【頸部聴診】による嚥下機能評価-どんな嚥下音の時に何が起こっているか?
頸部聴診は怖くない!
嚥下機能の代表的な検査の一つに、「頸部聴診法」があります。
RSST、MWST、FTとSPO2や呼吸状態の評価、頸部聴診を組み合わせることで、評価の正確性をより高めることが可能です。
VFやVEといった他覚的検査がやりにくい生活期の現場では、他のアセスメントももちろん行いますが、頸部聴診から得られる情報に助けられることが多くあります。
特に残留の有無、咽頭クリアランスの予測を立てるのに、聴診はとても役立ちます!
(喉頭挙上の触診・視診ももちろん!)
しかし、頸部聴診は養成校でその技術の練習はほとんど行われず、現場に入ってやってみることがほとんどです。
その結果、「聴診はなんか苦手だな」「自信がないな」と思っているセラピストがとても多いです。
私も初めて聴診してみてと先輩から言われた時は、「聞いたところで評価なんてできる気がしない!」と冷や汗をかきながら形だけやっていました。
そんな頸部聴診が、今では強い味方になっています。
何度経験を重ねても、一回で完璧に評価ができるわけではありません。
一回聞いて分からなければ、もう一回聞けばいいのです!
その日評価しきれなければ、次の日もう一度評価すればいい!
そのくらいの気持ちで、とにかく数を重ねていくことが大切です!
頸部聴診の方法
頸部聴診の方法自体はとても簡単です。
飲み込んでもらう時に、首に聴診器を当てて聞くだけです。
聴診の位置は「輪状軟骨直下気管外側上」が良いとされていますが、そこまで細かく気にしなくても大丈夫だと思います。
正中に聴診器を当ててしまうと喉頭の動きを阻害してしまうため、喉頭の側面・胸鎖乳突筋の前方付近に当てると良いです。
チェストピース全体を、しっかりと皮膚にあてることが大切です。
しっかりと当てていないと、音がちゃんと聞こえません。
皮膚に触れる面積が大きいほど聴取しやすいですが、大きいものは頸部表皮に密着しにくいという欠点があります。*1
やせ型の高齢者の頸部は細い上に骨ばっているため、チェストピース全体を密着させるのが成人用の聴診器だと難しいことがあります。
小児用・新生児用の聴診器の方が、しっかりと音を拾えると思います!
実際の評価は頸部聴診だけをするわけではないと思います。
のどに触れて喉頭運動を確認して、捕食動作や口腔期を見て、呼吸状態も見て…と多角的に評価をしなければいけません。
一度に全部をしようとすると大変ですし、焦りでミスのでる可能性が大きくなります。
評価項目を書き出して、一口二口それぞれに対して「今はこれを見る!」と決めて行うのが確実です。
頸部聴診時は片手で介助をして、もう片手で聴診器を当てる形になります。
私は右利きなので、右手にスプーンをもって、左手で聴診器を当てています。
その方の姿勢や注意等に問題が無い場合は、右側から介助をしています。
自分がスムーズに評価できるように、どちら側から入るのかも考えておくことが大事です!
嚥下音・呼吸音の評価
最初に一つ注意です!
頸部聴診で聞くのは、「嚥下音」だけではありません。
嚥下前後の「呼吸音」も大切です!
評価開始前の咽頭湿性音は痰等の咽頭貯留の存在を示しています。
評価前に吸引でクリアにしておくことが必要です。
また、何かを口に入れた後、嚥下前の呼吸に湿性音がある場合は嚥下前に食塊が咽頭や喉頭内に滞留していることを示しており、嚥下反射遅延が考えられます。
嚥下後の呼吸に湿性音がある場合は、咽頭残留が推測されます。
追加嚥下等の代償法を行った後、その変化を評価しましょう。
代表的な嚥下音、その評価は上の表を見てみてください。
聴診で一番迷うのは、「この音はどの音なのか」ということだと思います。
その判断は、とにかく数を重ねて聞くしかありません。
「ぎゅっ」と詰まるような音は、嚥下圧産生不十分により食塊をしっかり押し込めていない状態の可能性を示しています。
「カポン」「ゴボッ」と空気が混じった感じの音は、どこかで嚥下圧が漏れている可能性を示す音です。これに「ゴポゴポ」と泡立つような音が混じれば、逆流の可能性が高くなります。
こんな風に擬音語で例示してみても、中々分かりづらいですよね…。
聴診の訓練は、実際に聞く+嚥下動態を見る(VF)のが一番です!
加えて、
異常を判断するには、まず正常な嚥下音を知る必要があります。
是非ご家族やご友人の嚥下音を色々と聞いてみてください!
正常な嚥下モデルは皆さんの頭の中にあると思うので、その動態を思い浮かべながら嚥下音の聴診をしてみると良いと思います。
異常な嚥下音は、DVDやネットから聞くことができきます。
頸部聴診を勉強するためにお勧めの本
嚥下音の聴診を勉強するときには、VF画像と連動して音を聞くことをおすすめします!
【食塊がどこでどのようになっている時に、どの音がするのか】が頭の中でイメージできるようになっておくことが、臨床で患者さんの評価をするときにとても役立ちます。
こちらは先ほどの本の内容に加えて、全体的な障害像をつかむためのアセスメント方法掲載されています。
ざっくりとしたタイプ分類から方向性を考える際には使えると思います。
嚥下音の勉強をするなら、先ほどの本だけで十分だと思います。
もう一歩踏み込んで嚥下音から嚥下をみたい!という時には使えます。
こちらは耳鼻科のドクターで嚥下に関する講演や研修等も熱心にされている先生が書かれているものです。
嚥下音に加え、呼吸音・肺の聴診についてもとてもくわしく、分かりやすく書かれています。
胸部聴診についての本はたくさんありますが、導入としてこの本はお勧めです!
可愛いイラストもついており、そこまで辟易することなく嚥下音から呼吸機能まで勉強できると思います!
嚥下音だけでなく、頸部聴診法を含めて評価からプログラム立案・実行まで網羅した、その名の通り「実践ノート」です。
こちらもDVDでVF画像と嚥下音がリンクしています。
聴診の勉強にももちろんなりますが、それ以外の部分(代償法・訓練法・姿勢についての考え方)の充実ぶりが凄いです。
他の嚥下関連の本には書かれていない、けれどとても役立つ介助方法・訓練法もあるので、ぜひ読まれてみることをお勧めします!
この本の著者である大宿先生は、全国で研修もしていらっしゃいます!
臨床で使える技術・考え方を多く教えて頂き、現場で困っている症例の質問にも答えてくださいます!
ご興味ある方はぜひ一度研修に参加されてみることをおすすめします!
【咽頭マイク】を使ってみよう!
先ほど述べたように、聴診を行うと片手は聴診器を持たなければいけないためふさがってしまいます。
しかし、【本当ならその手をオーラルコントロールや頭頚部のコントロールに使いたい!】という患者さんもいますよね。
そんな時にとても便利なのが 咽頭マイク
咽頭マイクをスピーカー/拡声器につないでおくと、両手はフリーのまま嚥下音の聴取が可能になります!!
何より、咽頭マイクを使うと一口一口の嚥下音を、毎回聴取することができます!
聴診だと片手がふさがってしまう為、評価時や最初の数口・気になった時だけの聴診になってしまいます…。
特にリスキーな方に対しては、本当は1口毎の嚥下状態を見ながら直接訓練を進めるのが理想ですよね。
咽頭マイクは、その理想をかなえてくれます!!
そこまでお高いものでもないので、試しに使ってみるとこの便利さのとりこになると思います!!
*1:食べて治す!頸部聴診法と摂食嚥下リハ実践ノート 大宿茂