ST介護職の考え事

認知症・高次脳機能・ケアについての覚え書き

ユマニチュード的排泄介助

ユマニチュードの技術

ユマニチュードはイヴ・ジネスト、ロゼット・マレスコッティの二人によって作り出された、知覚・感情・言語による包括的コミュニケーションメソッドです。この技法は「ケアする人とは」「人とは」「ケアとは」を問う哲学と、それに基づいた実践的なテクニックから成り立ちます。*1

前回、ユマニチュードの哲学についてまとめさせて頂きました。
今回はユマニチュードの具体的な技術の一つで、私が実際に教わってとても納得した「排泄介助=おむつ交換」についてまとめていきます。

繰り返しになりますが、ここに書くのはあくまで「私が解釈した」ユマニチュードの技術です。
その神髄に触れるには、やはり先生方から直接教わるのが一番です。興味を持たれた方は、ぜひ研修への参加をご検討ください!
humanitude.care

ユマニチュードの「触れる」とは?

具体的なおむつ交換の方法に入る前に、ユマニチュードでの「触れ方」についてご紹介します。
「触れる」はユマニチュードが大切にする四本の柱の一つです。

私たちが普段行う「触れる」には様々な意味を触れた相手に伝えます。
ゆっくりと広い面積で触れることで「愛情」や「優しさ」を伝えることができますが、力強く小さな面積で「掴む」と相手には「敵意」や「攻撃」のメッセージが伝わってしまいます。
認知機能が低下し、「触れられる必要性」の理解が困難になってしまった方々には、「触れる」ことが与えるメッセージに注意を払う必要があります。
私たちの手がその方に与える刺激に、常にポジティブなメッセージを載せていく必要があります。


私たちは、たとえ触られることが嫌であっても、必要性が理解できれば触れられることを受け入れることができます。
病院での診察や接骨院での治療は、その状況が理解できているので、私たちは知らない人から触られることに抵抗しません。
必要性が理解できているので、他者から「触れられる」ことを受け入れることができます。

けれど、認知機能が低下した方たちはその「必要性」を理解するのに困難を生じます。
口腔ケアをしなければ、口の中は汚いままで誤嚥性肺炎に繋がるかもれない。
おむつ交換をしなければ不潔で、臀部がかぶれたり尿路感染に繋がるリスクがある。
そんな「必要性」が理解されないまま、口や下半身といったプライベートな部分に私たち介護職員は触れていかなければいけません。

何でか分からないのに、嫌なところが触られそうなので、その方々は抵抗します。
私たち介護職員にとって、口腔ケアやおむつ交換はやらなければならないことです。その人のために、行わなければならないことです。嫌がられても、抵抗されても、その人のことを思って、やらなければいけない。
だから、抵抗する手をつかみます。振り払おうとする腕を、強い力で押さえつけます。
その時私たちは、狭い範囲で、強い力で、その方々に触れます。私たちのその「触れ方」がその方々に伝えるメッセージは「敵意」「攻撃性」です。
相手のことを思って私たちが行っているケアが伝えているのは、「敵意」と「攻撃性」になってしまっているのです。

こんな悲しい悪循環を生まないために、ユマニチュードはポジティブなメッセージを与える「触れる」技術を提唱しています。

・広い面積(指を広げて)で、ゆっくり触れる。
・親指で掴まない(親指を使わない)
・鈍感な部分から、段階を踏んで触れる。(例:背中→肩→顔)
・ある程度の重みをかける
・関節を触らない

体位交換時手足をまとめたり屈曲させたりするときも、基本的に下から手のひらで掬い上げるようにして触れます。
「掴まない」というのは意識しないと結構やってしまいがちです。「掴む」刺激が与えるメッセージはやはり攻撃性に近いので、注意していきたいですね…。

ユマニチュード的おむつ交換

1つ大事な点ですが、ユマニチュードは「触れる」ことで「絆を結ぶ」と考えています。
そのため、ケアの間どちらかの手は必ず相手に「触れている」必要があります。
慣れないうちは難しいのですが、少し意識してやってみると利用者さんの反応が変わってくるので面白いと思います。

さて、いよいよ本題のおむつ交換の技術について整理していきます!

まずベッドの高さを調整します。
ケアの高さ=恥骨の高さ、移動の高さは大腿の1/2がベッドの上端になる高さ(おろした手がベッドに届かない高さ)です。
毎度高さを調整するのは面倒かもしれませんが、私たち自身の体を守ることもとても大切です!

体を小さくまとめる

側臥位にする前に、体を小さくまとめます。
両腕を胸の上においてもらい、両下肢をできれば屈曲します。
その際の腕の運び方、足の曲げ方に、ユマニチュードの「触れる」技術を用います。つまり、掴んではいけません!

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関節をはさんだ二つの骨を支える


腕を胸の上へ移動させる際、図の赤い部分を下から手のひらで掬い上げて支えて移動します。
少し手間に感じるかもしれませんが、慣れてしまえば手首をつかんで移動させるのと時間的には変わりません。


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手の甲で大腿を押し上げる・足底支えるように膝を曲げる

膝を曲げる際、図の赤い部分に手を当てます。大腿の下に入れる方の手は、はじめ手のひらを下向きにしておきます。
手の甲で大腿を押し上げる方向に動かしつつ、足底を支えるように押して膝を曲げます。大腿下に入れていた手は、ふくらはぎの後ろ側を支えるように当てます。

胸の上に腕を置き、膝が曲がりました。これで体が小さくまとまったので、次は側臥位にしていきます。

側臥位をとる

片手を肩甲骨の下に少し入れて隙間を作ります。手を下に入れる際は、ベッドマットを押し下げることを意識します。
作った隙間から、もう片方の手を入れて隙間を大きくします。その手が大きくした隙間に、元の手を肘くらいまで奥に入れます。
一気に手を深く入れるのではなく、じわじわと掘るように手を深く入れていくイメージです

肘まで入れた手で背中から骨盤にかけてを支えながら、もう片方の手で膝を倒します。
側臥位へと姿勢が変わるとき、自分の体がその方の顔の前にくるように移動します。向きが完全に変わったら、元の立ち位置に戻ります。

ここまでで側臥位がとれました。ここから陰部洗浄・おむつ交換にうつっていきます。

陰部洗浄

この部分が教わっていて一番衝撃的でした。
「陰部洗浄を側臥位で行う」と言うのです!!
考えてみれば、羞恥心への配慮や拘縮のある方には側臥位の方が適しているなと思いました。それまでそんなことを思いもしなかったのは、私の固定観念だったのだろうなととても反省しました…。

陰部洗浄の手技自体は、皆さん行われていらっしゃるのと大きな違いはありません。
ただただ「側臥位」です!

おむつ交換

側臥位にする前に、テープは外してくるくる畳んで押し込んでおきます。この時も、意識するのは「ベッドマットを押し下げる」ことです。

新しく入れるテープ止めおむつは、縦に一度引っ張って伸ばし、軽く谷折りにしておきます。
こうすることで、ギャザーがしっかりと立ち、「中央」が分かりやすくなります。

テープ止めおむつのはしのひらひらとした部分にはファイバーがありません。

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テープ止め模式図

図の赤丸をおむつの「中央」とします。
この「中央」を仙骨から4横指上、指2本分ベッドマット側の部分へ当てます。
自分の腰あたりでおむつをずれないように抑えながら、おむつを下へ押し込みます。
この時端の方のシーツを引っ張りながら、ベッドマットを押すように入れ込んでいきます。


入れ込んだら、側臥位にした時と同様の方法で背臥位にした後、鼠経にギャザーをしっかりと沿わせていきます。

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鼠経部ギャザーの沿わせ方

まず、おむつの前に出ている部分を軽く引っ張ってたるみをなくします。
前に出ている部分の真ん中あたり、テープの部分付近(赤丸の部分)をもって、鼠径部に回すように沿わせます。
同様に反対側も鼠径部にしっかりとギャザーを沿わせます。

ギャザーをしっかりと沿わせたら、テープを止めていきます。
ユマニチュードでは足が自由に動きやすいように、面白い止め方をしています。

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テープの止め方(青=上側、黄色=下側)

上側のテープを鼠経に沿わせる形で止め、下側のテープを上側のテープを固定するイメージで下から上へ止めます。
おむつの上端はあまり固定されずにひらひらとしてしまうのですが、足の可動性はこの止め方だと段違いです!
研修ではお互い普段のやり方とユマニチュード的方法の両者を体験してみるのですが、股関節の可動性が全然違います!
ユマニチュードは「人は動くもの」という定義をしているため、このように動きやすい方法を採用しているのだと思います。


お一人お一人ベストなケアの方法は違うかと思います。
その方にとってのベストを探す手数の1つとして、こんな方法もあると知っておくと役に立つことがあるかもしれません!

*1:ユマニチュード入門