ST介護職の考え事

認知症・高次脳機能・ケアについての覚え書き

見当識障害(失見当識)への対応-「今日は何日?」と毎回聞くのはNG×環境にヒントを散りばめよう!

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◆目次◆

 

見当識障害は認知症の方の多くに認める症状ですね。

見当識とは

時間や場所、人物などの周囲の状況を正しく認識する能力*1のことを指します。

 

見当識には大きく分けて三種類あります。

①時間に対する見当識

今日が何月何日何曜日か、今の季節、一日の中の時間の見当。

数日程度の誤りや曜日の誤りは健常者でも認められるため、注意が必要。高齢者では数年程度の誤りは必ずしも認知症とは言えない。

 

②場所に対する見当識

自分のいる場所がどこか、今いる施設や病院・病棟、施設の場所と自宅との関係などの見当。

 

③人に対する見当識

よく知っている人や、肉親をみても誰か分からなくなる。

 

 認知症による見当識障害では近時記憶障害による時間の見当識から障害され、次に場所、人物の順で障害されていくことが知られています。

 

山鳥重先生の【神経心理学入門】には、

見当識は意識状態の検査にもっともよく用いられる。しかし、見当識のテストがどのような心理過程をテストしようとしているのかはもう1つはっきりしない。はっきりしないが、実際の臨床では有用な検査項目である。

とあります。

よく耳にする上に、必ず評価する項目でありますが、その心理過程ははっきりとしていません。

 

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神経心理循環

この図はリハビリテーション医である橋本圭司先生が作られた、高次脳機能を身体機能とともに全般的にとらえ模式化したものです。

【神経心理循環】と言います。

神経心理ピラミッドど同様に、各機能が相互に影響を与えあっていると考えるモデルです。

面白いのは、「身体機能」も含めて考えているところです。

 

呼吸循環や意識、姿勢、栄養状態などのしっかりとした土台があって、始めて高次脳機能は十全に働くことができる。

だから、高次脳機能障害だから高次脳リハをと単純に考えるのではなく、まずは土台から手を付けていきましょう!と橋本先生は仰っています。

 

特にSTはどうしても高次脳から入ってしまいますが、神経心理循環のモデルを知っていると、

「近時記憶が悪いから、とりあえず記憶のリハしよ!」

なんてことがなくなるかと思います。

 

神経心理循環の話はまた今度詳しくまとめたいとおもいます!

 

ちょっと話が脱線してしまいました…

見当識の心理過程ははっきりとはしませんが、見当識も他の様々な機能との相互関係の中にある機能の1つです。

 

見当識障害への対応

【対応法】

・患者自身は、本当に見当識が無いことを周囲が理解する。

・本人はあくまでも症状で、場所や時間が認識できないということを周囲が理解する。

・「今日は暑いですね」「ますます寒さが厳しいですね」といった挨拶を欠かさない。

・本人の体調や、気候の変化などをその都度確認する。

・カレンダーやスケジュール帳を目立つところに置いておく。

・時計やカレンダー、スケジュール帳などを使って、どんどんヒントを与える。

生活を支える高次脳機能リハビリテーション 橋本圭司 

 

その方の生活の中で、自然な形で日時や季節を認識できるような対応が◎です。

毎日のコミュニケーションの中で季節や時間の話題を出して、その方が「現在」を認識するための情報を渡していきましょう。

 

例)

「もうすぐお昼の時間ですね」

「もう八月も終わりですね」

「段々涼しくなってきましたね」

 

施設や病院でよく作っている【季節ごとの壁飾り】、患者さんや利用者さんの見当識に対してとても有用なヒントになります。

レクリエーションで利用者さんと一緒に壁飾りを作っていく中でも、

「紅葉の景色ですね。もうすぐ紅葉狩りの時期ですね!秋がもうすぐですよ!」

など、季節の認識を促す声掛けを+αでしていくと立派なリハビリになっていきます。

 

大きなカレンダーや、日めくりカレンダー、大きめの時計を目に入る位置に置いておくことも、「現在」の認識を高めるヒントを散りばめることになります。

 

1対1で関わる事のできる際には、更に

【過去→現在→未来の出来事の繋がりを確認して整理する】ことができると良いです。

この「時間の繋がり」「昨日・今日・明日」の連続性への実感を持ってもらうことは、「現実感」を持ってもらうために必要な要素です。

 

【やってはいけないこと】

・頑張って場所や時間を認識させようと、周囲は本人にプレッシャーをかけてはいけない。

クイズのように、場所や時間を当てるような訓練はしてはいけない。あくまでも自分が置かれている状況に現実感を持つことが先である。

 

【声掛けのポイント】

患者自身は、現実感がないために、時間や場所の認識ができないということを意識して、接するようにする。

生活を支える高次脳機能リハビリテーション 橋本圭司 

 

やってしまいがちですが「今日は何月何日ですか?」はあまり良い方法ではありません。

大人数に対して聞くのはありだと思いますが、指名して答えてもらう形はおすすめしません。(確実に正答できる方は別です)

 

「間違った」「失敗した」その感情は、記憶障害が有る方でもしっかりと残ってしまいます。

 

記憶障害のある方のリハは「誤り無し(エラーレス)」で行っていくのが基本です。

評価の際に日付を尋ねるのは評価なので仕方ないですが、普段の生活/リハビリでは「失敗しない形で」、一緒に確認する・自然な形で伝えるようにしていきましょう!

 

現実見当識訓練(リアリティーオリエンテーション/RO)

見当識・訓練」で検索すると、まずこの現実見当識訓練がでてきます。

 

現実見当識訓練には、少人数(3.4人)グループで行う【クラスルームRO】と、日常のコミュニケーションの中で一日中24時間毎日行う【24時間RO】があります。

 

24時間ROで行っているのは、先ほどまとめた【見当識障害への対応】や季節や時間の話題の提供といったことです。

それを一日の中で、話しかける都度行いましょう!というものになります。

 

クラスルームROは週に3-4度、グループで集まってそのグループで季節や行事、最近の出来事などについて話したり、ちょっとした体操などを行います。

 

現実見当識訓練は、エビデンスのある認知症の非薬物療法の1つです。

初期の認知症に対しては、現実見当識訓練の有用性が示されています。

 

私見ですが、現実見当識訓練は認知症をよくすると言うよりも、

見当識の低下による不安感」の軽減を目的に行う方が理にかなっているように感じています。

 

毎度毎度時間と場所の情報を与えられれば、「ここがどこか分からない」不安を感じる時間が少なく済みます。

どこか分からない知らない場所にいる不安が少なければ、その不安によるBPSDは軽減するはずです。

 

かっちりと「今日から現実見当識訓練を始めよう!」というのではなくて、普段の何気ない声掛けの中に、意識して季節や時間の話題をいれていくだけで十分だと思います。

不安感の強い方に対しては、今の状況などの説明をこまめにすることも有効です。

 

おわりに…

「生活リハビリ」って結局なんなのよ?と思っている方も多いと思います。

この見当識訓練は、まさに「生活リハビリ」の1つです。

何気ない声掛けが、「現実感」を高めていく訓練になっています。

ちょっと気を使ったカレンダーや時計の配置、季節感のある壁飾りが、有効な環境設定になります。

 

ちょっと利用者さんと話していれば「無駄話」、壁飾りなんて「やってる暇ない」と、忙しい介護施設ではともすれば言われてしまいがちです。

 

そんな時には、

「これは見当識の訓練です!」と堂々と言ってしまいましょう!!

大丈夫です!間違っていません!

利用者さんのよりよい生活のために、頑張っていきましょう!

 

 参考文献

 

*1:病気が見える脳・神経