ST介護職の考え事

認知症・高次脳機能・ケアについての覚え書き

言語聴覚士が伝える「食事介助の基本」

 

食事の介助とは

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食事介助とは、箸やスプーンを持てない、うまく食事を飲み込むことができないなど、ひとりでうまく食事できない方のために介助を行うことを指します。具体的には、スプーンを口に運んだり、飲み込みやすい工夫を考えたりすることで、被介助者の食生活をサポートします。


高齢になると、全身の筋肉が衰えるため食事が困難になりがちです。特に嚥下障害がある場合は、食事が原因で誤嚥性肺炎を引き起こすこともあるため、適切な食事介助が必要になります。

 

今回は基本的な注意ポイントだけ概説していきます。

嚥下障害がある方への食事介助は、一人一人細かな注意点があります。

その辺りについては、他の記事を参考に利用者様を評価して多職種で検討していくのがよいと思います。

 

食事介助の手順

①姿勢を整える

食事を始める前に、まずは姿勢を整えましょう。

座位であれば、下の図にあるポイントをチェックしましょう。

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食事の姿勢注意ポイント(座位)

仙骨座り・ずっこけ座りは骨盤後傾⇒頭が下がる⇒机の上を見るために頸部伸展という悪循環を生みます。

また車いすに移乗した際に適切に姿勢を整えなければ、骨盤が左右に傾いたまま座っている方がたまにいらっしゃいます。

骨盤が傾いていると、体幹も傾いてきてしまいます。

臀部の下に両側から手を入れてみて、傾きの有無を確認しましょう。

傾きがあるようだったら、骨盤を回転させるイメージで手を滑らせて姿勢を整えます。

 

「足底接地」はおろそかにしがちですが、重要なポイントです。

膝90度の足底接地は、効率的な嚥下を行う上で有利であるというエビデンスが出始めています。*1

 

テーブルの高さも大切です。

テーブルが高すぎると食事が見えなくなります。また低すぎると猫背を助長し、結果的に頸部伸展位となってしまいます。

中々テーブルを買い替えるのは難しいとは思いますので、テーブルが高い場合は

・椅子にクッションを入れる

車いすにつけるテーブルの使用

・サイドテーブルの使用

等の対応が考えられます。

 

反対にテーブルが低い場合には

・低い椅子/車いすへの変更(食事時のみ)

・サイドテーブル(昇降式)の使用

等の対応が可能か検討してみてください。

 

ベッド上での姿勢は、次の図を参考にしてみてください。

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食事の姿勢注意ポイント(ベッド上)

足底接地が重要であるのは、座位でもベッド上でも変わりません。

タオルやクッション等で、踏ん張りがきくように足の裏を支えましょう。

 

ベッドの角度は45-60度と書いてありますが、これはその方の嚥下機能を評価した上で変えていく必要があります。

嚥下障害がなくて介助が必要な方であれば、60度~90度近い角度でよいと思います。

 

ベッドの角度を変えた際には、背抜きをするようにしましょう。

自分がされてみると分かりますが、Bedupをして背抜きをしてもらえないと背中が突っ張る感じがしてとても不快です。

身体的な不快が食事への注意をそらす要因になりかねないため、できる限り安楽な姿勢なるように整えてきましょう。

 

②口腔ケア

「歯磨き」は食後にするイメージですが、

 

食べる前にこそ、「口腔ケア」の必要があります!

 

汚れていないように見えても、口の中には細菌がたくさんいます。

「口の中の細菌の量は、肛門や陰部と変わらない」という研究結果もあります。

 

そんなにたくさんの細菌がついたままの口で食べる

⇒食べ物が細菌と一緒に飲み込まれる

誤嚥した場合、細菌も一緒に誤嚥

誤嚥性肺炎

 

できる限り口の中をきれいにしてから食べることで、もし誤嚥してしまったとしても、肺炎を引き起こすリスクを軽減することができます。

食後の口腔ケアよりも、食前の口腔ケアを丁寧に・気合をいれて行いましょう!

 

食後の口腔ケアももちろん大切です。

食後の口腔ケアはどちらかといえば唾液誤嚥による肺炎リスクを軽減させるのに有用です。

 

「食べる前に口腔ケア

食べた後にも口腔ケア」

誤嚥性肺炎を防ぐために、是非これを定着化させていきましょう!

 

③食事の介助

・まずは覚醒状態を確認します。

開眼しているか、反応はいつもに比べてどうかを評価します。

あまりに傾眠が強いのなら、一旦臥床させて時間をおいて食事にする方が安全です。

 

・覚醒状態を見ながら、「これから食事」と分かるような声掛け・刺激入力を行いましょう。

「〇〇さん、お昼ごはんですよ

という声掛けだけで「今から昼ごはん」と認識できる方はこの声掛けで十分です。

 

声掛けだけで認識が不十分な方には、+αの刺激入力が必要です。

・スプーンやおわん、コップを持ってもらう

・食事への視線・注意の誘導を行う

・口唇にスプーンをあてる

・一口たべものを口の中へ入れる

・周りの人がご飯を食べ始める

などなど、その方に効果のある刺激入力は人それぞれです。

その方ごとに「食事スイッチ」が入るポイントは異なります。

この辺りの刺激をしっかり行うと、口が開きやすくなったり、一部自力摂取してくださる方もいらっしゃいます。

 

ごはんですよ」「お肉ですよ」などの声掛けは、ただ丁寧だから行うのではなく、先行期へのアプローチです。

嚥下の5期モデルは1口ごとに行われるので、1口ごとに「先行期」があります。

1口ごとにしっかりと認識して食べてもらうことが、スムーズな嚥下につながります。

「声掛け」や種々の「刺激入力」をしながら、介助していきましょう。

 

・介助する時、スプーンは下側から口唇へ近づけましょう。

上から行くとスプーンを追いかけて頸部伸展を助長していまいます。

座っている方に介助者が立って介助を行うと、スプーンは上から行きがちです。

職場環境にもよるでしょうが、食事介助は座って行うのことで、安全な介助に繋がります。

 

スプーンは正中からまっすぐに口腔内へ入れます。

口唇閉鎖し上口唇で食べ物をぬぐい取ってもらいながら、スプーンを抜き取ります。

一口量はティースプーン1杯程度を基本に、その方の機能や特性に応じて評価・変更していってください。

 

開口したまま口唇閉鎖をしない方は、舌や下口唇をスプーンの背で刺激してみてください。

刺激入力で閉鎖が誘導できなければ、口唇を徒手的に介助して口唇閉鎖を行います。

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口唇閉鎖の介助

介助者が右利きの時は、左手の人差し指で上口唇、中指で下口唇をそれぞれ上下に押し上げる/押し下げることで口唇閉鎖が介助できます。

 

飲み込んだことを確認して、次の一口を入れましょう。

当たり前のことのように思いますが、この部分が守れるかどうかで食事介助の安全性が大きく変わります。

口の中に残っていなくても、のどにそのまま残っているかもしれません。

そのままの状態で次の一口が入れられてしまうと、のどにたまっていたものがあふれて誤嚥するかもしれません。

たまっている量が多ければ、次の一口が入ってきたことで咽頭がふさがって窒息してしまうかもしれません。

 

「ごっくん」の音、のどぼとけが動いたかをしっかり確認して、次の一口をいれましょう。

音が聞こえない/女性だとのどぼとけが動いたか分からない場合は、どの軟骨がある部分に触れながら介助を行うとよいです。

 

飲み込んだのを確認しないで、介助者のペースで介助を進めてしまうことが誤嚥/窒息に繋がります。

人手不足の現場で、時間に追われながら仕事をしなければいけない現状は十分に分かっています。

しかし、こと食事介助に関しては、安全を、ひいては命を守るために、疎かにしてはならない部分があります。

その部分こそが、「飲み込んでから、次の一口を入れる」ことです。

 

交互嚥下を行いましょう。

ごはんだけ、おかずだけ、と1点食いさせるのではなく、三角食べで介助を行いましょう。

同じ物性の食べ物が続くと、咽頭残留しやすくなる可能性があります。

2.3口に1度は汁ものやお茶を飲むことで、のどにたまった食べ物を流す効果が期待できます。

 

④口腔ケア

食事が終わったら、もう一度口腔ケアです。

食前にがっつりと丁寧に口腔ケアを行っているので、食後の口腔ケアは食物残渣をとるのがメインです。

 

⑤姿勢を戻す

食事の姿勢から、安静時の姿勢へと戻しましょう。これは主にベッド上で食事をとっている方です。

60度程度に上げていたのなら、30度程度にまで下げましょう。

食道からの逆流リスクがあるため、フラットにはしません。

 

おわりに…

ここにまとめさせていただいたのは、あくまで「基本」です。

ケアは「安全」を担保した上で、利用者さまに合わせて方法が違ってしかるべきです。

その方の機能や特性をしっかり評価・把握して、その方にあった方法を探していきましょう!

 

参考文献

 

*1:sole-ground cotact and sitting lg position influence suprahyoid muscle activity during swallowing of liquids