ST介護職の考え事

認知症・高次脳機能・ケアについての覚え書き

食形態の特徴と適応ー①嚥下調整食学会分類について+ミキサー食の特徴と適応

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今回から何回かにわけて各食形態の特徴と、適応についてまとめていきます。

まずは食形態を考える上でかかせない【嚥下調整食学会分類】についてご紹介した後に、ミキサー食の物性・特徴と適応について勉強したことをまとめていきます。

 

嚥下調整食学会分類2013

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食形態について考えるときに、頭に入れておいてほしい図がこちらの【嚥下調整食学会分類】です。

現状各施設で使われている「ペースト食」「ソフト食」などは、同じ名前を使っていても実態が異なることが多くあります。

そのため「ペースト食」などという名称を使わずに、食形態の統一した指標として作られたのがこの学会分類です。

各項目の説明は、以下の図を参照してください。

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嚥下調整食学会分類2013:

https://www.jsdr.or.jp/wp-content/uploads/file/doc/classification2013-manual.pdf

 

経口摂取をしていない状態から嚥下訓練を進めていく際には、コード0から始めて段階的に数字が大きい方へと形態を上げていくイメージで進んでいきます。

 

0j,0tは経口摂取をしていない方に対して、直接訓練開始時に使うようなものになります。

タンパク質は誤嚥し肺に入った場合に肺炎の温床となりやすいため、0j,0tではタンパク質含有量が少ないことが条件となっています。

1jも訓練レベル、もしくは補助栄養などで用いられることが多い印象です。

 

実際に「食事」提供されるのはコード2以上の物かと思います。

それぞれの項目のポイントは【凝集性・付着性・滑らかさ(粒の有無)・硬さ・離水の有無】です。

食事の物性を考えるときは、これらの項目は注意して見る必要があります。

 

コード2相当がミキサー食、コード3-4相当がソフト食になっていて、「刻み食」はどこにもありません。

常菜(通常の硬さのおかず)を細かくしただけの刻み食は、硬い上にばらつきやすいため、「嚥下しやすく」配慮されたものとは言えません。

そのため、「嚥下調整食」の中に「刻み」の形態は入れられていません。

 

「細かくする」ことで咀嚼を補うことにはなりますが、それ以降の【食塊形成・送り込み・嚥下】に対しては不利に働きます。

 

「細かくする」ことは咀嚼を補う、と書きはしましたが、実際にはあまりに細かくすることは逆に咀嚼しにくくなる、あまりに細かくすると逆に咀嚼が多く必要となることがあるという研究が発表されています。

www.jstage.jst.go.jp

 

「刻み食」が不要かと言われると、そういうわけではありません。

ミキサー食から形態を上げていく流れを考えた時に、粒が大きくなっても対応できるか

、ばらつきが増しても大丈夫か等を評価できますし、攪拌していない分ミキサーに比し元の食事の味が感じられます。

 

単に「咀嚼が不十分だから」という理由で刻み食を選択するのは、いったん止まって考える必要があるかと思います。

嚥下機能・咀嚼機能・食の楽しみ…様々な角度から総合的に評価して形態を考える必要があります。

 

ペースト食(ミキサー食)

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ミキサー食とは

【食事をミキサーにかけてペースト状にしたもの】と定義されています。

単にミキサーにかけるだけでは凝集性は低く、流入速度も速くなってしまう可能性が高いため、ここにとろみ剤を入れてまとまりを出している施設がほとんどだと思います。

 

「食物をミキサーにかける」工程まではどこでも同じかと思います。

とろみ剤を入れるところで、何を・どのくらい入れるかによって、ミキサー食の物性が変わってしまいます。

 

ミキサー食の物性

ミキサー食は大体コード2に当たります。

 

単純にミキサーにかけただけでは、ある程度粒は残り、滑らかにはなりません。

(学会分類の言う“粒がない”“滑らか”=ゼリーやババロアの表面のイメージです。)

とろみ剤をいれてまとまりを出すので、凝集性は高いです。つまり、まとまりがあります。

とろみ剤をいれる量により硬さと付着性が変化します。

とろみ剤を多く入れると、それだけ硬さと付着性が増加します。

 

「とろみ剤入れとけば安全でしょ!」と入れすぎると、ミキサー食にそぐわない(コード2ではない)硬さと付着性になってしまいます。

 

コード2は咀嚼が不要な形態です。舌の送り込みと、単純な食塊形成能力のみで丸のみする形態です。

硬くしすぎると、唾液を混ぜて嚥下に適した食塊を作るために咀嚼様の動作が必要になります。

安全にしようという配慮が裏目に出てしまいますので、ミキサー食に更にとろみ剤を入れるのは慎重に行う必要があります。

 

ミキサー食はゼリーに比べると付着性が高いため、流入速度は遅くなります。

 この特性はゼリーに近いタイプのソフト食とミキサー食の使い分けの重要なポイントです。

 

付着性に弱いタイプの方に対しては、ゼリーに近いタイプのソフト食の方が送り込みを補助し残留の軽減に有効と考えます。

対して流入速度に弱い(嚥下反射が遅れる、嚥下反射のタイミングがずれる)方は、ミキサー食で流入速度を遅くすることで、適切なタイミングでの嚥下反射惹起が可能となる場合があります。

ミキサー食の適応

 学会分類のコード2に求められる機能は

下顎と舌による食塊形成能力および食塊保持能力

とされています。

コード2は「口腔内の簡単な操作で食塊状になるもの」という説明があるように、コード0や1に比べると多少ばらつき・凝集性の低下があります。

それを一塊にするには、舌(場合によっては下顎を代償的に使う)の運動が必要です。

実際にはミキサー食の凝集性は複雑な舌運動を必要とするほど低くないため、若干の舌・下顎の運動が可能であれば摂取できることが多いです。

 

コード2の摂取には当然それ以下のコードで求められる機能も必要であるため、

若干の送り込み能力

もミキサー食の摂取に必要です。

 

この「送り込み能力」は、実際には代償手段により補填することが可能な部分でもあります。

咽頭期機能が保たれており口腔期にのみ重度の障害が有る場合には、シリンジの先にチューブを付けたものや、ドレッシングボトルの先を長くしたものの中にミキサー食を入れて押し出すことで摂取が可能な方もいらっしゃいます。(=口腔期をスキップする)

 
イメージとしては下の【らくらくごっくん】と同じです。
口腔での送り込みをスキップして、咽頭に直接送り込み嚥下します。

あくまで咽頭期機能が保たれていることが前提ですので、ご注意ください。 

 

逆に、ミキサー食を摂取するのに必要ではない機能は咀嚼(押しつぶし・すりつぶし)です。

簡単に言い換えれば、噛まなくていいです。

そのため舌や歯茎で押しつぶす力も弱い方は、咽頭期機能が保たれていても窒息リスクが高いためミキサー食が適当かと思います。

 

食形態変更のチェックポイント

姿勢やその他の代償手段、自力摂取/介助などほかの要素の関係もありますが、形態を含め「何かを変えなければならない」時に現れるサインをまとめてみます。

 

ソフト食や刻み食からミキサー食へ変えた方が良い所見

・いつまでももぐもぐとして飲み込まない

・口の中の残留が多い

・ガラガラ声、のどから呼吸に合わせてゴロゴロ音がする

・頻回なムセ

・微熱が続く・熱発・痰の増加

 

ミキサー食からソフト食・刻み食に上げることを考える所見

特に生活期では、病院での設定がそのままで現在の能力よりも低い形態が変えられないままの利用者さんが多くいます。

安全に食べるために「形態を下げる」ことだけ考えるのではなく、生活の質を上げるため「形態を上げる」サインも敏感にキャッチしましょう!

 

・しっかりと覚醒している(JCS1桁)

・30分以内の摂取が1週間続く(誤嚥所見なしで)

・下顎の回旋運動が生じている

・舌がふっくらとしている

・聞き取りやすい声で話せる

・力強い咳ができる

 

 

ミキサー食の特徴と適応のまとめ

ミキサー食は「若干の食塊形成を行うことで嚥下ができる」形態です。

凝集性が高く、もともとほぼ食塊となっているものを、多少寄せ集めて送り込むことで嚥下できる形態です。

付着性がゼリーに比べ高いので、流入速度はゆっくりです。

粒は多少ありますが、「濃いとろみ」の副食バージョンといったイメージです。

 

利用者さんの特性・状態に合わせて、食形態を考えていきましょう!

次回に続きます!

 

参考文献