローチを考える際も、問題となる行動(反応)を刺激との関係で考えます。

 

問題となる行動が「何故」起こるのか考える時、その原因を最初から「心の問題」(不安だから、寂しいから…)に求めるのではなく、その時の「状況」「環境」=刺激から考えます。

どんな環境下で、どんな刺激が周囲にある/本人に与えられた中で、その行動が起こったのかを観察します。

+αとして、その行動によって対象者がどんな「プラスの結果」を得たのかも評価します。

前掲した本には、行動問題の機能(働き)として「注目」「要求」「逃避・回避」「感覚」の4つが挙げられています。

 

ある刺激下・環境下で、ある反応をしたことで、それらの欲求が満たされる効果が得られた時、その反応は強化されます。

つまり、その反応を繰り返すようになるということです。

 

このように「行ったある行動に対して、報酬が与えられることで、その行動を起こしやすくなる」ようにすることが【オペラント条件付け】です。

 

オペラント条件付けとは?

オペラント条件付けの非常にざっくりとした内容は、先ほど述べた通りです。

パブロフの犬】で有名な「古典的条件付け」との差異は、「自発的な行動」の有無です。

 

古典的条件付けでは「餌」と「ベル」の対呈示により、本来「餌」でのみ生じる「唾液分泌」という反応が、「ベル」の刺激だけでも無意識で生じるようになります。

 

一方でオペラント条件付けにおいては、特定の「自発的な行動」に対し報酬が与えられること(=強化)によって、その行動がより起こりやすくなっていきます。

反対に、ある行動に対して罰(嫌なこと)が与えられると、その行動は起こりにくくなっていきます。

 

BPSDを「強化」してしまっている介護者の対応

先ほど行動問題には「注目」「要求」「逃避・回避」「感覚」の4つの機能があるとご紹介しました。

つまり、問題的な行動を起こすことによって、この4ついずれか/あるいは複数の欲求を満たすことになっている、という意味です。

 

この中で職員が気付かずに問題行動に対して「報酬」として与えてしまっている要素が「注目」です。

 

例えば、ところかまわず排尿していまう利用者さんがいたとします。

廊下で排尿されてしまった時、職員は慌てて駆け寄って、その利用者さんに対し言葉をかけ、触れて関わります。

もちろん見当識や排尿コントロールの問題はもちろんあるでしょうが、駆け寄って言葉をかけるその対応によって「私に関わってほしい」という「注目」の欲求が満たされてしまっています。

 

【廊下で排尿する→職員が来て自分に関わってくれる(=報酬・強化子)】の図式が成立してしまっているのです。

 

自分(職員)の声掛け、視線、笑顔、場合によっては「やめてください」「なんでそんなことをすんですか!」といった制止や叱責の言葉でさえも、その行動を「強化」する「報酬」となってしまうことを、ケアにあたる職員はよく肝に銘じておく必要があります。

 

 

じゃあ廊下で排尿されたり、まさに異食をしていたり、はたまた職員にセクハラをしてくるような場合どうしろって言うのよ!!となりますよね。

 

大事なのは職員の「過剰な反応」をやめることです。

廊下で排尿されても血相を変えて近寄るのではなく、淡々と処理をする。

セクハラは「やめてください」で距離をとる。視界から消える。

 

「なんてことするんですか」とわーわーずっと騒ぎ立ててしまうと「注目」が満たされてしまいます。

その場では淡々と対応し、必要以上の「注目」を与えることを避けます。

 

加えて、介護者は問題となる行動が起こった時には急いで駆け寄ったりと対応しますが、望ましい行動をしているときは「問題ないな」と思ってちらっと見るくらいで関わらないことが多いです。

注目されないこと・一人でいること・何もやることがない暇な状況は、問題行動を生み出しやすい環境です。

 

問題行動を減らし、望ましい行動を増やしていくためには、望ましい行動に対して報酬を与えていく必要があります。

つまり、好ましい状況(セクハラではない日常会話をしている、トイレで排尿できた)において、その方が問題行動で満たしていたものを強化子・報酬として与えていきます。

「注目」の機能が大きかったのならば、穏やかな日常会話ができる時間を毎日一定時間取ることで、その欲求が満たされるかもしれません。

 

【行動問題が生じた時の「過剰な対応」を避ける事+望ましい行動をしている時に「十分な強化」を行うこと】が、介護者の対応として望まれます。

 

現場ではどうしても問題となる行動が起こった時にだけ、対象者に関わることが多くなってしまいます。

反対に望ましい行動(穏やかに談笑している、レクや生活リハに参加している…)をしている方々は「大丈夫だな」と横目で見るだけで、積極的な関わりをその時にもちません。

 

当たり前にしてしまっているこの対応が、「行動問題に対し強化(=問題となる行動が起こった時に声掛けなど関わりをもつ)」、「望ましい行動に対し嫌悪刺激(=レクの場にはおとなしくいるけれど、うまく参加できず寂しい)」になってしまっている可能性があります。

 

問題となる部分だけを見るだけでなく、うまく過ごせている部分を見つけましょう。

増やしていきたい行動に対しては、積極的に「強化」を行っていくことが大切です!!

アプローチの考え方

ある行動問題が起こっている時。

まずは情報を集めましょう。

いつ、どんな状況で、どの程度その行動が起こっていて、その結果どうなったのか。

反対に、どんな時間・状況下では、その行動は起こっていないのか。

この時フォーカスする行動は、具体的で、回数を数えることができるものにします。

例)

「興奮」ではなく、「机をたたく」「大声で叫ぶ」

「暴力」ではなく、「杖を振り回す」

具体的に行動を指定するのは、アプローチする対象を明確化するためです。

回数を数えられることによって、介入による結果が測定可能になります。

 

そのように対象とする行動を定義した上で、その行動が起こりやすい条件、起こりにくい条件を探していきます。

 起こりやすい条件・結果を分析することで、その問題行動の機能を考えることができます。

騒がしい環境下で落ち着かない・何もすることが無くて落ち着かない、などの場合は、環境調整を行うことで問題行動が減少する場合もあります。

 

応用行動分析の考え方で行動問題を減らしていくには、「先行刺激」or「後続刺激」を変えていくのですが、行動問題に対し「罰」を与えてその行動を減らそうとすることは倫理に反する上に、一時的にしか効果がないとされています。

 

そのため、実際の介入では情報収集から仮説を立て、「先行刺激」=「環境」「状況」を変化させる手法を取ります。

 

そわそわしだす時間は?周りの状況は?歩き回ることで、スタッフはどう対応してその対応はその人に何を与えている?

落ち着いて過ごしている時間に対しても同様に観察・考察していきます。

 

起こりにくい条件の分析により、望ましい行動を増やすにはどうすればいいのかを考えるヒントになります。

また問題行動と同様の機能を持つ「代替行動」を考えていくことも有効です。

(例:大声を出す→職員が来てくれる

代替行動:NCを押す、ベルを鳴らす)

 

代替行動や望まれる行動の定着を促す方法については、また別のところでまとめていきたいと思います!

 

おまけの小話

応用行動分析による行動問題へのアプローチについて調べていると、「生活の質」「環境の多様性」の豊かな環境の方が、行動問題が生じにくい、という研究結果に出会いました。*1

つまり、退屈で暇ですることが何もない状況は行動問題・BPSDを起こしやすい。

楽しくやることがある状況では、そのような問題は起こりにくい。

 

この結果は、「生活リハ」を積極的に行っていく理由の1つになるのではないかなと思います。

レクリエーションを特定の時間に行うことももちろん有用ですが、それ以外の時間に「過剰な休憩→退屈」を生じさせないように、その方の好みと機能にあった活動を「生活リハ」として取り入れることでBPSDを予防していく。

 

そのような視点でリハプログラムを考えていくのもいいなと思っています!

 

参考文献

 

 

*1:できる!をのばす行動と学習の支援 山本淳一,池田聡

水分をゼリーにするか?とろみにするか?-評価・考え方のポイント

 

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水分の形態はゼリー/とろみ(濃い・中間・薄い・ごく薄い)で調整されている所が多いかと思います。

ゼリーととろみには、それぞれその特性に応じたメリット/デメリットがあります。

ゼリーを使っているから、とろみでは絶対飲めない!なんていうことではありません。

一方で、ゼリーは大丈夫だけれどもとろみには対応できない!という方もいらっしゃいます。(逆もまたしかり…)

それぞれの特性を活かして安全な経口摂取をサポートしていくことが大切です!

 

ゼリーととろみの物性についての細かな話はこちらに書いているので、気になる方はこちらも見てみてください! 

ryo-kobayashi.hatenablog.com

 

 

とろみとゼリー

「嚥下が危ない人にはとりあえずとろみ、それでもむせるならゼリー」

 

こんな風な考えの方が当施設の介護/看護にはとっても多いなと感じています…

施設STとしてもっと布教を頑張らないければいけないと身に染みて思います。

 

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こちらの学会分類をご覧になって分かるように、コード0には0t,0j、つまりは「とろみ」と「ゼリー」両方あります。 

開始食は必ずしも「ゼリー」と決まっているわけではなく、患者さんの機能によって使い分けましょう!という意味です。

 

ゼリーととろみを比較して、物としてどちらが安全!と決まっているわけではなく、対象とする患者さんによって難易度が変わってきます。

一概にゼリーの方が安全!と断言することはできず、その方にとってはもしかすると「とろみ」の方が安全に摂取できるかもしれません。

その可能性を考えて評価していく必要があります!

 

ゼリーの特性

とろみと比較した分かりやすいゼリーの特徴は「ツルツルしている」ことです。

「つるつる/べたべた」の性質を「付着性」と言います。

ゼリーは付着性が低いです。付着性が低いので、飲み込んだ時にのどにべたべたとくっついて残留しにくく、するんと入っていくことが期待されます。

 

STとしてゼリーに期待する効果の1つは、この咽頭残留しないで飲み込まれる」ことです。

のどに残っていた残留とともに、ゼリーが一緒にするんと飲み込まれると残留が綺麗にクリアされます。

よく聞く「ゼリーを使った交互嚥下」というのはこの効果を狙っています。

付着性の高いものがのどに残っても、その後のゼリーで綺麗に全部飲み込んだらのどには何もない状態になります。

 

逆に言えば、STは「ゼリーが残留すること」を恐れています。

ゼリーは付着性が低いので、のどに残ってしまった場合、その場所に張り付いて留まることができません。簡単にぽろりと気管側に落ちてしまう可能性が極めて高い。

ゼリーはするんと綺麗に飲み込めれば安全で咽頭リアランスを図れるメリットがありますが、残留してしまうと誤嚥のリスクが一気に上がります。

そのため、「ゼリーは残留させない!」が鉄則です!

つまりは、「量の調整」が重要となってきます。

 

少し話がそれますが、ゼリーをクラッシュさせて介助している場面を当施設ではまだよく見かけます…

一般的に「ゼリーは凝集性が高い」と言われています。

凝集性とはまとまっている、という事です。口の中やのどで散らばりにくく、一塊、ひとまとまりになっているという性質です。

 

ゼリーはスライス型など配慮した塊の形で摂取すれば、凝集性が高いです。

しかしクラッシュしてしまうと、反対に凝集性は低くなります。(バラバラになっているので)

 

凝集性が低いことのデメリット

・食塊形成に不利(刻み食が嚥下機能の低下した方におすすめできないのもこの理由)

薄切りキュウリにおける咀嚼量の増加 (jst.go.jp)

・送り込み-嚥下圧が分散する(凝集性高いと圧が一点集中するが、凝集性低いと圧が散らばる)

 

ゼリーをクラッシュすると、ゼリーが本来持つ凝集性を低くし、デメリットを増悪させます。

「凝集性が低い+ゼリーの持つ付着性の低さ」により、のどに残った場合はより気管側へぽろりと落ちていってしまいやすくなります!

 

嚥下障害がない方、咽頭期障害が無い方に行う分には大丈夫だと思いますが、咽頭期機能が低下している方にゼリーをクラッシュして摂取してもらうのはリスクが大きいです…。

ましてクラッシュしたゼリーをカレースプーン一杯まるまる口に入れる…なんていうのは誤嚥のリスクが非常に高いです。

 

つまり、ゼリーはクラッシュせず一塊で、残留しない量で摂取するのが重要です!

そうすることで、ゼリーの特性(付着性が低い、凝集性が高い)を効果的に利用することができます!

(そのため、ゼリーを咀嚼をしてしまう方はゼリーのメリットが発揮し辛いです

 

とろみの特性

ゼリーはつるつるとして付着性が低い物性でしたが、反対にとろみはべたべたとしていて付着性が高いです。

とろみによりまとまりがあるので、凝集性は高い物性です

 

付着性が高いのでのどにべたっと張り付いて残りやすいというデメリットはありますが、反対に残留してもそのままのどの張り付いているだけで気管の方へ零れ落ちていきにくメリットがあります。

 

また、とろみをつけることで「流入速度」を遅くすることができます。

のどの筋力が落ちゆっくりになる動きに流入速度を合わせることができます。

嚥下機能が落ちた方に対して「お水は危ないのでとろみをつけましょう!」と言う時に期待されているのは多くの場合この流入速度を落とす」効果です。

 

とろみはその方に合わせた濃度の調整、一口量の調整が大切です!

「濃くすれば安全」というわけではありません!!

濃くしすぎれば飲み込むのに力が余分に必要となり、残留を増やしてしまうことにも繋がります。

そのようにとろみを濃くしすぎた状態で、たくさんの量が入れられてしまうと、最悪の場合窒息に繋がってしまいます…。

 

その方が綺麗に安全に飲み込める濃さ/量を評価していく事が大切です

とろみの場合は一回のごっくんで残留したとして、残ったものをどうクリアランスするかも一緒に考える必要があります!

指示が入り前屈位が取れたり空嚥下が可能、咳払いができたり、一回のごっくんの後に反射的に追加嚥下が起こるなら、とろみの方がゼリーよりも有効かもしれません。

 

おわりに…

ゼリーととろみ、どちらにもメリットデメリットがあります。

個人的には両方使うのもありだな…と思うことも多くあります。

量的・質的「交互嚥下」では「べたべた一杯→つるつるスプーン半量」と交互に摂取していく事で咽頭リアランスを図っていきます。

その手法をとるときには、とろみとゼリー両方あった方が便利です。

食事場面ではミキサー食はべたべたしていることが多いので、水分はゼリーの方が交互嚥下しやすいです。

 

その方の機能にあった形態をきちんと評価して、安全な経口摂取を進めていきたいですね!

 

参考文献

 

特養STが考える「嚥下体操」ー特養・施設で行う口腔体操・嚥下体操

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誤嚥性肺炎】が日本人の死因の上位にランクインしてから、【嚥下】という言葉は一気に耳馴染みのあることばに変わってきましたね。

施設で食事の前に、「口腔体操」や「嚥下体操」を行うようになった所も増えたのではないでしょうか?

 

何となくやっていてももちろん意味はありますが、どうせやるなら「何故この動きをするのか」分かっていた方が面白いですよね!

 

ということで、今回は私が特養でしている「嚥下体操」「口腔体操」をご紹介+意図の解説をしていきます!

 

藤島式嚥下体操

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上の図は藤島先生が考案された嚥下体操です。

私はこちらの嚥下体操をベースに、唾液腺マッサージ、嚥下おでこ体操を加えて嚥下体操を行っています。

 

深呼吸

安全な食事摂取には、【呼吸機能】が保たれていることが大切です。

喉頭侵入してしまった際に、しっかりと強い咳で侵入した食塊を外に出せる」ことが、安全な食摂取には必要不可欠だからです。

 

鼻から吸って、口をすぼめて「ふー」と吐くことでしっかりと呼吸をすることができます。

「吸う時に手を上げる+吐く時に下げる」動作を加えると、胸郭の動きをサポートすることができ、より深く呼吸をすることができます。

 

リハビリ用の棒(新聞紙丸めてビニールテープで巻いたものでOK)があれば、棒体操として胸郭可動域訓練を行うことができます!

 

・両手で棒をもって上下+深呼吸

・両手で棒の端をもって体をひねる

・手を上に上げて、体幹を左右に倒す

 

棒を使うと「体操してる!」感がでるのでおすすめです!

 

首の運動

食べる前に首のストレッチをすることで、「ごっくん」と飲み込む時に動く筋肉が動きやすくなります。

 「ごっくん」の時に動く筋肉の位置や関係については、下の記事を見てみてください!

 

ryo-kobayashi.hatenablog.com

 

頚部の前屈/後屈(下を向く/上を向く)

左右の側屈(左右に首をかしげる

左右の回旋(首をひねる)

をやっていきましょう!

できる方には自分の手(もしくは介助して)で伸ばすともっとしっかりと伸ばすことができます。

「痛気持ちいい」程度に伸ばしていきましょう!

 

肩の運動

嚥下に関連する筋肉は、肩甲帯ともつながっています。

肩の動きが悪くなる、肩甲帯が固まってしまうと、嚥下に関連する筋肉が十分に動くことができません。

肩の筋肉をほぐすことで、嚥下に関係する筋肉も動きやすくすることができます。

 

肩の上げ下げ(きゅっと上げて、すとん、と落とす)

肩にてをあてて、前/後ろへ回す

 

唾液腺マッサージ

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yosii.png (639×343) (kureishi.net)

加齢により安静時の唾液分泌は減ると言われていますが、刺激による唾液の分泌は変わらないとされています。(())

口に入れた食べ物をかみ砕いた後、飲み込みやすいように一塊にするには唾液が必要です。

また、食べ物の味は唾液に混ざり味蕾で感じることができます。唾液が不十分であると、食べ物の味を薄く感じたり、感じられなかったりすることがあります。

 

食事の前に唾液分泌を促すことで、①食塊形成を助ける②味を感じやすくする

効果があります。

 

頬・口唇・舌の運動

 口腔器官は咀嚼・食塊形成の際にフル活用される部分ですね!

スポーツをする前に準備運動で軽く走ったりするように、食事前に動かしておくと食事の時に動きやすくなります!

 

頬を膨らます/へこます

口を大きく開ける「あ」→「ん」と思いっきり閉じる

唇を「い」→「う」

舌を思いっきり前に出す(できれば水平に)

舌の上下運動

舌の左右運動

 

舌の運動の際には、顎や首が一緒に動かないように意識してもらえるとなお良いです!

よく舌を上に動かすと首も一緒に上を向いていたり、下が右にいくと顎も一緒に右に動いている方が多くいらっしゃいます。

 

効率の良い食塊形成には、舌-下顎が分離して協調的に動くことが必要です。

赤ちゃんははじめ下顎-口唇-舌が一体化して動いていますが、徐々に分離して動かすことを獲得していき、母乳→離乳食→普通の食事と食べられるものが増えていきます。

 

高齢者の方で、特にペースト食を召し上がっている方はこの下顎と舌の分離運動が難しくなっている方が多い印象です。

ペースト食は基本的に食塊形成が必要のない形態(丸のみできる形態)であるため、下顎と舌の分離運動が不十分であっても飲み込めるようになっています。

 

分離運動の低下とペースト食の開始がどちらが先であるのかはいわゆる「にわとりタマゴ」の話になってしまいます…

 

分離運動は姿勢ともかかわってきています。

この辺りの話はまた複雑になってきますので、また別にまとめてみたいと思います!

 

発声訓練・パタカラ体操

 「発声」は「声を出す」ことが目的です。

有声音(母音や特定の子音)を出す際には、声帯が閉まっています。

食塊が気管に落ちてしまいそうになっても、この声門閉鎖がしっかりとできていれば、防ぐことができる確率が上がります!

発声訓練は呼吸機能+声門閉鎖にアプローチすることを目的にしています。

 

声門閉鎖に選択的にアプローチする方法もあります(pushing/pulling法)

 

パーキンソン病の方がいる施設も多いと思うので、「なるべく大きな声を出しましょう」という指示を加えてみても良いと思います!

 

「低い声→高い声、高い声→低い声」と高さを変えていく事も、喉頭を自由に動かすエクササイズになります。

一回一回区切らずに息を続けて行うと、長く息を吐く運動にもなります。

複数のことを同時に行うと負荷は高くなりますので、利用者さんたちの機能や状態に合わせてプログラムしていきましょう!

 

パタカラ体操

パタカラ体操も、すっかり有名になりましたね!

「パ」で口唇閉鎖

「タ」で舌尖と口蓋の閉鎖(アンカー機能)

「カ」で奥舌と口蓋の閉鎖(舌ー口蓋閉鎖)

「ラ」で舌尖の細かな動き

を行う練習になっています。

 

まずは一つ一つの動作がしっかりとできるところから始めましょう!

スピードはそれぞれの動作が正確にできる範囲であげていきます。

集団で行うことが多いと思うので、「なるべく早く」ではなく「ゆっくりしっかり10回」などの教示で行うのが良いと思います!

個別に行う場合は、その方の機能に合わせてスピードを変えていきましょう!

 

嚥下おでこ体操

舌骨上筋群の筋トレです!

食事前に行うことで、即時効果が得られるとされています!

おでこを手のひらで押して押し返す、両手の親指で顎の下を押して押し返す…など色んなやり方が紹介されています。

おすすめは、【顎のしたにこぶし大のボールを入れて潰す】方法です!

 

おすすめの理由は、単純にやり方が分かりやすい!!

 

 

100均で売っているような、こんなボールでOK!

10秒潰し続ける/10回潰す、どちらの方法でも良いです!

 

おわりに…

どんな意味でやっているのかを伝えることで、体を動かすことに乗り気になる利用者さんもいます!

効果を知った上で、楽しく体操をしていきましょう!

 

参考文献

 

認知症のコミュニケーション障害への対応ー話題の選び方ー

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認知症の方にとって「昔の話」が一番簡単なのか?

認知症になっても、長期記憶は比較的保たれる」

「だから、昔の話題だったら認知症の方でも楽しく話せるだろう」

 

そう考えて話してみて、それでもなんだかうまくいかない…話題がころころ変わってしまう…

そんなご経験をされた方、多いと思います。

 

認知症の方の長期記憶が比較的保たれるのはよく言われることであり、昨日の話をするよりは、その方の昔の話をした方が記憶に残っている可能性は高いです。

 

「話してみて」「コミュニケーションとってみて」と言われると、何となく「昔の話」をしてしまいがちですよね…。

生活歴の情報収集の側面や回想法っぽいことをやっている!という面もありますし、それが悪いわけでは決してありません。

けれど、「昔の話なら問題なくできるだろう」という先入観でいくと、うまくいかないことがあります。

 

果たして、「昔の話」をするのが認知症の方にとって一番簡単なのか?

ここで言う【簡単】とは、「コミュニケーション」以外にどの程度のエネルギーを要するのか、という意味です。

 

「相手の話を聞いて、返答する」という部分以外に、やらなければならない事が多い話題は、その方にとって「難しい話題」になるのは想像に難くないと思います。

 

という事で、今回は認知症の方にとって、簡単な話題とは何か?」について考えていきます!

(妨害刺激・環境/質問呈示の方法などももちろん絡んできます。この辺りの話は、また別の所でまとめたいと思います。)

 

話題と認知的資源

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スピーチチェーン

上の図はスピーチチェーンと言って、音声言語でのコミュニケーションの過程を図式化したものです。

 

私たちは相手の言葉を音として聞き、頭でその内容を理解し、それに対する返答を考えます。

考えた返答を運動に変換し、構音運動により言葉を音にして相手に伝えます。

 

inputを行う時だけでも、私たちは普段

・聞いた言葉を保持する

・言葉を理解する

・理解した内容から返答を考える(内容に対する思考)

という少なくとも3つの事をほぼ同時に行っています。

 

私たちの脳をパソコンと考えてみると、「話を聞いて理解する」という処理は、それだけで既に3つのファイルを開いた状態です。

新しいパソコンなら何の問題もなくどの作業も可能ですが、容量の少ない古いパソコンではどうなるでしょうか?

少し動きが遅くなったり、もしかするとどれかが止まってしまっていたりするかもしれません。

 

認知症は私たちの頭にある「パソコン」の容量が小さくなってしまう病気です。

一度に一個ずつなら問題なく処理できても、Youtubeを開きながらPowerpointで資料作って、ネットで文献も調べて…なんてことをするとフリーズしてしまう…。

 

「話を聞いて理解する」という作業は、それだけでも複数作業の同時処理が必要になります。

それは脳のパソコンの容量をかなり消費する作業です。

何気なく行っている「コミュニケーション」は、単一の簡単な作業ではありません。

そこをまず、押さえておきましょう!

 

認知的資源?

 

 

 「認知的資源」という考え方は、こちらの本がとても参考になります!

著者の鈴木大介さんは脳梗塞による高次脳機能障害の当事者です。

高次脳機能障害による心身の変化、高次脳機能障害のある方の前に立ち現れる「世界」がどんなものなのか、「世界」がどう感じられているのか、どのような支援が望ましいのかを分かりやすく書いてくださっています。

高次脳機能障害認知症の方に関わる方は、ぜひとも読んでみるべき本だと思います!

 

話を戻します!

認知的資源とは、先ほど話した「頭の中のパソコンの容量」のようなものです。

認知症の方は、そもそも認知的資源(パソコンの容量)が少なくなっています。

 

 それに加えて、外部環境からの刺激を受けやすくなっていたり、作業効率が悪くなっていたりと、1つの作業に使うエネルギーが大きくなっています。

 

だから「話」に集中してもらうには、外部からの刺激を少なくする(静かな場所で、物がごちゃごちゃしてない、人の往来が少ない…)ことがまず必要です。

 

その上で「話題」の選定について考えます。

認知症の方にとって「簡単」な話題とは、この「認知的資源」の消耗の少ない話題です。

 

認知的資源と話題

最初に例に挙げた「昔の話」について、認知的資源の視点から考えてみましょう。

「昔の話」は「昔」の「出来事」ですから、それを掘り起こして話すためには長期記憶・エピソード記憶をたどる必要があります。

 

 この時頭のパソコンで行われる作業は

・言語理解

・質問内容の保持

・記憶をたどる

・返答を考える

おおよそこの4つを同時に行うことになります。

 

「記憶をたどる」+「質問の保持」はぐっと集中する、エネルギーを大きく消費する作業です。

だから、「記憶をたどる」をしている最中に「質問の保持」ができなくなってしまう…ということはよく起こります。

 

頭の中で「保持」しなければいけない情報が増えるほど、パソコンは容量を食われ、認知的資源は減少していきます。

 

逆に言えば、その情報が外部で呈示されている状況であれば、頭の中にその情報を保持しておく必要がなくなり、負担が軽くなるのです。

 

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このようなリンゴの絵を目の前に見せたままで「リンゴは好きですか?」と聞くとします。

目の前にリンゴの絵が呈示されたままなので、「リンゴの話をしている」という部分を保持しておく負担が軽くなります。

文字理解が良好な方でしたら、プラスして文字で「リンゴは好きですか?」と書いておけば、質問内容の保持への負担がもっと軽くなります。

 

認知的資源から考えると、このように「現前事象」「目の前にあるもの」に関する話題がエネルギーの消耗が少なく返答しやすいです。

 

内容を保持する、思い出すなどの頭での作業が必要となるほど、「保持しながら、思い出しながら」考える、エネルギーを大きく使うものになり難易度が上がります。

 

・覚えておく

・思い出す

・考える

この要素が入ってくる程、認知的負荷は大きくなります。

認知的負荷がその方の使える認知的資源の容量をオーバーしてしまうと、どこかが零れ落ちてしまったり、キャパオーバーでもういや!!とパニックになってしまわれる方もいらっしゃいます…

 

「この方は昔の話をするのが嫌なんだな」「話しかけられるのが嫌なんだな」と早合点してしまう前に、話題による負荷の影響も考えてみる必要があるかと思います。

 

ざっくりとした話題の難易度は以下のようになります。

 

話題の難易度(易→難)

 

・快/不快(痛み、うなり声など)

・現前事象

・自己身辺事象(ADLについてなど)

・親密度の高い話題(家族の話など)

・抽象的なやりとり(政治や歴史の話、時事問題など)

 

おわりに…

コミュニケーションは人間が人間として生きていくために必要不可欠です。

人は人として扱われることで、人として生きていく事ができます。

「人として扱われている」と人が感じるために、コミュニケーションによる「承認」が必要です。

安易に「この人は話すのが嫌い」「話せない」「理解できない」と判断してしまうと、その方の「人としての尊厳」を大きく損なってしまいます…。

 

セラピスト・介護職が日々接する方々は、そんなコミュニケーションに障害がある方々が多くいらっしゃいます。

専門職としてその方々に合った適切なコミュニケーション方法を提供していきたいですね!