サルコペニアによる嚥下障害と舌圧の関係ー高齢の利用者さんは何故嚥下機能が低下する?
サルコペニアによる嚥下障害
脳血管疾患の既往や神経難病等、嚥下障害を引き起こしそうな既往が無いにも関わらず、実際には嚥下に困難を抱える高齢者の方を施設ではよく目にするかと思います。
90歳になってもとんかつをもりもり食べている方もいれば、78歳でペースト食ミキサー粥をギャッチアップ30°で…という方もいらっしゃいます。
この78歳の方は、特段の既往歴がないのに、なぜ嚥下障害を生じているのか?
種々要因はあるでしょうが、要因の一つが「サルコペニア」です。
サルコペニアとは何か?
サルコペニアとは
【進行性、全身性に認める筋肉量減少と筋力低下であり、身体機能障害、QOL低下、市のリスクを伴う】
と定義されています。*1
診断基準は各学会により多少の違いはありますが、
・高齢者
・歩行速度
・握力
・骨格筋量
などから診断されます。
加齢以外の原因がない場合が原発性サルコペニア、その他の原因による場合を二次性サルコペニアとされています。
「その他の原因」には例えば廃用、低栄養、侵襲、悪液質…などが含まれます。
廃用とサルコペニアはどう違う?-摂食嚥下機能についてー
施設で出会う高齢者の方で、何の既往歴もないけれど摂食嚥下障害を有する方は、多くの場合「現在口から食べている」状態だと思います。
「食事をする」というそれだけで、嚥下関連筋群はしっかりと動いています。その方が食事もベッド上で一日中離床しない方であっても、嚥下関連筋群は「不使用」には陥っていません。
嚥下関連筋群を使っているこの状態で、他の何の病気も起きていないのに、それなのに筋力が落ちていく。
この状態が「サルコペニア」です。
同じ方が、肺炎になって入院したとします。
抗生剤をいっている間は絶食になってしまったとしましょう。
離床しない状況は同じですが、今回は「絶食」となっているので、今まで食事の時間働いていた嚥下関連筋群の使用頻度がぐっと落ちます。
嚥下関連筋群の「不使用」が生じます。
退院してきたら、ムセがひどくなった、食事時間が長くなった…
使わなかったことにより、その機能が落ちてしまった。
これが「廃用」です。
サルコペニアと老嚥(presbyphagia)
高齢者での嚥下機能低下には「老嚥」という概念もあります。
こちらもサルコペニアと同様に、加齢のみを原因とするものを原発性presbyphagia、疾患・活動・栄養など加齢以外の要因の絡むものを二次性presbyphagiaと分類されています。
舌・舌骨上筋群のサルコペニアが、presbyphagia(老嚥)に関連している。
と【サルコペニアと摂食嚥下障害】の中で若林先生は仰っています。
老嚥(presbyphagia)については、また詳しくまとめたいと思います。
サルコペニアによる嚥下障害と舌圧・口唇圧
論文+要約をご紹介させて頂きます。
(舌圧と口唇の筋力による高齢患者に対するサルコペニア診断の正確性ー横断的研究)
・サルコペニアによる嚥下障害は舌圧、口唇の筋力低下と有意に関連する。
(カットオフ値は、男性:舌圧24.3kPa口唇力10.4N、女性:舌圧23.9kPa口唇力8.5N)
この研究で対象となったのは65歳以上の急性期病院入院患者。
(高齢患者において低い舌圧は口腔・咳に関連する異常と関連している)
・低い舌圧(20kPa以下)は舌の協調性の低下、口腔通過時間の延長、咳反射、自発的咳嗽と独立した関連を有する。
The effect of tongue strength on meal consumption in long term care - PubMed (nih.gov)
(舌圧が長期療養における食事摂取に与える影響)
・食事中に嚥下障害の徴候(ムセなど)を示した患者は、そうでない患者にくらべ有意に舌圧が低かった。
舌圧の低さは食事時間の延長、食事摂取量の減少、嚥下障害の徴候と有意に関連していた。
サルコペニアによる嚥下障害においては、舌圧・口唇力の低下が認められます。
サルコペニアの定義が「筋肉量低下・筋力低下」であるため、この結果は納得がいきます。
舌圧が低下することで食塊を送り込むのに時間を要し、結果的に食事時間が延長します。
筋力が落ちているので送り込み、食道へ押し込むのがより大変になり、疲れやすくなります。
疲れてしまうので、食事を全て食べきることが難しくなります。
摂取カロリーが落ち、低栄養となり、サルコペニアが益々進み…と悪循環が生まれてしまいます。
フレイルやサルコペニア予防の第一として挙げられるのは、レジスタンストレーニングです。つまりは運動、筋トレです。
ということで、続いては「舌」「口唇」の筋トレについて。
(低栄養状態での筋トレは逆効果になってしまいます。
しっかしと栄養状態を整えた上で、筋トレを行っていきましょう)
舌圧トレーニング方法
ぺこぱんだ
舌圧子やスプーンを使う
舌圧子やスプーンで介助者が抵抗を加える方法もあります。
STはこの方法で行うことが多いかと思います。
どの部分にどの程度負荷をかけるかを調整できる故に、自分が今何を目的に行っているのかに注意しなければいけません。
ペコパンダの代わりとして使うならば、前舌の挙上を行うため、舌の前方中央辺りに平らにおいて抵抗を加えます。
奥に入れすぎると舌面の挙上になってしまう+咽頭反射・嘔吐反射誘発のリスクがあるため注意しましょう。
口唇のトレーニング
こちらのリップトレーナーは外に出る部分を介助者が引っ張って負荷を掛けます。
昔からある訓練方法でボタンに糸を通して行うものがありますが、誤飲のリスクの高いかたはこちらの方が安全かと思います。
ブローイングでも口唇閉鎖を促すことができます。
長息生活も負荷を選ぶことができるため、レベル0から始めて10秒程度吹き続けることができるレベルを選びましょう。
もちろん呼吸機能訓練として行うこともできます!
【急変対応】窒息の対応ーもし利用者さんが窒息したらどう対処したらいいか?-
窒息の原因となる食品
年末年始にかけて、「餅」による窒息がぐんと増えます。
普段食べない餅を食べる機会が増えるため、この時期餅による窒息が増えますが、窒息の原因となる可能性の高い食べ物は餅に限りません。
「パンが窒息しやすい」という事は、最近認知されてきたように感じています。
パンと同様の物性であり、高齢者に好まれるカステラも、高齢者の窒息の原因として上位に挙がっています。
下の図は、高齢者の窒息の原因となった食品をランキング形式にしたものです。
毎日の食事で提供される「ご飯」「お粥」も、窒息しやすい食べ物の上位に入ります。
ご飯(米飯)は餅の次に、窒息の件数が多い食品です。
窒息は普段食べない食品を食べる時だけではなく、日常的な食事の場面で起こりえます。
もちろんそんな事態は起こらないのが一番ですが(そのために普段の嚥下機能評価・食形態調整・姿勢の調整・ペーシングなどの対応が必要)、もし起こってしまった場合には一刻も早い対応が重要です。
窒息してる?大丈夫?をどう判断するか
窒息への対応を開始するには、「その急変は窒息なのか?」を判断しなければいけません。
咳をしているからムセてるだけ…と思っていると、防げたはずの窒息を見逃してしまうかもしれません。
気道閉塞による窒息は
①完全閉塞
②不完全閉塞
の二つに分かれます。
こちらはACLS/BLSの福岡博多研修センターHPにまとめられていた完全閉塞/不完全閉塞の徴候と対応の図です。
この図だけでなく急変一次対応についてとても分かりやすくまとめられていましたので、興味のある方は是非ご覧ください!
不完全閉塞時の症状
・咳
・ムセ
・喘鳴(ヒューヒューという呼吸音)
「咳」「ムセ」でも窒息の可能性があります!!
よくよく考えれば、咽頭残留はいつも窒息の可能性と隣り合わせです。
残留が多ければ、空気の通り道まで塞いでしまう可能性はいつもあります。
まして「咳」「ムセ」が出現しているということは、「喀出せねばならない場所」=「気道」に食塊があることを示しています。
いつもむせてるから…と安易に目を離すと、気付かないうちに完全閉塞に至り手遅れに…なんてことになりかねません。
ムセている方には、その後の喀出がちゃんとできたのか注視しておく必要があります。
完全閉塞時の症状
・チョークサイン(のどのあたりをかきむしるような動作)
・声が出ない
・弱く効果のない咳
・進行する呼吸困難
・チアノーゼ
救急医療の現状と気道異物による窒息への対応 (jst.go.jp)
上の表はリンクを貼った論文に記載されていた、窒息確認の重要項目です。
これを頭に入れて、窒息を疑う際には確認を行うと良いです!
窒息時の対処法
意識のある場合
【呼吸が確保されている場合は、自発的に咳と呼吸の努力をするように促す】と上の論文には記載されています。
気道を閉塞している異物が視認できる場合は、指でかきだしましょう。
見えないのにやみくもに指をつっこっむことは推奨されてはいません。
意識があり完全閉塞に陥ってる場合は、ハイムリッヒ法・背部叩打方・胸部突き上げ法を行います。
ハイムリッヒ法
※内臓を傷つけるリスクがあります。
妊娠している方や、腹囲の大きな方は胸部突き上げ法を行います。
立位または座位で行います。
片手はこぶしを握り、もう片方の手は外側からこぶしにあてます。
こぶしをへその上、剣状突起の下に当て、内上方へ突き上げます。
意識のある成人に対するハイムリッヒ法 - 21. 救命医療 - MSDマニュアル プロフェッショナル版 (msdmanuals.com)
気道異物除去の手順|日本医師会 救急蘇生法 (med.or.jp)
背部叩打法
・座位で行う場合
頭をしたに下げさせ、胸のあたりに片手を回します。
手のひらの付け根辺りで、肩甲骨の間を頭側へ向かってたたきます。
・側臥位で行う場合
介助者の方に顔が向いた側臥位で行う。
たたき方は座位と同様。
胸部突き上げ法
胸部突き上げ法は、ハイムリッヒと同様のやり方を胸部で行うものです。
ハイムリッヒではこぶしをへそと剣状突起の間に置きますが、胸部突き上げ法では胸部圧迫と同じ位置にこぶしを置きます。
これら三つの方法は、どれも異物が喀出される/意識がなくなる まで行います。
何度かやって状態が変わらなければ、救急要請しましょう。手遅れになるよりは、呼んでいるうちに取れたほうがよっぽど良いです。
意識がない場合
前述した三つの方法は、どれも意識がある場合に行います。
意識がない場合はCPR(胸骨圧迫→人工呼吸)+AEDを行いましょう。
脈無し+呼吸無しでAED装着と書かれていますが、冷静ではない状態で脈の確認をしっかり行える自信が私にはありません。
とりあえずつければAEDが要/不要を判断してくれますので、意識が無ければAEDを持ってきておきましょう!
異物除去に便利な道具
施設にある普通の吸引カテーテルでは、お粥やまして米飯を除去することは困難です。
最近では掃除機のノズルに取り付けるタイプの吸引機が販売されています。
掃除機は医療用の吸引機より吸引力が強く、販売されている吸引用のノズルは吸引カテーテルよりもずっと径が大きいです。
おまけー高齢者の窒息と関連する要因
【在宅高齢者の窒息事故と関連要因に関する研究】
在宅要介護高齢者の窒息事故と関連要因に関する研究 (jst.go.jp)
こちらの論文では、「窒息と関連する高齢者の性質は何なのか」「どんな高齢者が窒息を生じやすいのか」という事を調べてくださっています。
窒息の有無とより強く関係があったのは
・脳血管障害の既往
・嚥下障害
の二つであり、その他にリスク因子として以下の要因が挙げられています。
・ADLの低下
・認知機能の低下
・嚥下機能に影響を与える薬剤の使用
・食形態の低下
・食事介助を必要とする
・舌圧の低下
ケアを行う立場として注意しておきたいのは、「食事介助を要する」という事が窒息のリスクを高める因子として挙がっている、という事です。
食事介助を必要とする方はそもそも認知機能が低下していて、ADLが低くて、廃用も進んで筋力低下しているから舌圧も低くて…という相互関連があるのは確かです。
そのような間の理論は置いておくとしても、「自分が介助に入るという事は、この方は窒息のリスクが高い」という事を念頭に置いておく必要があります。
食事介助は食事を早く終わらせるために行っているのではありません。
安全に、安楽に「食事」を行うことをサポートするために行っています。
窒息事故が増える年末年始。
もう一度気を引き締めて、日々の仕事に向かっていきたいですね!
【英語論文要約】アルツハイマー型認知症患者のIADLに対する認知リハビリテーション
アルツハイマー型認知症患者のIADLに対する認知リハビリテーション
(A randomized cross-over controlled study on cognitive rehabilitation of instrumental activities of daily living in Alzheimer disease)
【概要】
この論文では、軽度~中等度AD患者(MMSE16-27点)に対し自宅の状況で特定のIALDに対し訓練を行っています。
訓練するIADLは本人・主介護者の興味や希望によってきめられています(例:テレビのリモコン操作、パソコンでメールを送る)
訓練は四週間、週に2回実施された。この四週間の間、主介護者は訓練している作業を本人と一緒に行うように求められていました。そのために主介護者は記憶システム、間隔伸長法や誤り無し学習といった認知訓練について、またアルツハイマー型認知症について、認知機能についての情報を専門家から教授されています。
訓練した特定のIADLについてのDMTは改善し、効果は3ヶ月後も継続していたが、他の評価指標での有意な改善は認められませんでした。
※DAT=direct measure of training
作業を複数のステップに分け、それぞれのステップに対しての介助量をスコア化したもの。
独立して作業が可能:4
言語的な誘導が必要:3
言語的+視覚的誘導が必要:2
言語的+視覚的+身体的な誘導が必要:1
そのステップの完遂が困難:0
訓練方法
IADLの訓練は【誤り無し学習】【間隔伸長法】の二つが用いられています。
【誤り無し学習】の方法に基づき、訓練は各レベル/各施行の時間間隔を段階的に上げていくようにされています。
訓練時のサポートは4段階に分けられています。
レベル1
訓練するIADLの全てのステップを介助者が本人の目の前でやって見せる。
レベル2
介助者が全てのステップを言語化し、本人が各ステップを行う。
レベル3
本人が全てのステップを言語化し、介助者のサポートを受けながら行う。
レベル4
本人が全てのステップをサポート無しで行う。
各施行の時間間隔は30秒、1分、2分、4分、8分の5段階で行われました。
30秒から8分の五段階全ての間隔で正しい作業を行うことが可能になったら、次のレベルに進んでいきます。
あるレベル、ある時間の試行で失敗した場合、次の試行は1つ下のレベル・半分の間隔で行います。
私的考察
・訓練は認知リハビリテーションや記憶システムについて教えられた【主介護者】が自宅で毎日行っています。
訓練したIADLが再学習されるには、そのたびごとの適切なリハが必要だと考えられます。
+適切なリハで、中等度ADにおいてもIADLの再学習が可能。
この辺の結果・間隔伸長法+誤り無し学習の手法は、グループホームでのケアにとってもとっても活かせる気がしています!!
グループホームは生活の場なので、リハ的なケアを行いやすく、こういう介入の好適応ではないかなと思っています。
・その方のニーズの把握は、当たりまえですがとても大切!!
その方の生活、興味、関心、嗜好、実際の困難を踏まえた上で、どの部分に焦点を当てるかを考える必要がありますね。
・生活行為の工程分析→各工程の段階的なヒント…と1つのケア、支援をするにもその方がどの工程でどれだけの支援が必要なのかのアセスメントは必須。
丁寧な工程分析によって、よりその方の機能を活かしたケアに繋がる+リハとしてフォーカスすべき部分が明らかになる。
車いす自走・自立判断のカギ【ブレーキ管理】を補助する新しい車いす+「急に立ち上がって危ない」に対応できる車いす
車いす移動自立、車いす⇔ベッド・トイレ移乗自立の判断をする時に、身体機能とともに大きなポイントとなるのが【リスク管理】です。
リスク管理・リスク意識の詳しい話はこちらにまとめましたので、興味があれば御覧ください。
車いすでの移動、車いすから・車いすへの移乗のリスク管理を考えた時、よく問題に上がるのが【ブレーキの管理】です。
つまりは、ブレーキを掛けないまま移乗してしまう。そのため、移乗の際車いすが動いてしまい、転倒・転落のリスクが上がってしまう…。
それを防ぐために、「ブレーキをかける」動作を体にたたき込んだり、言語化して徐々に手がかりを減らして言ったり…とやっていくわけですが、最近?は画期的な車いすが登場しています。
その名も、【自動ブレーキ付車いす】
これがあれば、「ブレーキ管理が不十分」でも移乗自立にできる可能性がぐっと高まります!!
ということで、自動ブレーキ付車いすのご紹介をしていきます!!
「ブレーキ管理」の外的補助手段ー自動ブレーキ付車いす
こちらにあげたのはMikiから発売されている自動ブレーキ付車いすですが、松永からも同様の機能が付いた車いすが出ているようです。
仕組みはとても簡単で、座っていると自重によりブレーキが外れていますが、立ち上がるとブレーキが上がるようになっています。
認知症による記憶や注意の低下がある方で、ある程度の身体機能が保たれている方は、このタイプの車いすに変えれば見守りを外せるのではないのかな…と考えます。
なんの機能も付いていない普通型車いすと比べると、やはりお値段が張るのが唯一の難点…
ただこの車いすに変えるという選択をするだけで、移乗自立にできるのなら十分検討の余地があるかと思います。
「急に立ち上がって危ない」に対応可能な車いす
もう一つぜひ紹介したい車いすがあります!
フランスベッドから販売されている【転ばないす】
自動ブレーキに加え、【セーフティーフットサポートが下がる】仕組みが導入されています!
画期的ですよね!!
立ち上がってバランス崩して転倒…のリスクは変わらないにしても、フットサポートの上に立って勢いよく前へ転ぶタイプの転倒は防ぐことができます。
とてもほしい!!うちでもぜひ導入したい!!
ですが、やはりネックはお値段…。
施設だったら上と相談して導入検討してもらえるように頑張るしかないですね…。
さっと調べてみたらレンタルで出している業者もあるみたいなので、介護保険でレンタルが手に入りやすいかと思います!
おわりに…
機能を代替する技術の進歩には驚かされるばかりです!
「ブレーキ管理不十分だから、移乗は見守りで…」なんていつまでも言っていないで、こんなタイプの車いすだったら自立にできますよ!と提案できるセラピスト/介護士でいたいですね!
認知症の記憶障害「同じことを何度も聞く」への対応ー記憶障害の外的補助手段ー
認知症の記憶障害によるよくある症状の1つに、
「同じことを何度も聞く・尋ねる」というものがあります。
それ自体はなんてことありませんが、一日に何度も、それも2-3分おきに同じことを聞かれるストレスは、介護者の大きな大きな負担になります。
今回は認知症の方の「何度も同じことを聞く」「伝えたことをすぐ忘れる」症状に対しての、外的補助手段(道具を使った対応)をご紹介していきます。
認知症の「同じことを何度も聞く」症状への対処法
認知症の方が「同じことを何度も聞く」のは、中核症状である記憶障害によるものです。
加齢による物忘れが記憶の保持・想起に低下を認めるのと異なり、認知症による記憶障害では記憶の記銘から低下を認めます。
(記銘・保持・想起について、詳しくは下の記事をご参照ください)
つまり、認知症では与えられた情報を頭の中に書き留めることがそもそもできていないので、「覚えた感」「聞いた感」もありません。(加齢による物忘れでは、この「覚えた感」「なんかそんなこと聞いたかも感」があることが多いです)
そのため「さっきも言ったでしょ!」「何回同じこと聞くの!」は全く無意味です。
強い語気や硬い表情を向けられ叱責されることは、認知症の方の自己効力感や自己肯定感を下げ、巡り巡ってBPSDに繋がることもあります。
その方の世界の中では、1分前にも同じことを聞いたことなんて起こっていなくて、今初めてそれを聞いている、ということを理解して接することが大切です。
大切ですが、1分毎に同じことを聞かれるとこちらもイライラしてしまいます。忙しい時はなおさらです。
だから、情報を常時/その方が記憶を保持できる間隔で呈示する外的手段が必要です。
ローテクエイドーメモ帳の活用法
記憶の外的補助手段として真っ先に上がるのが「メモ帳」です。
分かりやすいメモ帳だけでなく、紙に「通帳は息子さんが持っています」など書いて見えるところに貼っておく、なども大きく分類するとメモにあたります。
メモは紙に字を書くだけと簡単にでき、文字を認識できる視力と文字理解が可能であれば効果が期待できます。
記憶障害が前景に出るアルツハイマー型認知症では、文字理解は比較的保たれやすく、文字情報の呈示は効果的であることが多いです。
一方で、メモは「見てもらえないと効果がない」という部分が大きな欠点です。
その欠点をカバーしていくメモ帳の選び方・使い方をご紹介します。
全面付着の付箋を手の甲や腕に貼る
書いたメモに気付く最も単純な方法は、メモを体の見えやすい部分(よく見る部分)に貼っておくことです。
下にあるようなテープ式の付箋にメモを書き、手の甲や手首に貼ることができます。
大切な事、よく聞かれることは両腕に付けておくと目に入りやすいです。
こちらはto do List形式で記入できるものです。
使い方によっては便利そうですが、字が小さくなってしまうのが難点…
帽子式目の前メモ帳
こちらは安田清先生が考案された帽子のつば部分にワイヤーをつけ、常時メモ帳を目の前にぶらさげられるようにしたものです。(サンバイザーでも可能とのこと。頭が蒸れてとってしまうのを防ぐためにはサンバイザータイプの方が有効とのことです。)
認知症の方は周囲の空間の注意探索が低下していることも多いため、常に目の前にメモがぶら下がっているこのメモ帳は「メモを見てもらえない」という事態を回避するには有効です。
ただ目の前にぶらさがっているため邪魔に思われる方ももちろんいると思います。
適応が限られるかとは思いますが、はまる方にははまりますので試してみる価値はあります。
ローテクエイド-ホワイトボード・伝言板
ホワイトボードに日付や覚えてほしいことを書いてみていらっしゃる方は多いと思います。
マーカーで書いてしまうとこすれて消えてしまう可能性が高いため、磁石にかいて貼ったり、紙で張り付ける方が安心です。
目に入りやすくするためには、お孫さんやペットの写真を貼ったり、接近照明ランプやセンサーを付け、光や音を出すようにしてみましょう。
ミドルテクエイドーICレコーダー
認知症の方の記憶障害への対応としてICレコーダーを使う時の便利な機能は、【アラーム機能】と【リピート機能】です。
それぞれの活用方法をご紹介します。
ICレコーダー活用法-アラーム機能-
ICレコーダーは再生時間を指定して録音した音声を流すことができます。曜日ごとの出力が可能なものもあります。
自験例です。
毎食後に「ごはんをください」と10分おき程度言いに来る方に対して、時間帯(食後)を指定し「朝/昼/夜ごはんは食べ終わりました。次は○時に昼/夜/朝ごはんです」という音声を流すようにしました。(音声-5分無音-音声を3セット)
日中車いすに常時座っている方でしたので、車いすのアームレストに袋に入れたICレコーダーを括り付けて使用しました。
この方はこの対応で毎食後の食事の要求はなくなりました。
在宅の方ではデイサービスの日に「今日はデイに行く日です。準備をしましょう」、休みの日に「今日はデイは休みです」と入れて使用することも有効かと思います。
薬の服薬忘れ対策にも使用可能です。その場合には薬を設置している場所に近くにICレコーダーを置いておくと良いでしょう。
見える形で置いておく場合には、「この機会は触らないでください」等の紙や付箋を巻いておいた方が無難です。
ICレコーダー活用法-リピート機能
「同じことを繰り返し聞く」に効果的なのはこのリピート機能です。
小さな袋などに入れる/ポケットに入れる等して持ってもらい、いつも聞かれることを録音し、リピート再生してみましょう。
いつも聞かれることが何パターンかある方は、間に空白をはさみ全てのパターンを録音しましょう。
例)
「今日は○年○月○日です」…空白…「通帳は息子〇〇が預かっています。」…空白…「今日はここでお泊りです。息子○〇はお泊りのことを知っています。」…
10分おきにリピートしたいのであれば、最後の音声のあと10分間無音にします。
その方の機能に合わせて、繰り返しの時間を変えて反応を見ていきましょう。
ミドルテクエイド-デジタルフォトフレーム
伝言板のところで注意を引くにはお孫さんやペットの写真が有効、とご紹介しました。
デジタルフォトフレームで合間にペットやお孫さんの写真を流し、伝えたいメッセージを流す方法もあります。
音を出すことも可能ですので、より注意を引き付けやすくなります。
おわりに…
介護は「優しさ」や「愛情」だけでは乗り越えることはできません。
全てを人間性に帰することなく、技術と知識を活用していく必要があります。
今回ご紹介した機器類・方法は安田先生の著書からの抜粋です。
【ケア・介護に役立つ記憶の評価】行動・会話から「記憶」を評価するー認知症の記憶障害評価②ー
前回は記憶の行動観察評価・評価スケールについてまとめました。
それを踏まえて、今回は評価スケールをつけるにあたって、会話や行動から記憶を評価するポイントをまとめていきます。
会話・行動から見る記憶障害の評価
会話や行動の中で記憶をみていく上での一番のポイントは「評価」「検査」らしくしないことです。
あくまで、何気ない会話・普段の生活の中でその方の記憶障害を見ていきましょう。
話を聞く時の基本的な姿勢は
・受容的で穏やかな対応
・質問して考えてもらう
=反応の特徴:確信・自信・曖昧・適当
反応の浮動性:揺れ・修正
反応の精度:確実・曖昧:明らかな間違い
・基本的に誤りは修正しない
→まずは自由に話してもらう・答えてもらう
→様子をみて、少し修正を入れてみる。修正に対する反応(否定・取り繕い・気付き)を観察する。
※明らかな作話も否定することはお勧めしませんが、助長することも「現実との乖離」を大きくすることに繋がりあまりよくありません。否定も肯定もせずに傾聴した上で、早めに話題を変えるように私はしています。
評価のポイント・テクニック
①再生と再認を適切に使う。
「昨日誰がお見舞いに来ましたか?」という質問は、「誰が」の部分を自分で思い出す「再生」を必要とします。
この質問に「娘の○〇が来ました」と答えられれば、そこまでの近時記憶の保持・再生ができていると言えます。
一方で、この形式の質問に答えられなかったからと言って、必ずしも記銘・保持ができていないとは言えません。
「昨日、娘さんがお見舞いにきましたか?」という形に変えると、「再認」の形になります。
この質問形式で正しく答えることができたならば、再生はできなくても保持まではできていたと評価できます。
「再生」の形式で聞いてみたあと、「再認」のyes/noや選択肢呈示で聞いてみることで、より多くの情報を手に入れることができます。
②近時記憶・遠隔記憶・展望記憶・手続き記憶を一通り見る。
「記憶の評価」というと近時記憶と展望記憶にフォーカスしてしまいがちです。
これができない!という部分は目につきやすい、ということの影響もあるかと思いますが、できる部分・保たれている機能を拾い上げることもとても大切です。
日常のケアに活かすには、むしろ保たれている部分を探すことの方が重要とも言えます。
手続き記憶的ですが、「習慣化」が可能かどうかの確認はケアに活かすには有効です。
施設であれば、食堂の自分の席が分かるか?自室の場所を覚えているか?
を見てみましょう。
習慣化した行動が可能であるならば、繰り返しする行動は定着できるという評価ができます。
それならば、車いすのブレーキ操作も繰り返せば定着できるのでは?という仮説を立てることができ、仮説に基づいたリハビリ的なケアを行っていく事ができます。
③視覚情報/言語情報/体性感覚・運動を伴う情報…それぞれに対する記憶を評価する。
「言った事を覚えているか?」だけの評価では不十分な上、今後のケアにもあまり繋がりません。
文字で呈示した情報はどうだったか?メモしてもらった時は?
写真や絵なら覚えていた?写真があったことは覚えていた?
それぞれの刺激に対して、その後の行動・反応がどうであったのかを評価しましょう。
そこで言語情報よりも視覚情報の方が覚えていられる、というような評価ができたならば、【スケジュールは文字+絵で呈示した方が良い】というケアが立案できます。
評価はケア・生活につなげていくために行っています。
④記憶痕跡を評価する・修正に対する反応を評価する
記憶痕跡とは、記憶が形成されたときに活性化され、その活性化が保たれたている分子がある、というようなことを言います。(おおざっぱで申し訳ないです。興味のある方は<記憶痕跡>で調べてみてください)
会話の中で分子の動きを評価してほしいと言うわけではなく、「記憶の痕跡・記憶のかけら」がその方にあるか、という部分は評価しておくと有用です。
「そんな事を聞いたような気がする。」
「そういえば、○〇でしたっけ?」
修正に対するこんな反応は、この方の中には記憶痕跡はありそうだと判断する材料になります。(取り繕いの反応との見極めは必要です)
記憶痕跡があるということは、何かもう一押しヒントやきっかけがあれば、想起までつながる可能性があります。
修正時の反応に記憶痕跡が感じられれば、想起にまで至るヒントを探していってみましょう。
おわりに…
記憶の評価は「この方は近時記憶に低下はあって、展望記憶は…」と専門用語をかっこよく羅列するためにするのではなくて、その方の生活をよりよくするために行うものです。
・当日中の記憶も曖昧で不安感が強いから、メモリーノートをつけてもらったら安心感が増すかな?
・食事を食べたことを忘れて不安になるから、食後毎回日付とメニューを手帳に書いてもらうようにしよう。繰り返したことの定着はできてるから、習慣化できるかも。
評価は、評価者の自己満足ではなく、ケア・生活に繋げるためのものです。
より良いケアに繋げるために、適切な評価を利用者さんの負担にならないように行っていきましょう!
参考文献
行動観察での記憶障害の評価-認知症の記憶障害評価-
記憶障害は認知症の中核症状の一つです。
記憶障害の程度や、残存する記憶に関する機能の特性を知ることは、その方のケアをより良いものへするために必要なことです。
しかし、多くの認知症の方に対して、既存の検査バッテリーを用いた評価は負担が大きい+教示の理解困難などで実施が困難なことが多い上、生活期の施設では検査バッテリー自体が無いことがほとんどです。
そこで今回は生活期、検査バッテリーでの評価ができなくても可能な、【コミュニケーション・行動観察による記憶障害の評価】についてまとめていきます。
評価の前に…
いきなり評価を行う前に、情報収集を行いましょう。
・服薬内容
・既往歴・現病歴・合併症、バイタル
・生活歴(出身地・家族の名前・住所など)
などなど
①服薬内容
向精神薬の使用の有無・量を確認しましょう。
過鎮静による覚醒不良により、見当識障害・記憶障害に見える言動を呈する場合もあります。
②既往歴・現病歴・合併症
「認知症」の診断がついている方の場合は、どのタイプの認知症であるかまで確認しましょう。(タイプ診断まではされていない方もいらっしゃいます)
アルツハイマー型認知症では、記憶障害(近時記憶障害)は早期から生じるとされています。
脳血管型認知症では、原因となる脳血管疾患の損傷部位や範囲により記憶障害の程度はばらつきがあります。ラクナ梗塞(小さな脳梗塞)を繰り返していったような方であれば、損傷部位が情報に載っていないことも多いです。
脳画像が見られればありがたいですが、生活期だとそんなことは滅多にないですね…。
レビー小体型認知症では、早期には記憶障害は軽度であるとされています。パーキンソン病に伴う認知症(PDD)においても、記憶障害は進行してから現れるとされています。
診断がついている方は、このようにある程度記憶障害の程度の予測ができます。
先入観は邪魔になることもありますが、ある程度の予測をもって評価にあたることは有用です。
他にもうつ病や精神疾患の有無は重要なポイントです。薬とも関連してきます。
質問に対する反応に覚えた違和感が、記憶の問題なのか、うつや精神疾患なのかに注意する必要が出てくるからです。
脱水や栄養バランスが崩れている際、全身状態の悪化時にも、覚醒が落ち見当識障害や記憶障害様の反応やせん妄症状を見せることがあります。
基礎疾患のコントロール状況がどうなのか、最近のバイタルがどうなのかを把握しておくことが重要です。
③生活歴
生活歴は記憶障害の評価で使う情報です。
こちらが正解を知っていないと、どこまでのヒントで正解できるのか/正解できないかの評価ができなくなってしまいます。
この辺りの情報は入所時に相談員さんがとってくれる情報だけでは薄いことが多いです…。
ご家族から直接聞くことができれば一番ですが、情報が取れなければある情報でできる限りの評価をしていきましょう。
記憶障害の行動観察指標
コミュニケーション・行動観察で記憶を評価する!バッテリーなんて使わない!
と言っても、何らかの基準がないと評価のしようがないですよね。
ということで、「記憶」に関する行動観察評価について紹介します。
CDRで見る記憶
臨床的認知尺度(CDR)は認知症の観察評価指標としてよく用いられています。
CDRにおける記憶項目を書き出してみます。
健康(CDR0):記憶障害無し。時に若干の物忘れ
認知症の疑い(CDR0.5):一貫した軽い物忘れ。不完全な想起。
軽度認知症(CDR1):中等度の記憶障害。特に最近の出来事に対して。日常生活に支障。
中等度認知症(CDR2):重度の記憶障害。高度に学習した記憶は保持。新しいものはすぐに忘れる。
重度認知症(CDR3):重度の記憶障害。断片的記憶のみ残存。
CDRでは「近時記憶」「手続き記憶」「長期記憶」のどの記憶が障害されているのか、という部分が評価の大きなポイントになっています。
それぞれどれがどんな記憶だったかな?ということは、前にかいた記事を参照してください。
CDR1とCDR0.5の差は「記憶障害が日常生活に支障をきたしているかどうか」が境になっています。
・薬を飲むのを忘れてしまう。飲みすぎてしまう。
・火や電気の消し忘れ。水道の閉め忘れ
・誰から電話がかかってきたか忘れる。伝言の内容を忘れる。
こんな症状は、「記憶障害」が日常生活に支障をきたしている状態です。
CDR2では近時記憶障害が著明であることが示されています。
長期記憶や手続き記憶は保持されていますが、記銘力は顕著に低下し「すぐ前のことも覚えていない」状態です。
・さっきご飯を食べたことを忘れてしまう。
・自宅の住所は言えるが今いる施設の場所は分からない
CDR3では長期記憶や手続き記憶にも障害が生じています。
認知・行動チェックリストでみる記憶
認知・行動チェックリストは、森田先生が認知機能を行動から評価するために作成されたチェックリストです。各項目を0-3点の4段階で評価します。
全ての項目は以下の論文から見ることができます。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jstroke/33/3/33_3_341/_pdf/-char/ja
今回は認知・行動チェックリストの「記憶」部分だけを取り上げます。
記憶は①近時記憶②遠隔記憶③展望記憶④手続き記憶、4つの記憶の種類に分けて評価を行います。
①近時記憶
0点:当日中の出来事の想起が全く、あるいはほとんどできない。または作話や明らかな記憶の混同が認められる。
1点:当日中の出来事を一部正確に想起可能だが、細部が曖昧(例:人や場所を誤るなど)であったり、時系列を間違えたりする。
2点:当日中の出来事の想起はおおむね保たれている。ただし2-3日以上前の出来事になると細部が曖昧であったり、時系列に誤りが見られたりして不確実になる。
3点:2-3日前の出来事想起が良く保たれている。また1-2週間程度前の新規な出来事の想起もおおむね可能である。
近時記憶の各評価は想起までの時間(干渉刺激の多さ)・内容の正確さで分けられています。
覚えてから思い出すまでに干渉刺激(邪魔)が多くなると、その分忘れてしまいやすくなります。
このような記憶の評価は、会話の中でそれとなく聞いてみることで可能です。
大切なのは「それとなく聞く」ことです。
世間話の中で、そのままの流れで聞いていって、「検査」的にならないようにしていきましょう。
②遠隔記憶
0点:発症前数か月から数年にわたる明らかな逆行健忘(発症以前の出来事の記憶障害)をみとめ、自伝的記憶が損なわれている。
1点:発症前二週間以内の逆行健忘を認める。またそれ以前の記憶、特に自伝的記憶にも不正確さや記憶錯誤を認める。
2点:発症前2週間程度の記憶にあいまいさはあるが、それ以前の記憶、特に自伝的記憶はおおむね保たれている。
3点:発症以前の記憶がおおむね保たれており、特に自伝的記憶についてはよく保たれている。
自伝的記憶とは、自分自身の人生についての記憶です。
何人兄弟の何番目で、生まれはどこで、○〇小学校に入って、大学受験に失敗して1浪して、どこの会社に入ってどんな仕事をして、何歳で転勤して…
脳に何の障害もなければ、そうそう忘れてしまうことはない記憶です。
認知症の方でも「昔の記憶は保たれる」と言われますが、この自伝的記憶も保たれやすい記憶です。
脳挫傷による健忘症候群では、「逆行性健忘」が生じこの自伝的記憶も障害されてしまうことがあります。
自伝的記憶の評価をするには、ご本人の生活歴の情報が必須です。
③展望記憶
0点:スケジュールや予定、約束事を覚えておくことができず、何かするべきことがあったこと自体再認できない。
1点:スケジュールや予定、約束事を忘れてしまうことがあるが、促せば何かするべきことがあったと想起可能。ただし内容までは自力で想起できない。
2点:スケジュールや予定、約束事を忘れてしまうことがあるが、促せば何かするべきことがあったことや、内容の想起が可能である。
3点:スケジュールや予定、約束事をたまに忘れてしまうことがあるが、日常生活上の支障となりうる問題は生じない程度にとどまる。
「再認」とは、提示された情報が記憶として保持されているものかどうかを参照する課題(脳科学辞典)です。
テストで例えると、マークシートなど正しいものを選ぶ・選択肢のある課題は「再認」の課題です。
再認ができるということは、「内容は頭の中に保持されている」ということです。
この展望記憶の0点と1点の差は、予定や約束事の存在を「記銘し保持できているか」という部分にあります。
展望記憶には「存在想起」と「内容想起」の二つが必要であり、「存在想起」は注意機能との関連も指摘されています。*1
前頭葉損傷の方で聞けば「内容想起」ができるのに、「存在想起」ができないと言う方もいらっしゃいます。
そのようなタイプの方は、記憶だけでなく注意機能の問題も考える必要があります。
④手続き記憶
0点:平均により頻回に反復練習を行っても、新しい作業手順をほとんど覚えられない。
1点:平均より頻回に反復練習を行うことで、新しい作業手順の一部を習得可能である。
2点:平均より頻回に反復練習を行うことで、新しい作業手順の習得が可能である。
3点:数回行えば、新しい作業手順をおおむね習得することができる。
平均より頻回にってどのくらい?と私も思います…。
ただ、デイサービスのアクティビティで折り紙や手作業をしていると、すぐに覚えられる方と何回同じことを繰り返しても1つ1つ教えなければいけない方が出てきますよね?
そこの差に点数で評価をつけるとすると、この段階分けが有効ではないかと思います。
認知・行動チェックリストの評価詳細は下記の本(p52-53)から抜粋しております。
CBAで見る記憶
CBAは何回かこのブログでも紹介させて頂きました、森田先生が開発した高次脳機能の評価スケールです。
以下の記事の中でCBAに触れていますので、興味のある方は御覧ください。
また、CBAの評価用紙はこちらからダウンロード可能です。
www.cba-ninchikanrenkoudou.com
CBAも森田先生が作られているので、認知・行動チェックリストの評価方法と大まかには同じです。
認知・行動チェックリストが各記憶について評価するのに対し、CBAでは「記憶」としてひとまとまりに扱っています。
まず大きく「記憶」によって日常生活に支障が生じているか否か、を評価します。
そして当日中の記憶の想起が可能であるか、曖昧かを見ます。当日中の記憶の想起が問題なく可能であるならば、4点以上です。
4点以上ならば、2-3日前の出来事の記憶の正確性を評価します。
2日前にご家族3人が面会に来たとして、「2日前・3人全員」を正確に思い出せるならば5点。時間や人(1人が違う人、人数が違う)などが曖昧ならば4点です。
まとめ
特に認知・行動チェックリスト、CBAは他の項目も検査バッテリーの使えない方・施設での高次脳機能評価にとても有用です。
点数化することで、例えばリスク意識の評価や服薬管理が可能かどうかなどの議論をするときの根拠として使うことができるようになります。
ぜひとも活用してみてください!
会話・コミュニケーションから記憶を評価していくポイントについても今後まとめていきたいと思います!
参考文献