特養STが考える「嚥下体操」ー特養・施設で行う口腔体操・嚥下体操
【誤嚥性肺炎】が日本人の死因の上位にランクインしてから、【嚥下】という言葉は一気に耳馴染みのあることばに変わってきましたね。
施設で食事の前に、「口腔体操」や「嚥下体操」を行うようになった所も増えたのではないでしょうか?
何となくやっていてももちろん意味はありますが、どうせやるなら「何故この動きをするのか」分かっていた方が面白いですよね!
ということで、今回は私が特養でしている「嚥下体操」「口腔体操」をご紹介+意図の解説をしていきます!
藤島式嚥下体操
上の図は藤島先生が考案された嚥下体操です。
私はこちらの嚥下体操をベースに、唾液腺マッサージ、嚥下おでこ体操を加えて嚥下体操を行っています。
深呼吸
安全な食事摂取には、【呼吸機能】が保たれていることが大切です。
「喉頭侵入してしまった際に、しっかりと強い咳で侵入した食塊を外に出せる」ことが、安全な食摂取には必要不可欠だからです。
鼻から吸って、口をすぼめて「ふー」と吐くことでしっかりと呼吸をすることができます。
「吸う時に手を上げる+吐く時に下げる」動作を加えると、胸郭の動きをサポートすることができ、より深く呼吸をすることができます。
リハビリ用の棒(新聞紙丸めてビニールテープで巻いたものでOK)があれば、棒体操として胸郭可動域訓練を行うことができます!
・両手で棒をもって上下+深呼吸
・両手で棒の端をもって体をひねる
・手を上に上げて、体幹を左右に倒す
棒を使うと「体操してる!」感がでるのでおすすめです!
首の運動
食べる前に首のストレッチをすることで、「ごっくん」と飲み込む時に動く筋肉が動きやすくなります。
「ごっくん」の時に動く筋肉の位置や関係については、下の記事を見てみてください!
頚部の前屈/後屈(下を向く/上を向く)
左右の側屈(左右に首をかしげる)
左右の回旋(首をひねる)
をやっていきましょう!
できる方には自分の手(もしくは介助して)で伸ばすともっとしっかりと伸ばすことができます。
「痛気持ちいい」程度に伸ばしていきましょう!
肩の運動
嚥下に関連する筋肉は、肩甲帯ともつながっています。
肩の動きが悪くなる、肩甲帯が固まってしまうと、嚥下に関連する筋肉が十分に動くことができません。
肩の筋肉をほぐすことで、嚥下に関係する筋肉も動きやすくすることができます。
肩の上げ下げ(きゅっと上げて、すとん、と落とす)
肩にてをあてて、前/後ろへ回す
唾液腺マッサージ
yosii.png (639×343) (kureishi.net)
加齢により安静時の唾液分泌は減ると言われていますが、刺激による唾液の分泌は変わらないとされています。(())
口に入れた食べ物をかみ砕いた後、飲み込みやすいように一塊にするには唾液が必要です。
また、食べ物の味は唾液に混ざり味蕾で感じることができます。唾液が不十分であると、食べ物の味を薄く感じたり、感じられなかったりすることがあります。
食事の前に唾液分泌を促すことで、①食塊形成を助ける②味を感じやすくする
効果があります。
頬・口唇・舌の運動
口腔器官は咀嚼・食塊形成の際にフル活用される部分ですね!
スポーツをする前に準備運動で軽く走ったりするように、食事前に動かしておくと食事の時に動きやすくなります!
頬を膨らます/へこます
口を大きく開ける「あ」→「ん」と思いっきり閉じる
唇を「い」→「う」
舌を思いっきり前に出す(できれば水平に)
舌の上下運動
舌の左右運動
舌の運動の際には、顎や首が一緒に動かないように意識してもらえるとなお良いです!
よく舌を上に動かすと首も一緒に上を向いていたり、下が右にいくと顎も一緒に右に動いている方が多くいらっしゃいます。
効率の良い食塊形成には、舌-下顎が分離して協調的に動くことが必要です。
赤ちゃんははじめ下顎-口唇-舌が一体化して動いていますが、徐々に分離して動かすことを獲得していき、母乳→離乳食→普通の食事と食べられるものが増えていきます。
高齢者の方で、特にペースト食を召し上がっている方はこの下顎と舌の分離運動が難しくなっている方が多い印象です。
ペースト食は基本的に食塊形成が必要のない形態(丸のみできる形態)であるため、下顎と舌の分離運動が不十分であっても飲み込めるようになっています。
分離運動の低下とペースト食の開始がどちらが先であるのかはいわゆる「にわとりタマゴ」の話になってしまいます…
分離運動は姿勢ともかかわってきています。
この辺りの話はまた複雑になってきますので、また別にまとめてみたいと思います!
発声訓練・パタカラ体操
「発声」は「声を出す」ことが目的です。
有声音(母音や特定の子音)を出す際には、声帯が閉まっています。
食塊が気管に落ちてしまいそうになっても、この声門閉鎖がしっかりとできていれば、防ぐことができる確率が上がります!
発声訓練は呼吸機能+声門閉鎖にアプローチすることを目的にしています。
声門閉鎖に選択的にアプローチする方法もあります(pushing/pulling法)
パーキンソン病の方がいる施設も多いと思うので、「なるべく大きな声を出しましょう」という指示を加えてみても良いと思います!
「低い声→高い声、高い声→低い声」と高さを変えていく事も、喉頭を自由に動かすエクササイズになります。
一回一回区切らずに息を続けて行うと、長く息を吐く運動にもなります。
複数のことを同時に行うと負荷は高くなりますので、利用者さんたちの機能や状態に合わせてプログラムしていきましょう!
パタカラ体操
パタカラ体操も、すっかり有名になりましたね!
「パ」で口唇閉鎖
「タ」で舌尖と口蓋の閉鎖(アンカー機能)
「カ」で奥舌と口蓋の閉鎖(舌ー口蓋閉鎖)
「ラ」で舌尖の細かな動き
を行う練習になっています。
まずは一つ一つの動作がしっかりとできるところから始めましょう!
スピードはそれぞれの動作が正確にできる範囲であげていきます。
集団で行うことが多いと思うので、「なるべく早く」ではなく「ゆっくりしっかり10回」などの教示で行うのが良いと思います!
個別に行う場合は、その方の機能に合わせてスピードを変えていきましょう!
嚥下おでこ体操
舌骨上筋群の筋トレです!
食事前に行うことで、即時効果が得られるとされています!
おでこを手のひらで押して押し返す、両手の親指で顎の下を押して押し返す…など色んなやり方が紹介されています。
おすすめは、【顎のしたにこぶし大のボールを入れて潰す】方法です!
おすすめの理由は、単純にやり方が分かりやすい!!
100均で売っているような、こんなボールでOK!
10秒潰し続ける/10回潰す、どちらの方法でも良いです!
おわりに…
どんな意味でやっているのかを伝えることで、体を動かすことに乗り気になる利用者さんもいます!
効果を知った上で、楽しく体操をしていきましょう!
参考文献