食事の姿勢について③-のどの構造から考える食事姿勢としての「側臥位」のメリット
咽頭で食塊は左右に分かれ流入する!
まず、のどへ送り込まれた食塊の流れについて考えてみましょう。
奥舌にそって送り込まれていく食塊は、喉頭蓋で一度せき止められます。喉頭蓋から左右に分かれ、梨状窩→食道入口部へと流れていきます。
喉頭蓋から左右に分かれ食道入口部へと続く食塊の通り道をLateral Food Channel
と言います。
上の図で言うと黄色の部分がこのLateral Food Channelになります。
このLateral Food Channnel が左右にある、ということが、側臥位の使い方と関連してきます。
食事姿勢としての「側臥位」
側臥位は「左右」が「上下」に変化する姿勢です。
右側臥位をとると右が下、左が上になります。
左側臥位では左が下、右が上になります。
食塊も重力の影響を受けます。そのため右側臥位では、下になっている右側のLateral Food Channelを食塊は流れていくことになります。左側臥位ではその反対です。
側臥位にすることで、仰臥位では左右2方向に進む食塊の流れを、1方向のみにコントロールすることができます。
嚥下障害と言えば必ず出てくる「ワレンべルグ症候群」では食道入口部開大不全が生じますが、これには左右差があることが多いとされています。
食道入口部の開きやすい方を下向きにする側臥位をとることで、仰臥位や座位よりも通過が良くなる可能性があります。
また、梨状窩の深さにも左右差があると言われています。
梨状窩が深ければ、その分残留しても気管内へ零れ落ちにくくなります。
VFやVEのような他覚的な検査をしなければ本当の所は分かりませんが、仰臥位でうまくいかない方は側臥位を左右両方試してみるのは良いと思います。
また食塊の通り道のコントロールは口腔内でも同様に考えられます。
顔面神経や舌下神経麻痺によりいつも一方の臼歯部前庭(頬の内側)に残留するような場合には、残留する側を上にした側臥位を試してみる価値があります。
重力により上側の食塊は下に落ちていきます。患側を上にしておくと、患側側にそもそも食塊が行きにくくなるため、結果的に残留が減ると考えられます。
完全側臥位法
最近注目されている姿勢に「完全側臥位」というものがあります。
ただ単に「側臥位」と言ったときにはBed upを30°程度しているイメージです。
この「完全側臥位」はBed upをしません。頭を上げない、フラットな状態で側臥位をとることを「完全側臥位」と言います。
この完全側臥位のメリットは「残留したものが咽頭の側方へ残るため、誤嚥しにくい」という点です。
ある研究で座位と完全側臥位での咽頭貯留可能量を計測しています。*1
その結果、座位では4.6mlの咽頭貯留が可能であるのに対し、完全側臥位では14.2ml可能であることが分かりました。
また完全側臥位では気管が重力と垂直に位置することになるため、残留が重力により気管へ落ちてくることが少なくなります。
残留を保持できる量が拡大すること、気管が重力に対し垂直に位置することで、完全側臥位は誤嚥のリスクを軽減させることできます。*2https://www.jstage.jst.go.jp/article/geriatrics/56/1/56_56.59/_pdf/-char/ja
頸部回旋と側臥位
側臥位で食塊を1方向へ通るようにした上で、頸部回旋(側屈でもOK。回旋までいかず側屈で十分という文献もあります)を加えると更に有効性が高まります。
つまり、頸部回旋も、食塊をより1方向へ流れやすくする効果があります。
頭を右側へ向けてみましょう。
右側の首の皮がぎゅっと寄って、右側が閉まる感じがするかと思います。
同様の現象が、咽頭でも起こっています
右側を向くと、右側がぎゅっとつまり、反対に左側が広がります。
そのため、右側のLateral Food Channel を食塊が進もうとしても、進もうとした先が物理的に遮断されている為通れず、左側の道を進むことになります。
結果、食塊は1方向を進むことになります。
咽頭残留に対する頸部回旋→追加嚥下がなぜ有効性も、頸部回旋による物理的な圧迫から考えることができます。
左右に残留したものを頸部回旋により物理的に押し出して、追加嚥下でもう一度押し込んでいるのです。
側臥位で重力により下側に行きやすくした上で、頸部回旋を加え上側に物理的な遮断を加えることで、より下側のみを通りやすくなります。
そうするためには、側臥位にした上で、上向きに首を回旋してもらいます。
右側臥位で頸部左回旋、左側臥位頸部右回旋となります。
「側臥位で食べる」ということの、見た目の違和感は大きいかと思います。
完全側臥位になればなおさらです。
しかし、側臥位にすることのメリットは多く、「むせて食べられない」「残留が多くて食べられない」と言われる方々が食べられる可能性のある姿勢でもあります。
どの姿勢がその方にとって最適な姿勢か。どの姿勢だったら食べられるのか。
本当に、全てを試してみたのか。
諦める前に、様々な代償的な姿勢を試してみることは有効だと思います。
なるべく長く、口から食べる幸せを享受してもらうことができるよう、日々勉強しながら頑張っていきましょう!
参考文献
*1:完全側臥位法による肺炎死亡率減少への挑戦
http://www.gkren.jp/hospital/pdf/yushu1.pdf
*2:重度嚥下機能障害を有する高齢者診療における完全側臥位法の有用性