プロセスモデルとstageⅡtransport-液体を噛んで飲むのは危ない!
咀嚼を必要とする嚥下=プロセスモデル
液体嚥下やゼリー・ペースト食の丸飲みの嚥下様式は5期モデルで説明できます。
しかし、咀嚼を必要とする嚥下では、ちがった要素が入ってきます。
嚥下5期モデルでは、口腔内に未咀嚼の食物が残留している状態でありながら、咀嚼された食物を嚥下するという動作は介在していません。
その部分を入れてモデル化されているのがプロセスモデルです。
咀嚼嚥下のプロセスモデルで特徴的な、
stage Ⅰ transport ⇒processig(咀嚼)⇒stage Ⅱ trasport
に焦点を当ててまとめていきます。
Stage Ⅰ transport
食物捕食後の舌によって、食物を臼歯まで運ぶ運動を指す。
捕食後に食物を舌背上にのせ、開口とともに舌全体が後下方へと動き、その後外側へ回転することで食物を下顎の咬合面へとのせる。舌の「プルバック」運動(pull back)と呼ばれている。
食べ物が口の中に入った後、咀嚼をするために臼歯部咬合面へ食べ物を乗せなければなりません。
その動きがstage Ⅰ transportです。
例え歯がそろっていても、舌運動が不十分でこの動きがうまくいかなければ、咀嚼し食塊形成を行うことができません。
stage Ⅰ trasportのために必要なのは、舌の左右運動の動きです。
この動きが可能かどうか評価するには、舌側縁にスポンジブラシ等で触れて軽く圧迫し、押し返す動きがどの程度であるかみるとよいです。
proessing(咀嚼)
捕食した食物を咀嚼して粉砕し、唾液と混ぜ湿潤させ、嚥下しやすい食塊とするプロセスである。咀嚼は顎運動だけでなく、それに協調した舌、舌骨、軟口蓋などの動きによって成り立っている。
舌の動き
咀嚼中舌は下顎の運動に連動しながら、前後・左右・上下方向へ動き、そこに回転運動も加わっています。
舌は頬とともに、噛んだ時に咬合面から外側に押し出された食べ物を咬合面上に戻すように内側へと押しています。
また、舌は咀嚼中の回転運動により、咀嚼した食べ物の一部、または全体を反対側へと運び、stage Ⅱ transportのために舌背上へと食物上に乗せる動きをしています。
軟口蓋の動き
軟口蓋は咀嚼中、stage Ⅱ transport中下顎の運動に連動して挙上しています。
しかしこの挙上は強いものではなく、鼻咽腔を閉鎖しない程度の軽いものです。
咀嚼中軟口蓋は開口とともに挙上し、閉口とともに下降しています。
この咀嚼中の軟口蓋の運動は吸気時の方が呼気時よりも頻度が高く、吸気時の上気道確保のためではないかと考えられています。
舌骨の動き
舌骨は舌骨上筋、舌骨舌筋群を介して頭蓋、下顎、胸骨、甲状軟骨をつなげています。
その筋肉のつながりによって、食事の際の下顎と舌の運動をコントロールする役割を、舌骨は担っています。
舌骨も咀嚼中動いていますが、下顎や舌の運動ほど一定していません。
stage Ⅱ transport
咀嚼された食べ物は、唾液に混ぜられてある程度嚥下できる性状になると、舌の中央部に集められ、舌と口蓋によって絞り込まれるように中咽頭へと送り込まれます。この送り込みがstage Ⅱ transportと呼ばれる。
この咽頭への送り込みは、口腔内にまだ食べ物が残っている状態でも生じます。
送り込まれた食塊は、喉頭蓋谷で個別の固有量まで貯留した時、まだ口腔内に食べ物があっても嚥下されます。
プロセスモデルの咀嚼/stage Ⅱ transport が図で斜めに区切られていることが示すように、この二つは並行して行われています。
この部分が、液体・丸呑みのモデルと大きくことなります。
液体嚥下では、口腔内に食塊がある際は口峡は閉鎖して咽頭への流入を防いでいます。
プロセスモデルでは、口峡は開いています。
咀嚼しながら、処理の終わったものはじわじわと咽頭へ送り込まれています。
ちなみに咀嚼しているものが咽頭へ送り込まれているかどうかは、喉頭の運動の有無・口腔底に触れて運動の有無を観察してみましょう。
喉頭が動いていて、口腔底に動きがあれば、食塊は咽頭へ送り込まれていると考えられます。
「牛乳を噛んで飲む」のは危ない
液体嚥下とプロセスモデルでは、口腔に食塊がある時の口峡閉鎖の有無に違いがあります。
また、咀嚼することでstage Ⅱ transportが生じ、食塊は徐々に咽頭へ流入していきます。
もちろん、咀嚼回数が増えるほど、咽頭への流入量は増加します。
そのため歯の喪失、義歯の使用などで咀嚼回数が増加+咽頭感覚閾値が上昇している高齢者は誤嚥のリスクが高まります。
のどに貯留できる量を超えて食塊が流入してしまえば、あふれて気管に入ってしまうかもしれません。
また嚥下反射惹起遅延により、咽頭にたくさん食塊がある状態で嚥下反射が起こってしまい、あふれかえったものを誤嚥してしまうことが想定されます。
たまに「牛乳は噛んで飲むとよい」という高齢者の方がいらっしゃいます。
これは嚥下としてはとてもリスキーです。
液体はただでさえ凝集性と付着性が低く、流入速度が速いため誤嚥しやすいです。
そんな物性を咀嚼してしまうと、stage Ⅱ transportで咽頭流入してしまい、そのまま早いスピードで喉頭へ落ちていき、スピードに喉頭運動がついていけなければ誤嚥していまいます。
安全に食べるには、「液体」は「液体」として、「固形物」は「固形物」として処理する必要があります。
認知機能の低下などで、液体を咀嚼嚥下で、固形物を液体嚥下で処理されてしまうような方がいらっしゃいます。
液体をプロセスモデルで処理すると、誤嚥が生じるリスクがあります。
反対に固形物を液体として処理すると、つまりは丸呑みすることになります。
その場合は「窒息」のリスクが高くなります。
「認知機能低下がある場合、形態は1段階下げるのが無難」と言われるのは、この辺り理由もあります。
「この方の口、のどで今食塊はどうなっているのかな?」
と見ながら食事介助を行うと、一段階上の食事介助につながります。
その評価をやってみるのに、プロセスモデルはとても重要な知識です!
参考文献