ST介護職の考え事

認知症・高次脳機能・ケアについての覚え書き

【ABAを用いた認知症BPSD対応事例】トイレでの転倒頻度減少を目的とした介入

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セラピストは介入方法を考えるとき、論文検索を必死で行います。

介護現場も対応に困るケースはたくさんあるのに、だからと言って論文を探す人は中々少ない印象を持っています。

ということで、今回は介護現場で活かせる論文をご紹介します!

今後もこのように介護現場で使える論文をご紹介していきたいと思います!

 

【論文】トイレでの転倒頻度の減少を目的とした応用行動分析学的介入による効果の検討

橋本和久・加藤宗規・山崎裕

理学療法科学,26(2):185-189,2011

トイレでの転倒頻度の減少を目的とした応用行動分析学的介入による効果の検討 (jst.go.jp)

【POINT】 

認知症例であっても、適切な刺激(形・タイミング・量)の呈示で動作の定着を図ることができる。

・適切な行動に対して賞賛・御礼を強調して強化する。

不適切な行動は無視/適切な行動を嫌悪刺激にならない形で示す。

この二つが守られないと、適切な行動が消し去らわれてしまう結果になる可能性がある。

 

【対象】

介護老人保健施設老健)入所中の69歳男性。既往歴は腰椎椎間板ヘルニア・多発性脳梗塞認知症(←診断名は不明。多発性脳梗塞の既往があるので脳血管性はありそう?)

・身体機能:上下肢ともに麻痺無し。重力に抗して動ける程度の筋力はある。

・認知機能:長谷川式5点/30点(やや高度~非常に高度)

日常生活動作:BI35点/100点

食事摂取自立。車いす自操。座位にて体幹の動揺あり、更衣に介助を要す。

(←前傾時に転落リスクあるからか?車いす自操レベルの座位ができていて、更衣に介助必要な理由が「体幹の動揺」であるイメージ難しい。認知機能の影響も大きくあると考える)

尿意・便意の訴え無し。トイレ誘導での排泄はあり。

手すり両手把持にて立位保持見守りで可能だが日により変動あり。

車いす⇔ベッド移乗は中等度~全介助、車いす⇔トイレ移乗は二人介助で中等度~全介助(中等度介助の目安は50%を自分で行っている=介助者が半分くらいは介助しているイメージ。トイレ移乗は下衣の上げ下ろしの介助で介助者がもう一人必要になっている)

 

【介護上の問題点・介入対象になった経緯】

・トイレへの移乗時ブレーキ操作・フットサポートの跳ね上げをせずに立ち上がることによる転倒

介助者がトイレを離れている間に一人で立ち上がろうとして転倒

トイレ誘導への拒否・暴言あり。誘導に時間を要し、その間に尿・便失禁が多い

 

トイレでの転倒頻度は225日間に10件であったが、その後の16日間に転倒が4件集中して発生し、うち1件は前頭部を打ち救急搬送された。重大なアクシデントを防ぐため、応用分析学的介入を行うことになった。

 

【方法】

ターゲット行動:適切な方法でのトイレ動作の実施

 

“適切な方法”

トイレ動作を20の下位行動に分割

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理学療法士が手順を介護リーダーに見せ(理学療法士出勤時は毎日1回)、申し送り時に内容を伝達。上の表をを対象者の使う車いすの後ろに掲示した。

 

先行刺激:適切な動作から逸脱した際は、逸脱前の手順に戻す。

プロンプト(ヒント)として

5秒待って適切な動作が開始されなければ口頭指示

→(5秒経過)ジェスチャーを加える

→(5秒経過)モデリング・手本を見せる

→(5秒経過)身体的ガイド

 

後続刺激:不適切行動に対する嫌悪刺激をなくす=叱責や注意をしない。不適切行動に対しては適切な行動を示す。

適切行動に対する強化=適切な動作ができた際に賞賛・御礼を強調して行う。

課題分析表(上の表)のチェック欄をチェックし、不適切行動が減少していた場合には介護スタッフ・理学療法士が賞賛する。

(不適切行動のチェックリストでのチェックは“毎回”と書いてあるが、タイミングは不明。介入したスタッフが…と書いてあるので、トイレ介入時か?)

 

【結果】

転倒回数

ベースライン期225日:1.3回/月

転倒増加期16日:7.5回/月

介入期41日:0.7回/月

フォローアップ期28日:1.1回/月

 

不適切行動発生率

第1週:27.8%

第2週:18.9%

第3週:24.7%

第4週:16.1%

第5週:13.3%

第6週:9.5%

 

転倒発生率は転倒増加期と介入期で統計学的に意味のある差があった。

また、第1週に比較し、第5週、第6週では適切行動発生率に統計学的に意味のある差があった。

 

【考察の要約】

なぜ対象者は不適切なトイレ動作を繰り返していたか?

→適切な手順の理解とその必要性の認識が困難であった。

排泄中に手がかり刺激を与えることなく、介護者が不在の状態があった。このため適切な行動を行うための手がかり刺激が不足していた。

+適切な行動への強化はなく、不適切な動作への注意・叱責(嫌悪刺激)が与えられていた。このため、適切な行動は消去・弱化されていた。

+注意や叱責、転倒経験は、不安や緊張、怒りなどの条件反射(レスポンデント行動)を誘発し、トイレ誘導/介護スタッフの声や表情などとのレスポンデント条件付けが生じていた。

 

ABA(応用行動分析学)についての説明はこちらの記事をご覧ください!

 

ryo-kobayashi.hatenablog.com