ST介護職の考え事

認知症・高次脳機能・ケアについての覚え書き

【急変対応】窒息の対応ーもし利用者さんが窒息したらどう対処したらいいか?-

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窒息の原因となる食品

年末年始にかけて、「餅」による窒息がぐんと増えます。

普段食べない餅を食べる機会が増えるため、この時期餅による窒息が増えますが、窒息の原因となる可能性の高い食べ物は餅に限りません。

 「パンが窒息しやすい」という事は、最近認知されてきたように感じています。

パンと同様の物性であり、高齢者に好まれるカステラも、高齢者の窒息の原因として上位に挙がっています。

 

下の図は、高齢者の窒息の原因となった食品をランキング形式にしたものです。

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毎日の食事で提供される「ご飯」「お粥」も、窒息しやすい食べ物の上位に入ります。

 

ご飯(米飯)は餅の次に、窒息の件数が多い食品です。

 

窒息は普段食べない食品を食べる時だけではなく、日常的な食事の場面で起こりえます。

もちろんそんな事態は起こらないのが一番ですが(そのために普段の嚥下機能評価・食形態調整・姿勢の調整・ペーシングなどの対応が必要)、もし起こってしまった場合には一刻も早い対応が重要です。

 

窒息してる?大丈夫?をどう判断するか

窒息への対応を開始するには、「その急変は窒息なのか?」を判断しなければいけません。

咳をしているからムセてるだけ…と思っていると、防げたはずの窒息を見逃してしまうかもしれません。

 

気道閉塞による窒息は

①完全閉塞

②不完全閉塞

の二つに分かれます。

 

こちらはACLS/BLSの福岡博多研修センターHPにまとめられていた完全閉塞/不完全閉塞の徴候と対応の図です。

この図だけでなく急変一次対応についてとても分かりやすくまとめられていましたので、興味のある方は是非ご覧ください!

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https://blsacls.org/bls-suffocation/

 

不完全閉塞時の症状

 ・咳

・ムセ

・喘鳴(ヒューヒューという呼吸音)

 

 

「咳」「ムセ」でも窒息の可能性があります!!

 

よくよく考えれば、咽頭残留はいつも窒息の可能性と隣り合わせです。

残留が多ければ、空気の通り道まで塞いでしまう可能性はいつもあります。

まして「咳」「ムセ」が出現しているということは、「喀出せねばならない場所」=「気道」に食塊があることを示しています。

 

いつもむせてるから…と安易に目を離すと、気付かないうちに完全閉塞に至り手遅れに…なんてことになりかねません。

 

ムセている方には、その後の喀出がちゃんとできたのか注視しておく必要があります。

 

完全閉塞時の症状

 ・チョークサイン(のどのあたりをかきむしるような動作)

・声が出ない

・弱く効果のない咳

・進行する呼吸困難

・チアノーゼ

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救急医療の現状と気道異物による窒息への対応 (jst.go.jp)

 

上の表はリンクを貼った論文に記載されていた、窒息確認の重要項目です。

これを頭に入れて、窒息を疑う際には確認を行うと良いです!

 

窒息時の対処法

意識のある場合

【呼吸が確保されている場合は、自発的に咳と呼吸の努力をするように促す】と上の論文には記載されています。

 

気道を閉塞している異物が視認できる場合は、指でかきだしましょう。

見えないのにやみくもに指をつっこっむことは推奨されてはいません。

 

意識があり完全閉塞に陥ってる場合は、イムリッヒ法・背部叩打方・胸部突き上げ法を行います。

 

イムリッヒ法

※内臓を傷つけるリスクがあります。

妊娠している方や、腹囲の大きな方は胸部突き上げ法を行います。

 

立位または座位で行います。

片手はこぶしを握り、もう片方の手は外側からこぶしにあてます。

こぶしをへその上、剣状突起の下に当て、内上方へ突き上げます。

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意識のある成人に対するハイムリッヒ法 - 21. 救命医療 - MSDマニュアル プロフェッショナル版 (msdmanuals.com)

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気道異物除去の手順|日本医師会 救急蘇生法 (med.or.jp)
背部叩打法

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・座位で行う場合
頭をしたに下げさせ、胸のあたりに片手を回します。

手のひらの付け根辺りで、肩甲骨の間を頭側へ向かってたたきます。

 

・側臥位で行う場合

介助者の方に顔が向いた側臥位で行う。

たたき方は座位と同様。


胸部突き上げ法

胸部突き上げ法は、ハイムリッヒと同様のやり方を胸部で行うものです。

イムリッヒではこぶしをへそと剣状突起の間に置きますが、胸部突き上げ法では胸部圧迫と同じ位置にこぶしを置きます。

 

これら三つの方法は、どれも異物が喀出される/意識がなくなる まで行います。

何度かやって状態が変わらなければ、救急要請しましょう。手遅れになるよりは、呼んでいるうちに取れたほうがよっぽど良いです。

 

意識がない場合

前述した三つの方法は、どれも意識がある場合に行います。

 

意識がない場合はCPR(胸骨圧迫→人工呼吸)+AEDを行いましょう。

脈無し+呼吸無しでAED装着と書かれていますが、冷静ではない状態で脈の確認をしっかり行える自信が私にはありません。

とりあえずつければAEDが要/不要を判断してくれますので、意識が無ければAEDを持ってきておきましょう!

 

異物除去に便利な道具

施設にある普通の吸引カテーテルでは、お粥やまして米飯を除去することは困難です。

 最近では掃除機のノズルに取り付けるタイプの吸引機が販売されています。

掃除機は医療用の吸引機より吸引力が強く、販売されている吸引用のノズルは吸引カテーテルよりもずっと径が大きいです。

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施設の各食堂に1つはこのようなものがあると、救える命が増えるかもしれません。
そんなに高いものではありませんので、施設に購入を上申してみると良いですね!
 

おまけー高齢者の窒息と関連する要因

【在宅高齢者の窒息事故と関連要因に関する研究】

在宅要介護高齢者の窒息事故と関連要因に関する研究 (jst.go.jp)

こちらの論文では、「窒息と関連する高齢者の性質は何なのか」「どんな高齢者が窒息を生じやすいのか」という事を調べてくださっています。

 

窒息の有無とより強く関係があったのは

・脳血管障害の既往

・嚥下障害

の二つであり、その他にリスク因子として以下の要因が挙げられています。

・ADLの低下

・認知機能の低下

・嚥下機能に影響を与える薬剤の使用

・食形態の低下

・食事介助を必要とする

・舌圧の低下

 

ケアを行う立場として注意しておきたいのは、「食事介助を要する」という事が窒息のリスクを高める因子として挙がっている、という事です。

食事介助を必要とする方はそもそも認知機能が低下していて、ADLが低くて、廃用も進んで筋力低下しているから舌圧も低くて…という相互関連があるのは確かです。

そのような間の理論は置いておくとしても、「自分が介助に入るという事は、この方は窒息のリスクが高い」という事を念頭に置いておく必要があります。

 

食事介助は食事を早く終わらせるために行っているのではありません。

安全に、安楽に「食事」を行うことをサポートするために行っています。

 

窒息事故が増える年末年始。

もう一度気を引き締めて、日々の仕事に向かっていきたいですね!