水分をゼリーにするか?とろみにするか?-評価・考え方のポイント
水分の形態はゼリー/とろみ(濃い・中間・薄い・ごく薄い)で調整されている所が多いかと思います。
ゼリーととろみには、それぞれその特性に応じたメリット/デメリットがあります。
ゼリーを使っているから、とろみでは絶対飲めない!なんていうことではありません。
一方で、ゼリーは大丈夫だけれどもとろみには対応できない!という方もいらっしゃいます。(逆もまたしかり…)
それぞれの特性を活かして安全な経口摂取をサポートしていくことが大切です!
ゼリーととろみの物性についての細かな話はこちらに書いているので、気になる方はこちらも見てみてください!
とろみとゼリー
「嚥下が危ない人にはとりあえずとろみ、それでもむせるならゼリー」
こんな風な考えの方が当施設の介護/看護にはとっても多いなと感じています…
施設STとしてもっと布教を頑張らないければいけないと身に染みて思います。
こちらの学会分類をご覧になって分かるように、コード0には0t,0j、つまりは「とろみ」と「ゼリー」両方あります。
開始食は必ずしも「ゼリー」と決まっているわけではなく、患者さんの機能によって使い分けましょう!という意味です。
ゼリーととろみを比較して、物としてどちらが安全!と決まっているわけではなく、対象とする患者さんによって難易度が変わってきます。
一概にゼリーの方が安全!と断言することはできず、その方にとってはもしかすると「とろみ」の方が安全に摂取できるかもしれません。
その可能性を考えて評価していく必要があります!
ゼリーの特性
とろみと比較した分かりやすいゼリーの特徴は「ツルツルしている」ことです。
「つるつる/べたべた」の性質を「付着性」と言います。
ゼリーは付着性が低いです。付着性が低いので、飲み込んだ時にのどにべたべたとくっついて残留しにくく、するんと入っていくことが期待されます。
STとしてゼリーに期待する効果の1つは、この「咽頭残留しないで飲み込まれる」ことです。
のどに残っていた残留とともに、ゼリーが一緒にするんと飲み込まれると残留が綺麗にクリアされます。
よく聞く「ゼリーを使った交互嚥下」というのはこの効果を狙っています。
付着性の高いものがのどに残っても、その後のゼリーで綺麗に全部飲み込んだらのどには何もない状態になります。
逆に言えば、STは「ゼリーが残留すること」を恐れています。
ゼリーは付着性が低いので、のどに残ってしまった場合、その場所に張り付いて留まることができません。簡単にぽろりと気管側に落ちてしまう可能性が極めて高い。
ゼリーはするんと綺麗に飲み込めれば安全で咽頭クリアランスを図れるメリットがありますが、残留してしまうと誤嚥のリスクが一気に上がります。
そのため、「ゼリーは残留させない!」が鉄則です!
つまりは、「量の調整」が重要となってきます。
少し話がそれますが、ゼリーをクラッシュさせて介助している場面を当施設ではまだよく見かけます…
一般的に「ゼリーは凝集性が高い」と言われています。
凝集性とはまとまっている、という事です。口の中やのどで散らばりにくく、一塊、ひとまとまりになっているという性質です。
ゼリーはスライス型など配慮した塊の形で摂取すれば、凝集性が高いです。
しかしクラッシュしてしまうと、反対に凝集性は低くなります。(バラバラになっているので)
凝集性が低いことのデメリットは
・食塊形成に不利(刻み食が嚥下機能の低下した方におすすめできないのもこの理由)
・送り込み-嚥下圧が分散する(凝集性高いと圧が一点集中するが、凝集性低いと圧が散らばる)
ゼリーをクラッシュすると、ゼリーが本来持つ凝集性を低くし、デメリットを増悪させます。
「凝集性が低い+ゼリーの持つ付着性の低さ」により、のどに残った場合はより気管側へぽろりと落ちていってしまいやすくなります!
嚥下障害がない方、咽頭期障害が無い方に行う分には大丈夫だと思いますが、咽頭期機能が低下している方にゼリーをクラッシュして摂取してもらうのはリスクが大きいです…。
ましてクラッシュしたゼリーをカレースプーン一杯まるまる口に入れる…なんていうのは誤嚥のリスクが非常に高いです。
つまり、ゼリーはクラッシュせず一塊で、残留しない量で摂取するのが重要です!
そうすることで、ゼリーの特性(付着性が低い、凝集性が高い)を効果的に利用することができます!
(そのため、ゼリーを咀嚼をしてしまう方はゼリーのメリットが発揮し辛いです)
とろみの特性
ゼリーはつるつるとして付着性が低い物性でしたが、反対にとろみはべたべたとしていて付着性が高いです。
とろみによりまとまりがあるので、凝集性は高い物性です。
付着性が高いのでのどにべたっと張り付いて残りやすいというデメリットはありますが、反対に残留してもそのままのどの張り付いているだけで気管の方へ零れ落ちていきにくメリットがあります。
また、とろみをつけることで「流入速度」を遅くすることができます。
のどの筋力が落ちゆっくりになる動きに流入速度を合わせることができます。
嚥下機能が落ちた方に対して「お水は危ないのでとろみをつけましょう!」と言う時に期待されているのは多くの場合この「流入速度を落とす」効果です。
とろみはその方に合わせた濃度の調整、一口量の調整が大切です!
「濃くすれば安全」というわけではありません!!
濃くしすぎれば飲み込むのに力が余分に必要となり、残留を増やしてしまうことにも繋がります。
そのようにとろみを濃くしすぎた状態で、たくさんの量が入れられてしまうと、最悪の場合窒息に繋がってしまいます…。
その方が綺麗に安全に飲み込める濃さ/量を評価していく事が大切です!
とろみの場合は一回のごっくんで残留したとして、残ったものをどうクリアランスするかも一緒に考える必要があります!
指示が入り前屈位が取れたり空嚥下が可能、咳払いができたり、一回のごっくんの後に反射的に追加嚥下が起こるなら、とろみの方がゼリーよりも有効かもしれません。
おわりに…
ゼリーととろみ、どちらにもメリットデメリットがあります。
個人的には両方使うのもありだな…と思うことも多くあります。
量的・質的「交互嚥下」では「べたべた一杯→つるつるスプーン半量」と交互に摂取していく事で咽頭クリアランスを図っていきます。
その手法をとるときには、とろみとゼリー両方あった方が便利です。
食事場面ではミキサー食はべたべたしていることが多いので、水分はゼリーの方が交互嚥下しやすいです。
その方の機能にあった形態をきちんと評価して、安全な経口摂取を進めていきたいですね!
参考文献