ST介護職の考え事

認知症・高次脳機能・ケアについての覚え書き

応用行動分析の視点から考えるBPSDへのアプローチ

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認知症ケアを行う中で、避けて通ることができないのが「BPSDへの対応」です。

暴言や暴力、収集癖や落ち着かないで動いて周る…

 

「何でこんなことをするんだろう?」

「どうしたら、この行動をやめさせられるのだろう?」

 

問題となる行動に遭遇するたびに、そんなふうに頭を抱えてしまうことが多くあるかと思います。

 

BPSDに対して「その方の気持ちによりそって」「生活リズムを整えて」「睡眠・排泄リズムを見直して」「服薬の再検討」などなどが一般的に対応としてあげられます。

 

STとして、高次脳機能の特性からその方が「どんな世界にいる」のかを推察すること、そこから環境調整をしていくことは、1つBPSD対応に役立てることができるのかなとは思っています。

ST的視点からのBPSDの分析方法についてはこちらの記事にまとめています。

 

ryo-kobayashi.hatenablog.com

 

生活リズムを整えること、見当識をサポートする環境設定をした上で、でもどうしようもない時どうしたらいいのか?

「寄り添えてないから」BPSDが軽減しないのか?

 

そんな時に考える1つの視点となるのが「応用行動分析」のアプローチです。

 

ここではざっくりと大枠をまとめさせていただきます。

応用行動分析による行動問題へのアプローチの考え方は、こちらの本にとても分かりやすく書いてあります!

こちらの本では対象がASDや知的障害の方などですが、認知症の方にも十分応用できる内容になっています。

 

 

応用行動分析(ABA)って何?

ABAとは、B.F.スキナーが創設した基礎研究としての行動分析学を、人々の生活上の困難を改善する目的で応用したものです。 …(中略)…ABAでは行動を「外から観察可能である」と捉えます。しかし全ての行動が外観から観察可能かというと、中には難しい行動(その人の思考や感情など)もあります。

ABAでは、その人の行動の原因をその人の内面(例えばこころや性格など)に求めることはしません。…(中略)…すなわち「その人の行動は、その人の周囲の環境との相互作用によって生じる」と考えます。…(中略)…ABAに基づく支援の目標とは、それら周囲の刺激(環境)をコントロールすることによって、その人の望ましい行動を増加させ、不適切な行動を減少させるというものです。

(施設職員ABA支援入門 村本譲司)

 

BPSDを応用行動分析学の視点から感がえる際の一番のポイントは

【行動問題を「環境」との関連で考える=「心の問題」を先に取り上げない】

この部分に尽きると思います。

具体的な考え方については後で触れていきます。

応用行動分析の元となる考え方

スキナーの名前は、少し心理学をかじったことのある方は聞いたことがあるかと思います。

心理学でスキナーの名前は「行動主義」「オペラント条件付け」等の用語と一緒に出てきますね。

今回ご紹介している「応用行動分析」も、「行動主義」の考え方に基づいています。

 

行動主義とは?

とてもとてもざっくりと「行動主義」とはどんな考え方なのかを誤解を恐れず表現すると、「目に見えない心の動きは、目に見える行動として観察可能である」という考え方です。

「心」はブラックボックスではあるけれど、入ってくる「刺激」を変化させることで、出現する「反応」は変化する。

刺激を変化させ生じる反応を観察することで、心的過程(心で起こっていること)を推察することができる。

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「生じる反応を、入ってきた刺激との関係で考えていく」

とざっくり考えて頂ければ大丈夫です。

 

応用行動分析の視点からアプローチを考える際も、問題となる行動(反応)を刺激との関係で考えます。

 

問題となる行動が「何故」起こるのか考える時、その原因を最初から「心の問題」(不安だから、寂しいから…)に求めるのではなく、その時の「状況」「環境」=刺激から考えます。

どんな環境下で、どんな刺激が周囲にある/本人に与えられた中で、その行動が起こったのかを観察します。

+αとして、その行動によって対象者がどんな「プラスの結果」を得たのかも評価します。

前掲した本には、行動問題の機能(働き)として「注目」「要求」「逃避・回避」「感覚」の4つが挙げられています。

 

ある刺激下・環境下で、ある反応をしたことで、それらの欲求が満たされる効果が得られた時、その反応は強化されます。

つまり、その反応を繰り返すようになるということです。

 

このように「行ったある行動に対して、報酬が与えられることで、その行動を起こしやすくなる」ようにすることが【オペラント条件付け】です。

 

オペラント条件付けとは?

オペラント条件付けの非常にざっくりとした内容は、先ほど述べた通りです。

パブロフの犬】で有名な「古典的条件付け」との差異は、「自発的な行動」の有無です。

 

古典的条件付けでは「餌」と「ベル」の対呈示により、本来「餌」でのみ生じる「唾液分泌」という反応が、「ベル」の刺激だけでも無意識で生じるようになります。

 

一方でオペラント条件付けにおいては、特定の「自発的な行動」に対し報酬が与えられること(=強化)によって、その行動がより起こりやすくなっていきます。

反対に、ある行動に対して罰(嫌なこと)が与えられると、その行動は起こりにくくなっていきます。

 

BPSDを「強化」してしまっている介護者の対応

先ほど行動問題には「注目」「要求」「逃避・回避」「感覚」の4つの機能があるとご紹介しました。

つまり、問題的な行動を起こすことによって、この4ついずれか/あるいは複数の欲求を満たすことになっている、という意味です。

 

この中で職員が気付かずに問題行動に対して「報酬」として与えてしまっている要素が「注目」です。

 

例えば、ところかまわず排尿していまう利用者さんがいたとします。

廊下で排尿されてしまった時、職員は慌てて駆け寄って、その利用者さんに対し言葉をかけ、触れて関わります。

もちろん見当識や排尿コントロールの問題はもちろんあるでしょうが、駆け寄って言葉をかけるその対応によって「私に関わってほしい」という「注目」の欲求が満たされてしまっています。

 

【廊下で排尿する→職員が来て自分に関わってくれる(=報酬・強化子)】の図式が成立してしまっているのです。

 

自分(職員)の声掛け、視線、笑顔、場合によっては「やめてください」「なんでそんなことをすんですか!」といった制止や叱責の言葉でさえも、その行動を「強化」する「報酬」となってしまうことを、ケアにあたる職員はよく肝に銘じておく必要があります。

 

 

じゃあ廊下で排尿されたり、まさに異食をしていたり、はたまた職員にセクハラをしてくるような場合どうしろって言うのよ!!となりますよね。

 

大事なのは職員の「過剰な反応」をやめることです。

廊下で排尿されても血相を変えて近寄るのではなく、淡々と処理をする。

セクハラは「やめてください」で距離をとる。視界から消える。

 

「なんてことするんですか」とわーわーずっと騒ぎ立ててしまうと「注目」が満たされてしまいます。

その場では淡々と対応し、必要以上の「注目」を与えることを避けます。

 

加えて、介護者は問題となる行動が起こった時には急いで駆け寄ったりと対応しますが、望ましい行動をしているときは「問題ないな」と思ってちらっと見るくらいで関わらないことが多いです。

注目されないこと・一人でいること・何もやることがない暇な状況は、問題行動を生み出しやすい環境です。

 

問題行動を減らし、望ましい行動を増やしていくためには、望ましい行動に対して報酬を与えていく必要があります。

つまり、好ましい状況(セクハラではない日常会話をしている、トイレで排尿できた)において、その方が問題行動で満たしていたものを強化子・報酬として与えていきます。

「注目」の機能が大きかったのならば、穏やかな日常会話ができる時間を毎日一定時間取ることで、その欲求が満たされるかもしれません。

 

【行動問題が生じた時の「過剰な対応」を避ける事+望ましい行動をしている時に「十分な強化」を行うこと】が、介護者の対応として望まれます。

 

現場ではどうしても問題となる行動が起こった時にだけ、対象者に関わることが多くなってしまいます。

反対に望ましい行動(穏やかに談笑している、レクや生活リハに参加している…)をしている方々は「大丈夫だな」と横目で見るだけで、積極的な関わりをその時にもちません。

 

当たり前にしてしまっているこの対応が、「行動問題に対し強化(=問題となる行動が起こった時に声掛けなど関わりをもつ)」、「望ましい行動に対し嫌悪刺激(=レクの場にはおとなしくいるけれど、うまく参加できず寂しい)」になってしまっている可能性があります。

 

問題となる部分だけを見るだけでなく、うまく過ごせている部分を見つけましょう。

増やしていきたい行動に対しては、積極的に「強化」を行っていくことが大切です!!

アプローチの考え方

ある行動問題が起こっている時。

まずは情報を集めましょう。

いつ、どんな状況で、どの程度その行動が起こっていて、その結果どうなったのか。

反対に、どんな時間・状況下では、その行動は起こっていないのか。

この時フォーカスする行動は、具体的で、回数を数えることができるものにします。

例)

「興奮」ではなく、「机をたたく」「大声で叫ぶ」

「暴力」ではなく、「杖を振り回す」

具体的に行動を指定するのは、アプローチする対象を明確化するためです。

回数を数えられることによって、介入による結果が測定可能になります。

 

そのように対象とする行動を定義した上で、その行動が起こりやすい条件、起こりにくい条件を探していきます。

 起こりやすい条件・結果を分析することで、その問題行動の機能を考えることができます。

騒がしい環境下で落ち着かない・何もすることが無くて落ち着かない、などの場合は、環境調整を行うことで問題行動が減少する場合もあります。

 

応用行動分析の考え方で行動問題を減らしていくには、「先行刺激」or「後続刺激」を変えていくのですが、行動問題に対し「罰」を与えてその行動を減らそうとすることは倫理に反する上に、一時的にしか効果がないとされています。

 

そのため、実際の介入では情報収集から仮説を立て、「先行刺激」=「環境」「状況」を変化させる手法を取ります。

 

そわそわしだす時間は?周りの状況は?歩き回ることで、スタッフはどう対応してその対応はその人に何を与えている?

落ち着いて過ごしている時間に対しても同様に観察・考察していきます。

 

起こりにくい条件の分析により、望ましい行動を増やすにはどうすればいいのかを考えるヒントになります。

また問題行動と同様の機能を持つ「代替行動」を考えていくことも有効です。

(例:大声を出す→職員が来てくれる

代替行動:NCを押す、ベルを鳴らす)

 

代替行動や望まれる行動の定着を促す方法については、また別のところでまとめていきたいと思います!

 

おまけの小話

応用行動分析による行動問題へのアプローチについて調べていると、「生活の質」「環境の多様性」の豊かな環境の方が、行動問題が生じにくい、という研究結果に出会いました。*1

つまり、退屈で暇ですることが何もない状況は行動問題・BPSDを起こしやすい。

楽しくやることがある状況では、そのような問題は起こりにくい。

 

この結果は、「生活リハ」を積極的に行っていく理由の1つになるのではないかなと思います。

レクリエーションを特定の時間に行うことももちろん有用ですが、それ以外の時間に「過剰な休憩→退屈」を生じさせないように、その方の好みと機能にあった活動を「生活リハ」として取り入れることでBPSDを予防していく。

 

そのような視点でリハプログラムを考えていくのもいいなと思っています!

 

参考文献

 

 

*1:できる!をのばす行動と学習の支援 山本淳一,池田聡