行動・認知モデル
行動・認知モデル(山鳥モデル)
高次脳機能障害を考えるモデルとして、以前Ruskの神経心理ピラミッドについて整理していきました。
今回はもう一つの高次脳機能障害のモデルである「行動・認知モデル」、通称「山鳥モデル」についてまとめていきます。
山鳥モデルの特徴
山鳥モデルの大きな特徴は、神経心理ピラミッドでは明らかに記述されていない個別の高次脳機能障害を明確に位置付けている点にあります。
また、個別症状以外の全ての高次脳機能障害に共通して現れやすい全般症状を「基盤的認知能力」と「統合的認知能力」に分け、「個別的認知能力」をはさむように上下に配置した点にあります。
認知関連行動アセスメント 森田秋子 p14)
神経心理ピラミッドでは、病巣と症状の対応が割合はっきりとしている「失語」「失行」「失認」などの障害の位置づけは明らかではありません。
あくまで全体的な高次能機能のレベル付けがされているのが、神経心理ピラミッドです。
山鳥モデルでは、そのような病巣のはっきりした個別的な能力は、基盤的認知能力と統合的認知能力と相互関係を持つ形で配置されます。
基盤的な能力の下支えがあって、個別的な能力は十分な力を発揮することができます。
そして個別的な能力を十全に発揮していくことで、統合的な能力の獲得に繋がります。
リハビリ職はともすればこの「個別認知能力」だけに目がいきがちですが、「個別的認知能力」にアプローチしていけるだけの「基盤的認知能力」が整っているのかをまず評価する必要があります。
それぞれの認知能力について
①基盤的認知能力
基盤的認知能力は神経心理ピラミッドで言うところの低次レベルです。
脳が活動していくための基盤であり、全ての認知活動の基礎となる能力です。
生きていくため、考えていくための活力であり、脳の体力です。
喜んだり悲しんだりする気持ちややる気、意欲の沸き起こり、情動の安定。
注意の集中と持続が可能となり、少し前の出来事の記憶が可能となり、運動の学習が可能となる。
個別的認知機能へのアプローチには、この基盤的認知機能がある程度整っていることが必要です。
基盤的認知機能が不十分な方の当面の目標は、「覚醒を上げ反応を引き出すこと」になります。たくさんの感覚刺激を入力し、安楽と快適さを提供しながら次の段階を目指していきます。
覚醒が上がってきたら、次は「意欲・笑顔・発話」を増やしていきましょう。
たくさんの刺激がここでも必要です。簡単で、分かりやすい言葉掛けが良いです。
何か作業に取り組んでもらうならば、できる限りエラーレスで行えるようにします。
集中できる時間を延ばし、覚えていられることを増やしていきましょう。
②個別的認知能力
個別的認知能力は責任病床が比較的明確な、個別の手段的な能力です。
いわゆる巣症状と呼ばれるもので「失語」「失行」「失認」があります。
個別的能力だけの障害は、ある意味でとてもアプローチしやすいです。
基盤的認知能力が整っていれば、個別的認知能力はアプローチの大枠は決まっています。
各障害の詳細やリハビリの手法は、少し探してみるだけでもたくさんの文献があると思いますのでそちらをご覧ください。それぞれの障害に対するケアの話は、どこかでまとめていきたいと思います。
③統合的認知能力
統合的認知能力は、「気付き」と「全体化」を通して、その人らしさを取り戻し、生きていく上で適切な判断ができるようになるための能力です。
時間軸が繋がっていき、優先順位をつけ、因果関係を考えることができるようになる。
それは「気付く」ことにより、ばらばらだったものが繋がりだしていくことです。
このレベルの方々の目標は、「自分の状態への気付き・理解」「優先順位・因果関係の理解」です。
その為、時に失敗してもらうことも必要です。失敗して、はっとしてもらう体験が気付きに繋がることがあります。失敗した際時間を空けずフィードバックを行うことで、本人の気付きを促していきます。
自身の能力への認識を高めていく際には、落ち込みすぎないように心理面に配慮して行っていきましょう。
脳損傷による後遺症の重大さに気付き、うつ状態になりやすいのはこの段階の方々です。丁寧に見守りながら、慎重に行っていく必要があります。
自分の状態に気付いてもらい、自分に何ができるか/何ができないかを理解していってもらうことを目指します。
最後に…
山鳥モデルの良い所は、「基盤」の上に「個別的な能力」があり、その上に「気付きや推論など高次の能力」があり、相互関係があると考えられている点です。
他の所でも同じことを言っていると思いますが、「忘れてしまうから記憶が悪い」という一対一の考えは、一度立ち止まって考え直す必要があると私は思います。
「記憶」は低次レベルに一応含まれ、山鳥モデルでも基盤的認知能力に入りますが、一方で「記憶障害」というとある程度責任病巣のはっきりとした個別的認知能力になります。
「記憶が悪い」と思ったときは、「それは本当に記憶だけの問題か」と、もう一度全体像を評価してみるのが良いです。
何か個別的な能力が低下していると思ったときには、それが個別的認知能力の問題なのか、基盤的認知能力の影響はないのかを評価し直す必要があると思います。
というのも、個別的認知能力のみの低下であれば、おそらく様々な代償が効く可能性がとても高いと想定されます。
一方でそれが基盤的認知能力の影響が強いものであるならば、代償手段の獲得はおそらく困難で、環境調整が必要になると考えられます。
その「忘れてしまう」症状がどちらの能力によるものかにより、提供すべき適切なケアが変わってくるのです。
だから、「忘れてしまう」→「記憶が悪い」と単純に考えるだけで不十分なのです。
忘れてしまうから記憶の機能が低下しているのは確かでしょうが、それだけではケアに繋がりません。
「本当に最近記憶落ちてきてるよねー。認知が進んだねー。」と話しているだけでは、欠片もその方のためにならないのです。
その症状の背景にあるのが何なのかを、個別症状/全体症状を分けて評価していくことで、初めて適切なケアの提供に繋がります。
一対一対応の考えに一旦ストップをかけて、その方の残存機能を活かせるケアの提供を目指していきましょう!
参考文献