脳卒中で共同偏視が起こる理由
急変対応は何度こなしてもドキドキしますよね…。
先日夜勤時、訪室すると【嘔吐+左方向の共同偏視+痛み刺激に反応無】の状態でした。
救急搬送され、診断は【左の広範な脳梗塞】でした。
視床では内下方への偏視(鼻先凝視)、
橋病変では病側方向への偏倚/正中位での固定が出現することが知られています。
私も症状としては知ってはいたのですが、その理由は知りませんでした。
今回急変対応したのを機に、共同偏視が起こる機序を調べてみました!
外眼筋の機能と解剖
眼球運動は6つの筋肉によって行われています。
上直筋・下直筋・内側直筋・下斜筋は動眼神経
上斜筋は滑車神経
外側直筋は外転神経 が支配しています。
それぞれの筋肉の働きと眼球の運動方向は上の図のようになっています。
左右方向の眼球運動にかかわるのは「外側直筋」(外転神経支配)と「内側直筋」(同感神経支配)の二つです。
左右を見るとき、両目は協働して動いている(側方注視のメカニズム)
右方向を見る時、両目ともに右側を向きます。
この時働いているのは、「右目の外側直筋と左目の内側直筋」です。
二つの筋肉が同時に共同して動くことができているので、スムーズに右側をみることができます。
このような目の動きを「側方注視」と言います。
この両目の共同した動きに必要なのが前頭眼野と【傍正中橋網様体(PPRF)】です。
PPRFは橋の外転神経核付近にあり、外転神経核を介して対側の内側縦束(MLF)→対側動眼神経核へと繋がっています。
側方注視は右目の外側直筋の動きと同時に、PPRF・外転神経核の介在ニューロンがMLFを伝わり動眼神経核→左目の内側直筋を動かすことにより可能となっています。
PPRFの損傷・MLFの損傷どちらによっても、スムーズな側方注視はできなくなります。
病巣による側方注視障害の機序
皮質・被殻の損傷と共同偏視
急性発症の大脳半球広範囲の脳卒中では、梗塞・出血を問わず病側への共同偏視が見られる。
これは前頭葉注視中枢の障害により、対側への随意眼球運動・衝動性眼球運動が不可能になるためで、病巣をにらむ対側に片麻痺が起こる。
このような麻痺の無い病変側への共同偏視は前頭葉か頭頂葉の広範囲血管病変で起こり、後頭葉病変では偏視はないのが一般的である。
眼球運動異常からみた脳血管障害 廣瀬源二郎
大脳皮質や被殻出血によって、大脳皮質から外転神経核までの間の神経の伝達が止められてしまった場合です。(大脳病変で皮質橋注視経路が遮断)
運動は多くの場合、右脳が左側、左脳が右側を支配しています。
つまり、左脳が傷つくと右手・右足…に麻痺が生じます。
外側直筋で考えると、左脳が傷ついた場合右目の外側直筋が動かなくなります。(右側を向けなくなる)
また、脳からの指令はPPRF→外転神経核と伝わっていくため、外転神経核まで運動の指令が行かないのならPPRFにも指令は伝わっていません。
そのため、右の外側直筋・左の内側直筋が動かなくなり、左向き(病巣側)の共同偏視が生じます。
小脳の損傷と共同偏視
小脳出血が生じると、出血量と場所によって皮質から眼球運動を司る神経核・神経の間の経路を遮断することがあります。
皮質→眼球運動の神経核・神経への経路が遮断されると、眼球運動の障害が生じます。
小脳は橋と同じくらいの高さにあるため、小脳レベルで眼球運動の経路が遮断されると、すでに左右が交差した後になります。
そのため左の小脳出血では左の外側直筋・PPRFを介した右の内側直筋の障害が生じ、右向き(健側向き)の共同偏視が生じます。
橋の損傷と共同偏視
橋の損傷での共同偏視は小脳レベルでの損傷と同様のメカニズムで生じます。
PPRF・MLFの障害により、病側の内転不全と健側の外転時の眼振が見られることがあります。
しかし橋の場合では損傷範囲の広がりによっては両側の注視経路が傷つき、正中固定が生じることがあります。
おわりに…
眼球運動はややこしくて覚えにくいですが、障害部位と症状を結び付けていると「何かおかしい」ということに気付きやすくなります!
重大なサインを見逃さないようにしていきたいですね!
参考文献