ST介護職の考え事

認知症・高次脳機能・ケアについての覚え書き

一口量を考える-誤嚥・窒息を防ぐ/スムーズな食事に適切な1口量の評価-

食事介助の現実

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食事介助


医療にしても介護にしても、基本的に人手不足でどこの現場もとても忙しいです。
食事介助の際も、1人のスタッフが2人の介助を行いながら、周囲の何とか自力摂取している方に目を配るのが日常的に行われています。

決められた時間の中で業務をこなしていくために、その状況は致し方ないことです。

しかし、その結果行われる食事介助はどうなるでしょうか?

決められた時間内で食べ終わらなければいけないので、スプーンにすくう量は多くなります。
とりあえず口に入れたら、隣のもう一人の口に同じようにいれます。
またすくって口に入れようとした時、向かいの方が手で食べ始めたのでそちらを見て声掛けをしながら、手は利用者さんの口へスプーンを入れています。

「てきぱき」と言えば聞こえはいいでしょう。
けれど、この介助は安全な経口摂取のための配慮ができた介助とは言い難いです。

もちろん、現場で介護も行う1人として、現場の忙しさは十分に分かっています。

それでも、忙しい中でも安全のために決められた方法で介助を行うことが必要な、「リスクの高い」方々がいます。
残存機能を最大限に生かすために、特定の手法がとても有効な方々もいます。

全ての方に同様の介助を行うのではなく、
「この方にはどんな介助が必要なのか/不要なのか」
を考えながら日々の介助を行っていきたい
と私は思っています。

さて、こんな前置きをしたのは、食事介助時口いっぱいに詰め込まれている方、飲み込む前に次の一口を入れてしまわれている方をとてもよく見るからです。

こんな風に書くと、「そんな酷いことをするわけない!」と思われるでしょうが、忙しい状況で複数人へ注意を向けていると知らず知らずのうちに「そんな酷いこと」をしてしまうのです。

知らず知らずに行わないためには、知識が必要です。
自分の介助がその方にとってどんなものなのかを知る必要があります。

一口量はどのくらいが適切か?


どんな人にもスプーン山盛り一杯を口に押し込むスタッフもいたりしますが、それはいかがなものかと私は思っています。

「その方にあった一口量」というものがあります。

判断基準は
咽頭期障害の有無
②口腔・咽頭残留
③口腔期(咀嚼・食塊形成・送り込み)がスムーズに惹起する

の3点を考えています。

咽頭期障害の有無

基本的に、咽頭期障害がある方の1口量は少な目が良いです。
その方の機能や、何を食べるか(物性)にもよりますが、一口量はティースプーン半量~1杯くらいが良いと思います。

咽頭期に機能低下がある場合、嚥下のタイミングのズレ・咽頭残留、そこからの喉頭侵入・誤嚥を生じるリスクが高いです。

低下した筋力でも残留なく飲み込めるだけの量にする、という意味で一口量を少なくします。
また、もし残留・誤嚥してしまったとしても、その量がなるべく少なくなるように少な目の設定をすることが安全対策になります。

一方で、一口量があまりに少なすぎると、送り込みが難しくなり口腔内残留を生じる可能性があります。
Rademakerらの研究では1,3,5,10mlまでの水を嚥下させた時の送り込みの時間を計測し、その結果
体積が大きくなると送り込み時間が短縮することを明らかにしています。

その辺りのさじ加減は、患者さん毎に微調整が必要な部分かと思います。
患者さんの反応を見ながら調整していってみてください!

②口腔・咽頭残留

口腔内・咽頭残留が多いと予測される方の一口量も少な目が良いです。

口腔内残留する方は、舌や顔面の麻痺や運動範囲低下を生じていることが多いです。
姿勢による代償や交互嚥下でのクリアランスを図るのはもちろんですが、そのような代償を加えてクリアランス可能な程度の量にしておく必要があります

咽頭残留での考え方も同様です。
追加嚥下や交互嚥下等の代償手段で咽頭リアランスが図れる程度の量を一口量に設定する必要があります。

リアランスとの関係で一口量を考えるときは、物性による違いも評価しておく必要があります。

付着性の高い物性は、べたべたと張り付くので一口量を少な目にすることが有効なことが多いです。
また、粒がありまとまりがない物性は舌ー口蓋圧力が分散することによって、食塊に圧力がかかりにくいです。
そのため口腔内での残留に繋がるため、一口量は少な目にして交互嚥下を行うと良いです。

ごく刻みなどにとろみをかけることがありますが、この対応はごく刻みが口腔内に散らばってしまうのを、舌の巧緻性低下によりまとめることが難しい場合には有効です。
舌の筋力低下により送り込む圧力が不十分な場合には、粘性を高くしても粒により圧が分散するのに変わりはないため、とろみを付加してもあまり変わりは生じません。

③口腔期(咀嚼・食塊形成・送り込み)がスムーズに惹起する

ここまで一口量は「少な目の方が良い」と言ってきましたが、一口量が「多めが良い」ことももちろんあります。

「先行期に機能低下がある」時、「口腔内感覚に低下がある」時です。

口の中に食べ物が入っているのに、一向に咀嚼が始まらず口を開けっぱなし、という方がたまにいらっしゃいます。
重度の認知機能の低下があり、覚醒状態もあまりよくなく、普段はベッド上での生活を送っているような方に多いです。

このような方は咽頭期に障害がないのなら、一口量は多めの方がその後の嚥下反射までがスムーズに惹起します。

私たちは「今は食事の時間」と認識して席に着き、目と鼻で目の前の食事を感じ取り、食具をもって口に運び…と「食べる」に繋がる刺激をたくさん受けてから食べ始めます。

しかし重度の認知機能低下にある方は、「食べる」に至るまでのたくさんの刺激がどれも入力されずらくなっています。
その結果、ただ口の中に食べ物が入るだけの刺激では、嚥下反射に至るまでの一連の動作のトリガーにならなくなっていまっています。
この辺りの嚥下における「先行期」の重要性については、また今度まとめたいと思います。

そのため、嚥下にいたるトリガーを引くため、刺激の量を増やす必要があります。
その方法が、冷たい物/温かい物といった温度の刺激や、味の刺激。そして今話題にしている「一口量の増加」です。


認知機能を含めた評価をきちんと行って、その方にとって適切な一口量を考えながら、丁寧な食事介助をしていきたいですね!