ST介護職の考え事

認知症・高次脳機能・ケアについての覚え書き

認知症の高次脳機能評価

 

認知症高次脳機能障害か?

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日本の高齢化率

日本はかつてない高齢化社会へと突入しています。

2018年に高齢化率は28%を超え、実に人口の3割近くが高齢者という社会になっています。

認知症」の最大のリスクファクターは「加齢」です。

そのため高齢者人口が増加するに伴い、認知症患者数も増えていくことになります。

認知症患者数が増加することで、医療/介護問わず認知症を持つ患者/利用者に接することが多くなっていきます。

認知症をもつ方の認知機能を評価し、その方にとって適切なケア・リハビリを提供することは、どの現場においても求められるようになってきています。

 

さて、認知症の方の「認知機能」を評価する際によく出てくる疑問があります。

それは、「認知機能と高次脳機能は同じか?認知症高次脳機能障害か?」ということです。

 

私が新人時代に先輩・上司から教わった考えは、

「認知機能は高次脳機能と言い換えて構わないし、認知症高次脳機能障害に含まれる」

というものです。

 

そもそもの認知機能の定義は以下のようになっています。

理解、判断、論理などの知的機能のこと。


認知とは理解・判断・論理などの知的機能を指し、精神医学的には知能に類似した意味であり、心理学では知覚を中心とした概念です。心理学的には知覚・判断・想像・推論・決定・記憶・言語理解といったさまざまな要素が含まれますが、これらを包括して認知と呼ばれるようになりました。

 

認知機能 | e-ヘルスネット(厚生労働省)

 下線の部分は、まさに「高次脳機能」を指しています。

それでもはじめに挙げたような疑問が出てくるのは、「認知機能の低下=認知症」とするイメージがあまりにも強いこと。

また、高次脳機能障害には行政的な定義があり、その定義のイメージが強いことによるかと思います。

 

言葉の定義としては、認知機能と高次脳機能は重複するものと考えてよいです。

とすれば、認知症もまた、一種の高次脳機能障害であると考えることができます。

であるならば、認知症も高次脳機能リハと同様の考えで評価・訓練立案ができるはずです。

 

しかし、それがそう簡単にいかないことは認知症を持つ方のリハビリに携わったことのある方なら実感を持ってご存じかと思います。

 

 

認知症の高次脳機能評価・目標設定の難しさ

 

認知症の高次脳機能評価・目標設定の難しさには大きく2つの理由があると考えます。

1つ目は認知症は進行性疾患である」ためです。

 

事故や脳血管障害等による脳の損傷は、基本的に受傷時最も脳が傷ついています。

そこに脳の浮腫が加わっている方の場合、浮腫が徐々に取れていくことによって回復していく機能があります。また、そうでなくても神経細胞は徐々に別のネットワークを形成していき、損なわれた機能を代償していきます。

事故・脳血管障害等による脳の損傷は、そのため基本的に「右肩上がり」のモデルになります。

そこでのリハビリは機能回復をメインとしたものになり、目標は可能な限り「元と同じ生活に戻る」ことになることが多いです。

 

反対に、認知症は「右肩下がり」のモデルです。

脳の神経細胞は徐々に変性していき、その部分が担う機能はゆっくりと失われていきます。

そこでのリハビリは機能維持や、認知機能評価を行った上で、快適な生活を送っていけるような環境調整となっていきます。

私たちリハ職は脳血管疾患モデルでリハビリを考えがちです。

叩き込まれたその考え方が、認知症を考えるときには邪魔になっていまいます。

 

2つ目は「基盤的認知機能低下の影響」です。

認知症は脳の変性部位との対応が可能な症状もありますが、ベースは徐々に基盤的認知機能が低下していくものです。

「基盤的認知機能」が何かについては以下の記事をご覧ください。

 

ryo-kobayashi.hatenablog.com

 

高次脳機能障害でも、「基盤的認知機能の低下」が重度の方の評価に難渋することは多いかと思います。

その理由には、標準的な検査バッテリーが使えないこと、使えたとしてもその結果に基盤的認知機能の低下がどの程度影響しているのかの判断が難しいこと、があります。

 

例えば、注意機能の評価のためにCATをとったとします。

結果に低下があったとしても、その方の耐久性や覚醒レベルに問題があれば、その結果が純粋な注意機能の低下を反映しているとは言い難いです。

 

事故や脳血管障害による損傷ならば、基盤的認知機能の回復を待って検査バッテリーを使うこともできますが、認知症は先ほど述べたように「右肩下がり」のモデルです。

はじめに検査バッテリーにのるくらいの力がなければ、その先も検査バッテリーを使える目は少ないと考えたほうが無難です。

 

検査バッテリーによる検査ができない/できてもどこまでがそれ自体の影響で、どの程度基盤的認知機能の低下が影響しているのかがわからないためその方の機能を把握しきれず、「右肩下がり」も加わり「認知があるからなにもできない」になってしまいがちです。

 

安易にそうなってしまわないために、しっかりとした評価が必要になってきます。

 

 

認知症の高次脳機能評価・訓練立案の考え方

 

新患・新しい利用者さんが来たら、まず情報収集と初回インテーク、スクリーニングをするかと思います。

 

情報収集で既往に認知症があることが分かります。

認知機能を長谷川式やMMSEで見てみるとやはり低下がある。

できそうな人なら、Moca-JやKOHS,RCPMで知的機能や推論能力を、JARTで言語的な知能を、前頭葉機能をざっくりとFABで見て、コミュニケーション機能をCSTDを見てみるとよいと思います。

 

ここから先はとりあえず日常生活の観察評価が有用です。

認知症リハの目標は、安全で快適な生活の継続、その人らしく生きていくこと、だと私は思っています。

自分でできることは自分でできた方が良いでしょうし、その人の大切にしている生活習慣は継続できるようにしたいと思います。

 

その目標を見据えた上で優先していくのは、日常生活の中でのADL、IADLの評価です。

少し詳しく言えば、ADLやIADLを認知機能がどの程度阻害しているか、を見ていきましょう。

 

例えば、食事時間周囲の音に気がそれて自力摂取できない方がいたとします。

この方の問題は嚥下機能でも上肢の機能でもないですよね?

注意機能の低下により、食事というADLに低下をきたしています。

 

この方に対して基盤的認知機能を賦活する関わりや環境調整をしていくことで、食事の自力摂取を目指す、というのは一つの良いリハビリの方法だと思います。

 

日常生活の観察評価から、その方が生活していく上で課題となっている部分を抽出していきます。

その課題を解決する方法を、機能と環境から考えてリハビリとして取り組んでいく。

脳血管障害のモデルでは「いずれできるようになる」という考えで環境や生活をみていきますが、認知症では「今」の機能に合わせて環境や生活を変える必要があります。

 

認知症の日常生活評価にはFAST、PSMS、IADL Scale、N-ADL、DADなどがあります。

一つ一つ特徴があるので、使いやすいものを選んで使ってみるとよいと思います。

細かい特徴については、また別の機会にまとめたいと思います。

 

 

観察評価の色々

 

ここからはよく使う観察評価についてまとめていきます。

 

注意の観察評価にBAADがあります。

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BAAD

注意障害の臨床;豊倉穣 高次脳機能研究第28巻第3号

記憶の評価には 記憶障害者の日常生活場面での行動観察評価項目日常記憶チェックリストがあります。

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記憶障害の行動観察評価項目

記憶障害のリハビリテーション ―その具体的方法―;綿森俶子

日常記憶チェックリストは本人、家族、リハスタッフの3者が評価を行うことで、障害認識も評価することができます。

詳しくはこちらの論文を見てみてください。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjrm1963/42/5/42_5_313/_pdf

 

基盤的認知機能や、認知機能の全体像の評価にはCBAがおすすめです。

 

CBAは認知機能を意識・感情・注意・記憶・判断・病識の6つを、それぞれ1点(最重度)~5点(良好)の5段階で評価していきます。

6つの総合点が6~10点=最重度、11~16点=重度、17~22点=中等度、23~28点=軽度、29点以上=自立、とされています。

 

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全般的認知機能の状態とCBA

CBAは軽度からセルフケア自立、危険判断ができるとされています。

認知機能の評価ではCBAでいうどの段階に目の前の患者様、利用者様がいるかを評価し、その方の段階にあった関わり方が必要です。

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CBAの段階と関わりのポイント

CBAは高次脳機能・失語症評価、訓練立案にとても役立つので、ご興味ある方はぜひ研修会に参加してみてください。

森田先生・春原先生ともにとてもエネルギッシュで、より患者様利用者様のためになる言語聴覚士を育てたい!という熱意に満ちた方々です。

研修では森田先生の臨床の映像も見ることができ、どんな風に患者様利用者様とお話するのか、気付きを促す会話のアプローチとは、等とても勉強になります!

失語・高次脳の臨床に悩んでいる方はぜひ先生方のお話を聞いてみてください!

www.cba-ninchikanrenkoudou.com

 

おわりに・・・

 

長々と書きましたが、認知症の高次脳評価・リハには「日常生活」の視点が欠かせません!

だから、STリハでもトイレ動作練習を行っても、移乗・移動の練習を行っても良いと私は思います。

それがその方の生活に必要なことなのだから、堂々と「高次脳機能訓練」として行っていきましょう!

 

私は現在施設に勤務していて、介護職も兼務しています。

リハ職ですが、日常生活にかかわる時間を多くもつことができています。

私がこのような立ち位置にしてもらった理由の一つは、

「日常生活の中で、高次脳機能評価を行いながらケアをしたかったから」です。

 

トイレ移乗の際のブレーキかけ忘れ、フットレストの上げ忘れを自分で気づいてやってもらうにはどうしたらいいか?

更衣動作自体の能力はあるから、自分で着てもらうにはどんな環境調整が必要か?

認知機能の評価と合わせて、試行錯誤しながら「その人らしい生活」にむけて取り組んでいます。

 

生活の中の、一つ一つが機能訓練であり、高次脳機能訓練だと私は思います。

その人らしい生活、残存機能を生かした生活に向けて、お一人お一人を丁寧に評価していきたいですね!

 

参考文献