ST介護職の考え事

認知症・高次脳機能・ケアについての覚え書き

記憶障害②~記憶の過程~

記憶の過程は三段階!

 

記憶は、新しい情報の取り込み、取り込んだ情報の保存、保存された情報の再生という三段階の過程を含み、これらを登録(符号化)、貯蔵、検索と呼ぶ。

標準言語聴覚障害高次脳機能障害学p145

 

記憶は  登録(符号化)→貯蔵→検索 三段階を経て行われます。

この前段階として「注意」が含まれることがあります。これは「記憶」の前提として、「注意」が必要であることを意味しています。

高次脳機能障害を考えるときには「神経心理ピラミッド」がよく用いられます。

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神経心理ピラミッド

 

これは高次脳機能の階層性を表したものです。

より高次の機能を用いるには、それよりも低次の機能が保たれている必要があります。

「記憶」の使用に「注意」が必要なのは、「注意」は「記憶」よりもより低次で、基盤的な機能だからです。

 

ということで、基盤となる「注意」を除いた「記憶の三段階」について、詳しく見ていきます。

 

①登録(符号化)=記銘

 

記憶の最初の段階は登録(符号化)です。記銘と呼ばれることもあります。

この段階で行われるのは「情報の入力」です。

記憶すべき材料を理解分析し、分類・体制化し、適切な形で頭の中に取り込む過程です。

 

この過程で深く処理を行った情報の方が、より思い出しやすいとする「処理水準仮説」というものがあります。

ただ数字の羅列を覚えるよりも、「この四桁は〇〇の誕生日と一緒だ!」と繋がりや意味が加わった方が覚えやすくなります。

そのように、ただ「覚える」だけでなく、その情報に何らか処理を加える(=そのことについて考える・意味づけをする)ことで、より深く頭に刻み込むことができるようになります。

 

外からの情報を、頭の中にしまえる形に処理する。この過程が「符号化」です。

 

 

②貯蔵=保持

 

頭の中に入力された情報は、それを取り出すときまで頭の中にしまっておく必要がります。

頭の中にしまって、保存しておく段階が、二番目の「貯蔵」=「保持」です。

 

学習過程で干渉を受けると、貯蔵は阻害されます。

干渉のタイミングにより、逆行干渉・順行干渉と呼ばれます。

 

例えば江戸幕府の将軍を覚えるとします。

全員の名前がごちゃごちゃに混ざって覚えにくいですよね。

最後の慶喜まで覚えて、五代目を思い出そうとするとうまく思い出せませんね。みんな徳川ですし、似たような名前ですし。確かに覚えたはずなのに、後から覚えたのが混じってよく分からない。

このように、後から覚えたもののが、先に覚えたものの邪魔をすることを逆行干渉と言います。

 

一代目から覚えていって五代目を覚える時、先に覚えた一代目から四代目の名前と混ざって覚えにくい。

に覚えた内容が、新しく覚える内容を邪魔する。これが順行干渉です。

 

記憶の種類のところで整理しましたが、「干渉を受けない」短い時間の記憶が「即時記憶」です。

「近時記憶」は保持されている間に「干渉」を受けるものです。

 

 

③検索=再生

 

最後の過程が「検索」です。これは「再生」とも呼ばれます。

記憶は覚えて、保持して、最後に「思い出す」必要があります。

思い出すとは、必要な時に必要な情報を取り出すことです

 

これを難しく言うと、以下のようになります。

記憶の検索とは、既存の記憶痕跡を探し、活性化することを表す。貯蔵から引き出す記憶の正確性と適切性のモニタリングが必要である。

高次脳機能障害のためのリハビリテーション 統合的な神経心理学的アプローチp137

 

つまり、

頭の中のどこにその記憶があるかを探し、活性化させ、しかもその記憶がちゃんと探していた記憶かどうかを確かめながら行う必要がある、ということです。

 

間違った記憶痕跡が活性化されると、記憶の変容や作話が生じてしまいます。

 

ちなみに「再生」とよく似た言葉で「再認」というものがあります。

どちらも記憶の想起に関わりますが、想起させる方法が違います。

 

テストで言えば「記述しなさい」という形式が「再生」、「選択肢から選びなさい」という形式が「再認」です。

 

「再生」の方が難易度が高くなります。

「再生」ができなくても「再認」ができた場合、記憶の保持まではできていたと考えることができます。

前頭葉性健忘では再生は困難でも再認は可能なことが多く、手がかりにより想起しやすことなることがあります。

 

 

加齢による「物忘れ」と「認知症」の違い

 

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加齢による物忘れと認知症の違い

 

最後に、記憶の三段階から加齢による「物忘れ」と「認知症」の違いを整理します。

認知症、特に記銘力障害が強く表れアルツハイマー認知症では、記銘の過程が困難となります。

そのため、よく言われる「そのエピソード自体を、まるまる忘れてしまう」ということが生じます。

そもそも、インプットができていないのです。

その情報がインプットできていれば、保持の段階で薄れていってもまるまる消えてしまうことはあまりありません。「それを覚えた」ことは何となく覚えています。

 

加齢による物忘れでも記銘力の低下や保持の低下はありますが、まるっと抜け落ちるわけではあります。

ぽつぽつと穴が開いてしまって、そこからこぼれてしまうものがあるくらいのイメージです。

全体を「覚えた」エピソードが頭の中にあるため、抜け落ちてしまった穴に気付くことができます。

 

そもそものインプットができているのか、いないのか。

そこが「物忘れ」と「認知症」の大きな違いです。

 

 参考文献