ST介護職の考え事

認知症・高次脳機能・ケアについての覚え書き

認知症の記憶障害「同じことを何度も聞く」への対応ー記憶障害の外的補助手段ー

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 認知症の記憶障害によるよくある症状の1つに、

「同じことを何度も聞く・尋ねる」というものがあります。

 

それ自体はなんてことありませんが、一日に何度も、それも2-3分おきに同じことを聞かれるストレスは、介護者の大きな大きな負担になります。

 

今回は認知症の方の「何度も同じことを聞く」「伝えたことをすぐ忘れる」症状に対しての、外的補助手段(道具を使った対応)をご紹介していきます。

 

認知症の「同じことを何度も聞く」症状への対処法

認知症の方が「同じことを何度も聞く」のは、中核症状である記憶障害によるものです。

加齢による物忘れが記憶の保持・想起に低下を認めるのと異なり、認知症による記憶障害では記憶の記銘から低下を認めます。

(記銘・保持・想起について、詳しくは下の記事をご参照ください)

 

ryo-kobayashi.hatenablog.com

 つまり、認知症では与えられた情報を頭の中に書き留めることがそもそもできていないので、「覚えた感」「聞いた感」もありません。(加齢による物忘れでは、この「覚えた感」「なんかそんなこと聞いたかも感」があることが多いです)

 

そのため「さっきも言ったでしょ!」「何回同じこと聞くの!」は全く無意味です。

強い語気や硬い表情を向けられ叱責されることは、認知症の方の自己効力感や自己肯定感を下げ、巡り巡ってBPSDに繋がることもあります。

 

その方の世界の中では、1分前にも同じことを聞いたことなんて起こっていなくて、今初めてそれを聞いている、ということを理解して接することが大切です。

大切ですが、1分毎に同じことを聞かれるとこちらもイライラしてしまいます。忙しい時はなおさらです。

 

だから、情報を常時/その方が記憶を保持できる間隔で呈示する外的手段が必要です。

 

ローテクエイドーメモ帳の活用法

記憶の外的補助手段として真っ先に上がるのが「メモ帳」です。

分かりやすいメモ帳だけでなく、紙に「通帳は息子さんが持っています」など書いて見えるところに貼っておく、なども大きく分類するとメモにあたります。

 

メモは紙に字を書くだけと簡単にでき、文字を認識できる視力と文字理解が可能であれば効果が期待できます。

記憶障害が前景に出るアルツハイマー認知症では、文字理解は比較的保たれやすく、文字情報の呈示は効果的であることが多いです。

 

一方で、メモは「見てもらえないと効果がない」という部分が大きな欠点です。

その欠点をカバーしていくメモ帳の選び方・使い方をご紹介します。

 

全面付着の付箋を手の甲や腕に貼る

 書いたメモに気付く最も単純な方法は、メモを体の見えやすい部分(よく見る部分)に貼っておくことです。

下にあるようなテープ式の付箋にメモを書き、手の甲や手首に貼ることができます。

大切な事、よく聞かれることは両腕に付けておくと目に入りやすいです。

 
使い捨てではないものでは、腕に巻き付けるメモバンド「ウェアラブルメモ」という商品も出てきています。
 
 

 

こちらはto do List形式で記入できるものです。

使い方によっては便利そうですが、字が小さくなってしまうのが難点…

 

こちらは一般的なウェアラブルメモ。割と大きな字で書けます。
指でこすったり、消しゴムで消すことができます。
 
帽子式目の前メモ帳

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もの忘れ対処用メモ帳類 - gensoshi ページ!

こちらは安田清先生が考案された帽子のつば部分にワイヤーをつけ、常時メモ帳を目の前にぶらさげられるようにしたものです。(サンバイザーでも可能とのこと。頭が蒸れてとってしまうのを防ぐためにはサンバイザータイプの方が有効とのことです。)

 

認知症の方は周囲の空間の注意探索が低下していることも多いため、常に目の前にメモがぶら下がっているこのメモ帳は「メモを見てもらえない」という事態を回避するには有効です。

 

ただ目の前にぶらさがっているため邪魔に思われる方ももちろんいると思います。

適応が限られるかとは思いますが、はまる方にははまりますので試してみる価値はあります。

 

ローテクエイド-ホワイトボード・伝言板

 ホワイトボードに日付や覚えてほしいことを書いてみていらっしゃる方は多いと思います。

マーカーで書いてしまうとこすれて消えてしまう可能性が高いため、磁石にかいて貼ったり、紙で張り付ける方が安心です。

 

目に入りやすくするためには、お孫さんやペットの写真を貼ったり、接近照明ランプやセンサーを付け、光や音を出すようにしてみましょう。

 

 

 
夜間用には光るブラックボードを使う方法もあります。(多少値段ははりますが…)
 
 

 

ミドルテクエイドーICレコーダー

 認知症の方の記憶障害への対応としてICレコーダーを使う時の便利な機能は、【アラーム機能】と【リピート機能】です。

それぞれの活用方法をご紹介します。

 

ICレコーダー活用法-アラーム機能-

ICレコーダーは再生時間を指定して録音した音声を流すことができます。曜日ごとの出力が可能なものもあります。

 

自験例です。

毎食後に「ごはんをください」と10分おき程度言いに来る方に対して、時間帯(食後)を指定し「朝/昼/夜ごはんは食べ終わりました。次は○時に昼/夜/朝ごはんです」という音声を流すようにしました。(音声-5分無音-音声を3セット)

日中車いすに常時座っている方でしたので、車いすのアームレストに袋に入れたICレコーダーを括り付けて使用しました。

この方はこの対応で毎食後の食事の要求はなくなりました。

 

在宅の方ではデイサービスの日に「今日はデイに行く日です。準備をしましょう」、休みの日に「今日はデイは休みです」と入れて使用することも有効かと思います。

薬の服薬忘れ対策にも使用可能です。その場合には薬を設置している場所に近くにICレコーダーを置いておくと良いでしょう。

 

見える形で置いておく場合には、「この機会は触らないでください」等の紙や付箋を巻いておいた方が無難です。

 
ICレコーダー活用法-リピート機能

「同じことを繰り返し聞く」に効果的なのはこのリピート機能です。

小さな袋などに入れる/ポケットに入れる等して持ってもらい、いつも聞かれることを録音し、リピート再生してみましょう。

いつも聞かれることが何パターンかある方は、間に空白をはさみ全てのパターンを録音しましょう。

 

例)

「今日は○年○月○日です」…空白…「通帳は息子〇〇が預かっています。」…空白…「今日はここでお泊りです。息子○〇はお泊りのことを知っています。」…

 

10分おきにリピートしたいのであれば、最後の音声のあと10分間無音にします。

 

その方の機能に合わせて、繰り返しの時間を変えて反応を見ていきましょう。

 

ミドルテクエイド-デジタルフォトフレーム

伝言板のところで注意を引くにはお孫さんやペットの写真が有効、とご紹介しました。

デジタルフォトフレームで合間にペットやお孫さんの写真を流し、伝えたいメッセージを流す方法もあります。

音を出すことも可能ですので、より注意を引き付けやすくなります。

 

 

おわりに…

介護は「優しさ」や「愛情」だけでは乗り越えることはできません。

全てを人間性に帰することなく、技術と知識を活用していく必要があります。

今回ご紹介した機器類・方法は安田先生の著書からの抜粋です。

 

 
ご興味ある方は先生のHPもご覧ください。