ST介護職の考え事

認知症・高次脳機能・ケアについての覚え書き

心血管性の嚥下障害に関する論文(英文和訳)【Dysphagia as an early sign of cardiac decompensation in elderly; case report】

Dysphagia as an early sign of cardiac decompensation in elderly; case report

(高齢者の心機能低下の初期徴候としての嚥下障害:ケースレポート)

本文リンク: https://academic.oup.com/ehjcr/article/4/4/1/5859002

【導入】

  嚥下障害の定義は、嚥下の困難または水分・固形物の咽頭・食道の通過(移動)が困難であることの感覚(知覚)である。

嚥下障害は嚥下の問題である中咽頭嚥下障害と、食道への食塊移送の問題である食道性嚥下障害に分類される。

嚥下障害は高齢者には一般的な病気である。病因には胃腸系から循環器疾患まで多様な幅がある。

全体としてみると、病院は運動機能低下と機械的な妨害(閉塞)に分けられるだろう。

実際に、心室や心房といった心臓の構造物が食道を外から圧迫していることを示している心血管性嚥下障害は臨床的存在として文献が書かれているが、我々の日常的な臨床で遭遇することはめったにない。

それゆえ、我々は心機能低下と急性心不全が予測される危険な兆候を示す症状を呈し、拡張した左心房が食道を圧迫していた症例を報告する。

 

 TImeline:時系列

入院時

患者は駆出率の低下を認める虚血性の拡張型心筋症を有しており、その後液体へと進行する固形物の嚥下障害を呈していた。経胸壁心エコーで拡大した左心房と左心室の駆出率は30%であることが明らかになった。

 

 

1日目

上部消化管内視鏡検査の所見は正常であった。

詳細な病歴で特筆すべきは、嚥下障害はほとんどいつも呼吸困難に続いて生じ、それらは利尿剤の投与で解決した。

 

2日目

胸部造影CTは巨大な左心房が食道中部を後方へ移動させており、中部食道を圧迫していることを明らかにした。

拡大した心房が食道を圧迫する心機能低下を伴うサイズに拡大するという、心房または心血管性嚥下障害の診断がつけられた。

多くの専門医による判断の後、我々は保守的治療を行い、また患者に嚥下障害が生じた時にループ系利尿剤を増やすように指示した。

 

2カ月

患者の体液量は臨床的に正常範囲内であり、心機能低下のための入院は不要であった。

フロセミド80mgを二週間連続して服薬したことで改善した嚥下障害のエピソードを特筆した。

 

Case Presentation:症例紹介

 

患者は76歳の高齢男性。その後液体へと進行する固形物の嚥下障害の複数の症状を認めていた。この患者は駆出率低下と左前下行枝血管形成術を行った冠動脈疾患を有していた。

服薬情報:アスピリン100mg、ラミプリル5mg、ビソプロロール5mg、アトルバスタチン40mg、フロセミド80mg、スピロノラクトン25mg

心肺・胃腸に異常所見はなかった。胸部レントゲンでは心肥大を認めた。

安静時の12誘導心電図において、サイナスリズムは虚血性の徴候を示さなかった。

経胸壁心エコーにおいて、左心室拡大、diffuse hypokinesisに関連する収縮不全により左室駆出率は30%であった。拡大した左心房は心係数53ml/m2,縦径80mm,横径43mであり、中等度から重度の僧帽弁逆流を認めた。(図1)

f:id:ryok-kobayashi:20201008233854p:plain

図1 心エコーでは左心房拡大と左心室の僧帽弁逆流を認めた

消化器専門医の協力で、上部消化管内視鏡検査を実施し、胃腸の異常の形跡以外は正常であると分かった。

f:id:ryok-kobayashi:20201008234412p:plain

f:id:ryok-kobayashi:20201008234500p:plain

図2食道胃十二指腸内視鏡検査は食道通路は正常であると明らかにした

詳細な現病歴を聴取したところ、嚥下障害は11か月前から始まり、ほぼ毎回1、2日前に呼吸困難を生じており、それは利尿剤の服薬後に自然に緩解すると患者は言及した。

この症状は急性心不全がきっかけの循環血液量増加に対する利尿剤投与量調整のための過去の入院時も生じていた。

その後、機械的な妨害(閉塞)を調べるため、我々は胸部造影CTを行った。

胸部造影CTにおいて、前後径81mm,横径45mmの巨大な左心房が食道中部を後方に圧迫し移動させていることが明らかになった。(図3)

f:id:ryok-kobayashi:20201009000138p:plain

図3

f:id:ryok-kobayashi:20201009000753j:plain

心房の嚥下障害は拡大した左心房が容積と圧力を増し、隣接する食道を圧迫するほどの心機能低下が嚥下障害を引き起こすという概念を含んでいる。

その心房の嚥下障害の診断がついた。

この嚥下障害は体液量減少による左心房の縮小に関連すると思われる利尿剤の使用後なくなった。

複数の専門医の判断により、我々は外科的な心房切開術を避けた保存的治療を行い、患者に嚥下障害が出現したときにはループ系利尿剤を増やすように指示した。

 退院2ヶ月後、患者の血液量は正常範囲内であり、心機能低下での入院加療は必要なかった。

+80mgのフロセミドの2週間連続投与により嚥下障害が改善した症状を特筆した。

discussion:考察

昨今では、嚥下障害は平均寿命の延長や肥満・逆流性食道炎の有病率の増加といった嚥下障害に繋がるリスクファクターのために、より一般的になってきている。

実際に老年期の嚥下障害は研究を必要とする深刻な症状であり、いくつかの状況では、加齢過程に関連する脳変性に起因する神経学的機能障害と相関しており、その結果、食道蠕動が変化する可能性がある。

しかしながら、食道はその解剖学的位置といくつかの隣接する臓器への近接性のために外因性圧迫の素因が非常に高く、隣接する構造の病気が食道の通過に悪影響を与える可能性があるという事実を指摘している。

大動脈による圧迫や、我々の報告のように左心房によって食道が圧迫されなかった場合の下行大動脈による食道通過障害・心血管性嚥下障害は症例の報告があった。

それ以外の場合、オルタナー症候群として知られる心血管疾患に伴って生じる左反回神経麻痺は、心血管病変によって誘発される喉頭神経麻痺と称される。

Piccoliは、TTEにおいて左心房の前後径が8cmを越えると巨大左心房と定義した。

過去には、重大な僧帽弁狭窄症は左心房の持続的な圧負荷につながり、大規模な左心房の肥大および嚥下障害を引き起こす可能性があるとされた。

リウマチ性心疾患は僧帽弁狭窄症の主病因と考えられている。それ以上に、左心房壁の固有特性を変化させ、左心房のリモデリングと拡大をもたらす可能性がある。

心血管性嚥下障害の珍しい症例の報告に加え、我々は嚥下障害の詳細な病歴を注意深くとる重要性を強調する。我々の症例では、早期の適切な利尿剤の調整を確立し、将来の更なる入院を回避することを可能にする急性心不全の興味深い予測因子となっていた。

心血管性嚥下障害はあまり一般的ではない臨床的な存在であり、よく見逃される。

解剖学的に、左心房は食道の前に位置する。

左心房拡大は、特に非代償性心不全の水分過負荷が左心房拡大を引き起こしている際の機械的圧迫による嚥下障害の潜在的な原因となる。

 

conclusion まとめ

嚥下障害は高齢者に一般的な疾患であるが、それは心血管性嚥下障害のような珍しい臨床的な疾患の存在を明らかにするかもしれない。

詳細な病歴の聴取は関連する診断の肝であり、治療者は単純な症状がより深刻な状況を防ぐための予測因子かもしれないことを忘れてはならない。

 

私的まとめ

・珍しい症例ではあるが、心不全(左心房拡大)の進行により食道の圧迫が生じる

食道の通過に問題が生じる

食道の外部圧迫が原因だったため、食道通過は固形物>液体で困難であった。

・拡大した左心房が食道を圧迫し食道通過が困難

⇒利尿剤により体液量調整

⇒心肥大の改善

⇒食道への圧迫が軽減

⇒嚥下困難の改善

 

☆慢性心不全を持っている利用者さんを評価する際は、このような事例があることを頭に置いておく必要がありますね。

(今回の症例は左心房でしたが、下行大動脈による食道通過障害(dysphagia Aortica)の症例もありました。)

 

余談ですがこの論文にちらっと出てきた【心血管疾患に伴い生じる左反回神経麻痺】も興味深いと思いました。

cardiovocal syndromeで検索してみると、僧帽弁閉鎖不全や胸部大動脈瘤により嗄声を生じた症例などが上がってきます。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/orltokyo/55/5/55_279/_pdf/-char/ja

僧帽弁閉鎖不全症に起因したCardiovocal syndrome例

 

反回神経は食道や肺、心血管系の病変の影響を受けることが知られています。

たかが「嗄声」と思わず、その辺りの病気を疑ってみることも必要ですね。

 

※翻訳はgoogle翻訳を使いながらやっていますが、意味が多少違ったりおかしな文があるかと思います。

あくまで私の勉強用ですので、大筋の内容をつかめる程度の訳になっています。正確な翻訳が知りたい方は本文にアクセスし、Deeoleなどで訳してみてください。