ST介護職の考え事

認知症・高次脳機能・ケアについての覚え書き

【ケア・介護に役立つ記憶の評価】行動・会話から「記憶」を評価するー認知症の記憶障害評価②ー

 

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前回は記憶の行動観察評価・評価スケールについてまとめました。

 

ryo-kobayashi.hatenablog.com

 それを踏まえて、今回は評価スケールをつけるにあたって、会話や行動から記憶を評価するポイントをまとめていきます。

 

 

 

会話・行動から見る記憶障害の評価

会話や行動の中で記憶をみていく上での一番のポイントは「評価」「検査」らしくしないことです。

あくまで、何気ない会話・普段の生活の中でその方の記憶障害を見ていきましょう。

 

話を聞く時の基本的な姿勢は

・受容的で穏やかな対応

・質問して考えてもらう

=反応の特徴:確信・自信・曖昧・適当

 反応の浮動性:揺れ・修正

 反応の精度:確実・曖昧:明らかな間違い

・基本的に誤りは修正しない

→まずは自由に話してもらう・答えてもらう

→様子をみて、少し修正を入れてみる。修正に対する反応(否定・取り繕い・気付き)を観察する。

 

※明らかな作話も否定することはお勧めしませんが、助長することも「現実との乖離」を大きくすることに繋がりあまりよくありません。否定も肯定もせずに傾聴した上で、早めに話題を変えるように私はしています。

 

評価のポイント・テクニック

①再生と再認を適切に使う

「昨日誰がお見舞いに来ましたか?」という質問は、「誰が」の部分を自分で思い出す「再生」を必要とします。

この質問に「娘の○〇が来ました」と答えられれば、そこまでの近時記憶の保持・再生ができていると言えます。

 

一方で、この形式の質問に答えられなかったからと言って、必ずしも記銘・保持ができていないとは言えません。

「昨日、娘さんがお見舞いにきましたか?」という形に変えると、「再認」の形になります。

この質問形式で正しく答えることができたならば、再生はできなくても保持まではできていたと評価できます。

 

「再生」の形式で聞いてみたあと、「再認」のyes/noや選択肢呈示で聞いてみることで、より多くの情報を手に入れることができます。

 

②近時記憶・遠隔記憶・展望記憶・手続き記憶を一通り見る。

「記憶の評価」というと近時記憶と展望記憶にフォーカスしてしまいがちです。

これができない!という部分は目につきやすい、ということの影響もあるかと思いますが、できる部分・保たれている機能を拾い上げることもとても大切です。

日常のケアに活かすには、むしろ保たれている部分を探すことの方が重要とも言えます。

 

手続き記憶的ですが、「習慣化」が可能かどうかの確認はケアに活かすには有効です。

施設であれば、食堂の自分の席が分かるか?自室の場所を覚えているか?

を見てみましょう。

習慣化した行動が可能であるならば、繰り返しする行動は定着できるという評価ができます。

それならば、車いすのブレーキ操作も繰り返せば定着できるのでは?という仮説を立てることができ、仮説に基づいたリハビリ的なケアを行っていく事ができます。

 

③視覚情報/言語情報/体性感覚・運動を伴う情報…それぞれに対する記憶を評価する。

「言った事を覚えているか?」だけの評価では不十分な上、今後のケアにもあまり繋がりません。

 

文字で呈示した情報はどうだったか?メモしてもらった時は?

写真や絵なら覚えていた?写真があったことは覚えていた?

 

それぞれの刺激に対して、その後の行動・反応がどうであったのかを評価しましょう。

 

そこで言語情報よりも視覚情報の方が覚えていられる、というような評価ができたならば、【スケジュールは文字+絵で呈示した方が良い】というケアが立案できます。

 

評価はケア・生活につなげていくために行っています。

 

④記憶痕跡を評価する・修正に対する反応を評価する

記憶痕跡とは、記憶が形成されたときに活性化され、その活性化が保たれたている分子がある、というようなことを言います。(おおざっぱで申し訳ないです。興味のある方は<記憶痕跡>で調べてみてください)

 

会話の中で分子の動きを評価してほしいと言うわけではなく、「記憶の痕跡・記憶のかけら」がその方にあるか、という部分は評価しておくと有用です。

 

「そんな事を聞いたような気がする。」

「そういえば、○〇でしたっけ?」

 

修正に対するこんな反応は、この方の中には記憶痕跡はありそうだと判断する材料になります。(取り繕いの反応との見極めは必要です)

 

記憶痕跡があるということは、何かもう一押しヒントやきっかけがあれば、想起までつながる可能性があります。

修正時の反応に記憶痕跡が感じられれば、想起にまで至るヒントを探していってみましょう。

 

おわりに…

記憶の評価は「この方は近時記憶に低下はあって、展望記憶は…」と専門用語をかっこよく羅列するためにするのではなくて、その方の生活をよりよくするために行うものです。

 

・当日中の記憶も曖昧で不安感が強いから、メモリーノートをつけてもらったら安心感が増すかな?

・食事を食べたことを忘れて不安になるから、食後毎回日付とメニューを手帳に書いてもらうようにしよう。繰り返したことの定着はできてるから、習慣化できるかも。

 

評価は、評価者の自己満足ではなく、ケア・生活に繋げるためのものです。

 

より良いケアに繋げるために、適切な評価を利用者さんの負担にならないように行っていきましょう!

 

参考文献