ST介護職の考え事

認知症・高次脳機能・ケアについての覚え書き

【頸部聴診】による嚥下機能評価-どんな嚥下音の時に何が起こっているか?

 

頸部聴診は怖くない!

 

嚥下機能の代表的な検査の一つに、「頸部聴診法」があります。

RSST、MWST、FTとSPO2や呼吸状態の評価、頸部聴診を組み合わせることで、評価の正確性をより高めることが可能です。

VFやVEといった他覚的検査がやりにくい生活期の現場では、他のアセスメントももちろん行いますが、頸部聴診から得られる情報に助けられることが多くあります。

特に残留の有無、咽頭リアランスの予測を立てるのに、聴診はとても役立ちます!

喉頭挙上の触診・視診ももちろん!)

 

しかし、頸部聴診は養成校でその技術の練習はほとんど行われず、現場に入ってやってみることがほとんどです。

その結果、「聴診はなんか苦手だな」「自信がないな」と思っているセラピストがとても多いです。

 

私も初めて聴診してみてと先輩から言われた時は、「聞いたところで評価なんてできる気がしない!」と冷や汗をかきながら形だけやっていました。

そんな頸部聴診が、今では強い味方になっています。

 

何度経験を重ねても、一回で完璧に評価ができるわけではありません。

一回聞いて分からなければ、もう一回聞けばいいのです!

その日評価しきれなければ、次の日もう一度評価すればいい!

そのくらいの気持ちで、とにかく数を重ねていくことが大切です!

 

頸部聴診の方法

 

頸部聴診の方法自体はとても簡単です。

飲み込んでもらう時に、首に聴診器を当てて聞くだけです。

 

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頸部聴診の位置

 

聴診の位置は「輪状軟骨直下気管外側上」が良いとされていますが、そこまで細かく気にしなくても大丈夫だと思います。

正中に聴診器を当ててしまうと喉頭の動きを阻害してしまうため、喉頭の側面・胸鎖乳突筋の前方付近に当てると良いです。

 

チェストピース全体を、しっかりと皮膚にあてることが大切です。

しっかりと当てていないと、音がちゃんと聞こえません。

皮膚に触れる面積が大きいほど聴取しやすいですが、大きいものは頸部表皮に密着しにくいという欠点があります。*1

やせ型の高齢者の頸部は細い上に骨ばっているため、チェストピース全体を密着させるのが成人用の聴診器だと難しいことがあります。

小児用・新生児用の聴診器の方が、しっかりと音を拾えると思います!

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聴診器の構造

 実際の評価は頸部聴診だけをするわけではないと思います。

のどに触れて喉頭運動を確認して、捕食動作や口腔期を見て、呼吸状態も見て…と多角的に評価をしなければいけません。

一度に全部をしようとすると大変ですし、焦りでミスのでる可能性が大きくなります。

評価項目を書き出して、一口二口それぞれに対して「今はこれを見る!」と決めて行うのが確実です。

 

頸部聴診時は片手で介助をして、もう片手で聴診器を当てる形になります。

私は右利きなので、右手にスプーンをもって、左手で聴診器を当てています。

その方の姿勢や注意等に問題が無い場合は、右側から介助をしています。

自分がスムーズに評価できるように、どちら側から入るのかも考えておくことが大事です!

 

 

嚥下音・呼吸音の評価

 

最初に一つ注意です!

頸部聴診で聞くのは、「嚥下音」だけではありません。

嚥下前後の「呼吸音」も大切です!

 

評価開始前の咽頭湿性音は痰等の咽頭貯留の存在を示しています。

評価前に吸引でクリアにしておくことが必要です。

また、何かを口に入れた後、嚥下前の呼吸に湿性音がある場合は嚥下前に食塊が咽頭喉頭内に滞留していることを示しており、嚥下反射遅延が考えられます。

 

嚥下後の呼吸に湿性音がある場合は、咽頭残留が推測されます。

追加嚥下等の代償法を行った後、その変化を評価しましょう。

 

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嚥下音の評価

(食べて治す!頸部聴診法と摂食嚥下リハ実践ノート 大宿茂)

代表的な嚥下音、その評価は上の表を見てみてください。

聴診で一番迷うのは、「この音はどの音なのか」ということだと思います。

その判断は、とにかく数を重ねて聞くしかありません。

 

「ぎゅっ」と詰まるような音は、嚥下圧産生不十分により食塊をしっかり押し込めていない状態の可能性を示しています。

「カポン」「ゴボッ」と空気が混じった感じの音は、どこかで嚥下圧が漏れている可能性を示す音です。これに「ゴポゴポ」と泡立つような音が混じれば、逆流の可能性が高くなります。

 

こんな風に擬音語で例示してみても、中々分かりづらいですよね…。

聴診の訓練は、実際に聞く+嚥下動態を見る(VF)のが一番です!

 

加えて、

異常を判断するには、まず正常な嚥下音を知る必要があります。

是非ご家族やご友人の嚥下音を色々と聞いてみてください!

 正常な嚥下モデルは皆さんの頭の中にあると思うので、その動態を思い浮かべながら嚥下音の聴診をしてみると良いと思います。

 

異常な嚥下音は、DVDやネットから聞くことができきます。

 

頸部聴診を勉強するためにお勧めの本

嚥下音の聴診を勉強するときには、VF画像と連動して音を聞くことをおすすめします!

【食塊がどこでどのようになっている時に、どの音がするのか】が頭の中でイメージできるようになっておくことが、臨床で患者さんの評価をするときにとても役立ちます。

 

 
この本はVFの動画と嚥下音がリンクしているため、
「どのような音がした時に、実際のどでは何が起こっているのか」がとても分かりやすくなっています。
嚥下音と嚥下動態のイメージをつなげるのにとてもお勧めです。
 
 

 

 

こちらは先ほどの本の内容に加えて、全体的な障害像をつかむためのアセスメント方法掲載されています。

ざっくりとしたタイプ分類から方向性を考える際には使えると思います。

嚥下音の勉強をするなら、先ほどの本だけで十分だと思います。

もう一歩踏み込んで嚥下音から嚥下をみたい!という時には使えます。

 

 こちらは耳鼻科のドクターで嚥下に関する講演や研修等も熱心にされている先生が書かれているものです。

嚥下音に加え、呼吸音・肺の聴診についてもとてもくわしく、分かりやすく書かれています。

胸部聴診についての本はたくさんありますが、導入としてこの本はお勧めです!

可愛いイラストもついており、そこまで辟易することなく嚥下音から呼吸機能まで勉強できると思います!

 

 

 嚥下音だけでなく、頸部聴診法を含めて評価からプログラム立案・実行まで網羅した、その名の通り「実践ノート」です。

こちらもDVDでVF画像と嚥下音がリンクしています。

聴診の勉強にももちろんなりますが、それ以外の部分(代償法・訓練法・姿勢についての考え方)の充実ぶりが凄いです。

他の嚥下関連の本には書かれていない、けれどとても役立つ介助方法・訓練法もあるので、ぜひ読まれてみることをお勧めします!

 

この本の著者である大宿先生は、全国で研修もしていらっしゃいます!

臨床で使える技術・考え方を多く教えて頂き、現場で困っている症例の質問にも答えてくださいます!

ご興味ある方はぜひ一度研修に参加されてみることをおすすめします!

ohyado.sakura.ne.

 

咽頭マイク】を使ってみよう!

先ほど述べたように、聴診を行うと片手は聴診器を持たなければいけないためふさがってしまいます。

しかし、【本当ならその手をオーラルコントロールや頭頚部のコントロールに使いたい!】という患者さんもいますよね。

 

そんな時にとても便利なのが 咽頭マイク

 
 
拡声器とセットにしても5000円程度で購入可能です!

咽頭マイクをスピーカー/拡声器につないでおくと、両手はフリーのまま嚥下音の聴取が可能になります!!

 

何より、咽頭マイクを使うと一口一口の嚥下音を、毎回聴取することができます!

聴診だと片手がふさがってしまう為、評価時や最初の数口・気になった時だけの聴診になってしまいます…。

特にリスキーな方に対しては、本当は1口毎の嚥下状態を見ながら直接訓練を進めるのが理想ですよね。

咽頭マイクは、その理想をかなえてくれます!!

そこまでお高いものでもないので、試しに使ってみるとこの便利さのとりこになると思います!!

 

 

 

 

*1:食べて治す!頸部聴診法と摂食嚥下リハ実践ノート 大宿茂

一口量を考える-誤嚥・窒息を防ぐ/スムーズな食事に適切な1口量の評価-

食事介助の現実

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食事介助


医療にしても介護にしても、基本的に人手不足でどこの現場もとても忙しいです。
食事介助の際も、1人のスタッフが2人の介助を行いながら、周囲の何とか自力摂取している方に目を配るのが日常的に行われています。

決められた時間の中で業務をこなしていくために、その状況は致し方ないことです。

しかし、その結果行われる食事介助はどうなるでしょうか?

決められた時間内で食べ終わらなければいけないので、スプーンにすくう量は多くなります。
とりあえず口に入れたら、隣のもう一人の口に同じようにいれます。
またすくって口に入れようとした時、向かいの方が手で食べ始めたのでそちらを見て声掛けをしながら、手は利用者さんの口へスプーンを入れています。

「てきぱき」と言えば聞こえはいいでしょう。
けれど、この介助は安全な経口摂取のための配慮ができた介助とは言い難いです。

もちろん、現場で介護も行う1人として、現場の忙しさは十分に分かっています。

それでも、忙しい中でも安全のために決められた方法で介助を行うことが必要な、「リスクの高い」方々がいます。
残存機能を最大限に生かすために、特定の手法がとても有効な方々もいます。

全ての方に同様の介助を行うのではなく、
「この方にはどんな介助が必要なのか/不要なのか」
を考えながら日々の介助を行っていきたい
と私は思っています。

さて、こんな前置きをしたのは、食事介助時口いっぱいに詰め込まれている方、飲み込む前に次の一口を入れてしまわれている方をとてもよく見るからです。

こんな風に書くと、「そんな酷いことをするわけない!」と思われるでしょうが、忙しい状況で複数人へ注意を向けていると知らず知らずのうちに「そんな酷いこと」をしてしまうのです。

知らず知らずに行わないためには、知識が必要です。
自分の介助がその方にとってどんなものなのかを知る必要があります。

一口量はどのくらいが適切か?


どんな人にもスプーン山盛り一杯を口に押し込むスタッフもいたりしますが、それはいかがなものかと私は思っています。

「その方にあった一口量」というものがあります。

判断基準は
咽頭期障害の有無
②口腔・咽頭残留
③口腔期(咀嚼・食塊形成・送り込み)がスムーズに惹起する

の3点を考えています。

咽頭期障害の有無

基本的に、咽頭期障害がある方の1口量は少な目が良いです。
その方の機能や、何を食べるか(物性)にもよりますが、一口量はティースプーン半量~1杯くらいが良いと思います。

咽頭期に機能低下がある場合、嚥下のタイミングのズレ・咽頭残留、そこからの喉頭侵入・誤嚥を生じるリスクが高いです。

低下した筋力でも残留なく飲み込めるだけの量にする、という意味で一口量を少なくします。
また、もし残留・誤嚥してしまったとしても、その量がなるべく少なくなるように少な目の設定をすることが安全対策になります。

一方で、一口量があまりに少なすぎると、送り込みが難しくなり口腔内残留を生じる可能性があります。
Rademakerらの研究では1,3,5,10mlまでの水を嚥下させた時の送り込みの時間を計測し、その結果
体積が大きくなると送り込み時間が短縮することを明らかにしています。

その辺りのさじ加減は、患者さん毎に微調整が必要な部分かと思います。
患者さんの反応を見ながら調整していってみてください!

②口腔・咽頭残留

口腔内・咽頭残留が多いと予測される方の一口量も少な目が良いです。

口腔内残留する方は、舌や顔面の麻痺や運動範囲低下を生じていることが多いです。
姿勢による代償や交互嚥下でのクリアランスを図るのはもちろんですが、そのような代償を加えてクリアランス可能な程度の量にしておく必要があります

咽頭残留での考え方も同様です。
追加嚥下や交互嚥下等の代償手段で咽頭リアランスが図れる程度の量を一口量に設定する必要があります。

リアランスとの関係で一口量を考えるときは、物性による違いも評価しておく必要があります。

付着性の高い物性は、べたべたと張り付くので一口量を少な目にすることが有効なことが多いです。
また、粒がありまとまりがない物性は舌ー口蓋圧力が分散することによって、食塊に圧力がかかりにくいです。
そのため口腔内での残留に繋がるため、一口量は少な目にして交互嚥下を行うと良いです。

ごく刻みなどにとろみをかけることがありますが、この対応はごく刻みが口腔内に散らばってしまうのを、舌の巧緻性低下によりまとめることが難しい場合には有効です。
舌の筋力低下により送り込む圧力が不十分な場合には、粘性を高くしても粒により圧が分散するのに変わりはないため、とろみを付加してもあまり変わりは生じません。

③口腔期(咀嚼・食塊形成・送り込み)がスムーズに惹起する

ここまで一口量は「少な目の方が良い」と言ってきましたが、一口量が「多めが良い」ことももちろんあります。

「先行期に機能低下がある」時、「口腔内感覚に低下がある」時です。

口の中に食べ物が入っているのに、一向に咀嚼が始まらず口を開けっぱなし、という方がたまにいらっしゃいます。
重度の認知機能の低下があり、覚醒状態もあまりよくなく、普段はベッド上での生活を送っているような方に多いです。

このような方は咽頭期に障害がないのなら、一口量は多めの方がその後の嚥下反射までがスムーズに惹起します。

私たちは「今は食事の時間」と認識して席に着き、目と鼻で目の前の食事を感じ取り、食具をもって口に運び…と「食べる」に繋がる刺激をたくさん受けてから食べ始めます。

しかし重度の認知機能低下にある方は、「食べる」に至るまでのたくさんの刺激がどれも入力されずらくなっています。
その結果、ただ口の中に食べ物が入るだけの刺激では、嚥下反射に至るまでの一連の動作のトリガーにならなくなっていまっています。
この辺りの嚥下における「先行期」の重要性については、また今度まとめたいと思います。

そのため、嚥下にいたるトリガーを引くため、刺激の量を増やす必要があります。
その方法が、冷たい物/温かい物といった温度の刺激や、味の刺激。そして今話題にしている「一口量の増加」です。


認知機能を含めた評価をきちんと行って、その方にとって適切な一口量を考えながら、丁寧な食事介助をしていきたいですね!

なぜ「とろみ」をつけるのか?

ムセるなら、とりあえず「とろみ」をつければいいか?

 

「〇〇さん最近よくムセるから、とろみを濃くしませんか?」

 

言語聴覚士として特養で働いていると、こんな相談を受けることがよくあります。

「嚥下障害=食事でムセる=とろみをつける」

という単純な図式が、かなり根深く定着してしまっていると感じます。

 

「ムセ」は本来なら食べ物が入ってくるべきではない場所に、食べ物が入ってしまったために生じます。

「ムセ」は咳を起こすことで、入ってしまった食べ物を外に出す防衛的な反射です。

そのため、「ムセた」から「食べ物が喉頭・気管に入ってしまった」ことは正しい解釈です。

しかし「何故」食べ物が喉頭・気管に入ってしまったか、という部分は一人ひとり違うはずです。

 

いつ、何を、どのくらいの量で食べた時にむせたのか?

その時の姿勢は?覚醒は?体調は?

様々な状況を加味して評価を行い、その時の嚥下動態を推測していく必要があります。

 

それぞれの原因により、対応は変わってきます。

嚥下障害に対して、「とろみ」は万能なわけではありません。

しかし、「とろみ」をつけることが有効であることが多いことも確かです。

 

次になぜ「とろみ」が有効なのか、「とろみ」の性質について考えてみましょう!

 

 

「とろみ」の性質~物性との関係~

 

「とろみ」に集中した話に移る前に、嚥下障害を考える際に注意してもらいたい食べ物の「物性」について少しお話します。

 

一般的に言われる食品物性には様々な種類がありますが、嚥下障害との関連で覚えていてほしい物性は、

①かたさ、②凝集性、③付着性

の3つです。

 

https://www.engesyoku.com/kiso/images/kiso_n.gif

 

①かたさ

この「かたさ」は歯でかみ切れる、歯茎で潰せる、舌と口蓋で潰せる、等のイメージで間違いではありません。

 

けれどもう1点注意してほしいのは、食塊形成後に咽頭でどの程度柔軟に形を変えられるのか、という点です。

柔軟性があり咽頭の形に合わせられる食物は、残留した際も咽頭に留まりやすく気管に零れ落ちにくいです。

しかしある程度の「かたさ」がある物性では、残留した際咽頭に合わせた形に変化しにくく、そのため零れ落ちていきやすいです。

 

ゼリーととろみで比べてみましょう。

咀嚼してゾル状になっていない状態(丸のみ)で考えると、ゼリーの方が物性としてかたいです。

後で取り上げる凝集性、付着性の部分ではゼリーのメリットはありますが、「かたさ」で考えるとゼリーの方が残留時のリスクは高くなります。

 

②凝集性

凝集性は「まとまりやすさ」「散らばりにくさ」の指標です。

とろみをつけない水分は「凝集性が低い」物性です。

 

水ととろみをつけた水をテーブルにこぼしたとします。

とろみをつけた水はある程度の大きさに留まりますが、ただの水の方が大きく広がっていきます。

この「ある程度まとまって留まる」性質が「凝集性」です。

 

とろみを濃くつける程、この「凝集性」は高くなります。

ゼリーも丸のみであれば、「凝集性」は高いです。(そもそも一塊であるため)

 

凝集性が高いとひとまとまりで咽頭を通過できるため、残留しにくくなります。

また、同様の理由で一部がぽろっと落ちて喉頭侵入・誤嚥するリスクも軽減できます。

この「ぽろっと落ちる」ことが少ないのは「凝集性の高い」とろみ、ゼリー両者に共通しています。

しかし残留した時を考えると、「かたさ」の違いが影響します。

とろみは「かたさ」が低いため咽頭にまとまって残留することができますが、ゼリーは「かたさ」が高いため、そのまとまりのまま零れ落ちてしまう可能性があります。

 

つまり、ゼリーは咽頭残留した場合を考えると、一般的に考えられているよりもリスキーなものでもあります。

基本的に ゼリーは咽頭残留させないで嚥下させるもの」

と考えて使うのが安全かと思います。

 

③付着性

付着性は名前の通り、「どの程度くっつきやすいか」「べたべたするか」の指標です。

付着性はとろみを濃くするほど高くなります。

反対に、ゼリーは付着性が低いです。

 

付着性が高いと、べたべたしているので咽頭残留しやすくなります。

飲み込む際にあちこちにくっつきやすいため、綺麗に全て飲み込むには力が必要になります。

評価を行わずにとろみを濃くしていくだけだと、いたずらに咽頭残留を増やしてしまうリスクがあります。

 

一方で、付着性が高いことのメリットもあります。

仮に咽頭に残留したとしても、付着性が高ければそのままべったりとその場に張り付いてくれます。

綺麗に飲み込むのは難しいけれど、気管に零れ落ちるリスクは軽減することができます。

 

 

「とろみ」をつけるとどうなるのか?

 

 

①かたさ、②凝集性、③付着性から「とろみ」を考えます。

 

とろみをつけると、

「かたさ」は水と比べると大きな変化はありません。

「凝集性」は高くなり、まとまりやすくなります。

「付着性」も高くなり、べたべたとくっつきやすくなります。

 

もう1つ付け加えると、流入速度はとろみをつけると低下します。

つまり、のどの中をゆっくりと流れていくことになります。

 

ただの水は「流入スピードが速く」、「拡散しやすい」性質を持っています。

流入速度が速いと、嚥下反射が惹起する前に液体が喉頭内に侵入するリスクが高くなります。

また「拡散しやすい」(凝集性が低い)と嚥下時や嚥下後に咽頭に残留した液体が喉頭内へ侵入するリスクが高くなります。*1

 

そのため、水の流入速度に対応できない、気道防御が不確実な症例、残留が予測される症例ではとろみをつけた方が安全であると考えられます。

 

とろみをつけ流入速度を遅くすることで、水が入ってくるタイミングと喉頭運動のタイミングを合わせることができるようになります。(=嚥下の「期」と「相」のズレをなくす)

 

喉頭蓋反転が不十分、残留があり嚥下中・嚥下後誤嚥が予測される場合は、付着性・凝集性をあげることで一塊で咽頭を通過してもらうことでリスク軽減を図れます。

 

 

とろみの濃さ

 

https://stat.ameba.jp/user_images/20190122/23/amami-resident/01/d4/p/o0909057314343534609.png

 

摂食嚥下リハビリテーション学会で定められたとろみの基準は上の表のようになっています。

個人的には「とんかつソース状」等の名称よりも、こちらの学会基準の方が使いやすいと感じています。

フレンチドレッシング、とんかつソース…での濃さの違いが少し考えないとピンとこなかったので…。

 

どの濃さを使うかはもちろん評価を行って決めますが、迷ったときはとりあえず

「中間のとろみ」から評価をはじめてみると良いと思います。

中間とろみ3ccから段階的に増やして、30cc一気飲みで問題なければ薄いとろみに変更してまた評価してみる。

中間とろみ3ccで引っかかるようだったら、濃いとろみに変えて評価してみる必要があります。

 

とろみよりもゼリーの方が適した方ももちろんいます。

ゼリーでうまくいかなければとろみを、とろみでうまくいかない方にはゼリーを、それぞれ試してみる価値はあると思います。

 

途中で色々と書きましたが、ゼリーととろみの物性は大きく異なります。

物性の特徴を把握した上で、しっかりとその方の評価を行って、より適した方を選択して使っていく必要があります。

 

 

参考文献

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1:頸部聴診法と摂食嚥下リハ実践ノートp126

食事の姿勢について③-のどの構造から考える食事姿勢としての「側臥位」のメリット

 

咽頭で食塊は左右に分かれ流入する!

 

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喉頭

 

まず、のどへ送り込まれた食塊の流れについて考えてみましょう。

 

奥舌にそって送り込まれていく食塊は、喉頭蓋で一度せき止められます。喉頭蓋から左右に分かれ、梨状窩→食道入口部へと流れていきます。

喉頭蓋から左右に分かれ食道入口部へと続く食塊の通り道をLateral Food Channel

と言います。

上の図で言うと黄色の部分がこのLateral Food Channelになります。

このLateral Food Channnel が左右にある、ということが、側臥位の使い方と関連してきます。

 

 

食事姿勢としての「側臥位」

 

側臥位は「左右」が「上下」に変化する姿勢です。

右側臥位をとると右が下、左が上になります。

左側臥位では左が下、右が上になります。

 

食塊も重力の影響を受けます。そのため右側臥位では、下になっている右側のLateral Food Channelを食塊は流れていくことになります。左側臥位ではその反対です。

 

側臥位にすることで、仰臥位では左右2方向に進む食塊の流れを、1方向のみにコントロールすることができます。

 

嚥下障害と言えば必ず出てくる「ワレンべルグ症候群」では食道入口部開大不全が生じますが、これには左右差があることが多いとされています。

食道入口部の開きやすい方を下向きにする側臥位をとることで、仰臥位や座位よりも通過が良くなる可能性があります。

 

また、梨状窩の深さにも左右差があると言われています。

梨状窩が深ければ、その分残留しても気管内へ零れ落ちにくくなります。

VFやVEのような他覚的な検査をしなければ本当の所は分かりませんが、仰臥位でうまくいかない方は側臥位を左右両方試してみるのは良いと思います。

 

 

また食塊の通り道のコントロールは口腔内でも同様に考えられます。

 

顔面神経や舌下神経麻痺によりいつも一方の臼歯部前庭(頬の内側)に残留するような場合には、残留する側を上にした側臥位を試してみる価値があります。

重力により上側の食塊は下に落ちていきます。患側を上にしておくと、患側側にそもそも食塊が行きにくくなるため、結果的に残留が減ると考えられます。

 

完全側臥位法

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最近注目されている姿勢に「完全側臥位」というものがあります。

 

ただ単に「側臥位」と言ったときにはBed upを30°程度しているイメージです。

この「完全側臥位」はBed upをしません。頭を上げない、フラットな状態で側臥位をとることを「完全側臥位」と言います。

 

この完全側臥位のメリットは「残留したものが咽頭の側方へ残るため、誤嚥しにくい」という点です。

 

ある研究で座位と完全側臥位での咽頭貯留可能量を計測しています。*1

その結果、座位では4.6mlの咽頭貯留が可能であるのに対し、完全側臥位では14.2ml可能であることが分かりました。

 

また完全側臥位では気管が重力と垂直に位置することになるため、残留が重力により気管へ落ちてくることが少なくなります。

 

残留を保持できる量が拡大すること、気管が重力に対し垂直に位置することで、完全側臥位は誤嚥のリスクを軽減させることできます。*2https://www.jstage.jst.go.jp/article/geriatrics/56/1/56_56.59/_pdf/-char/ja

 

 

頸部回旋と側臥位

 

側臥位で食塊を1方向へ通るようにした上で、頸部回旋(側屈でもOK。回旋までいかず側屈で十分という文献もあります)を加えると更に有効性が高まります。

つまり、頸部回旋も、食塊をより1方向へ流れやすくする効果があります。

 

頭を右側へ向けてみましょう。

右側の首の皮がぎゅっと寄って、右側が閉まる感じがするかと思います。

同様の現象が、咽頭でも起こっています

右側を向くと、右側がぎゅっとつまり、反対に左側が広がります。

 

そのため、右側のLateral Food Channel を食塊が進もうとしても、進もうとした先が物理的に遮断されている為通れず、左側の道を進むことになります。

結果、食塊は1方向を進むことになります。

 

咽頭残留に対する頸部回旋→追加嚥下がなぜ有効性も、頸部回旋による物理的な圧迫から考えることができます。

左右に残留したものを頸部回旋により物理的に押し出して、追加嚥下でもう一度押し込んでいるのです。

 

側臥位で重力により下側に行きやすくした上で、頸部回旋を加え上側に物理的な遮断を加えることで、より下側のみを通りやすくなります。

そうするためには、側臥位にした上で、上向きに首を回旋してもらいます。

右側臥位で頸部左回旋、左側臥位頸部右回旋となります。

 

 

「側臥位で食べる」ということの、見た目の違和感は大きいかと思います。

完全側臥位になればなおさらです。

しかし、側臥位にすることのメリットは多く、「むせて食べられない」「残留が多くて食べられない」と言われる方々が食べられる可能性のある姿勢でもあります。

どの姿勢がその方にとって最適な姿勢か。どの姿勢だったら食べられるのか。

本当に、全てを試してみたのか。

諦める前に、様々な代償的な姿勢を試してみることは有効だと思います。

なるべく長く、口から食べる幸せを享受してもらうことができるよう、日々勉強しながら頑張っていきましょう!

 

 

参考文献

 

 

 

*1:完全側臥位法による肺炎死亡率減少への挑戦

http://www.gkren.jp/hospital/pdf/yushu1.pdf

*2:重度嚥下機能障害を有する高齢者診療における完全側臥位法の有用性

食事の姿勢について②-食べやすい姿勢≠誤嚥しにくい姿勢

「食べやすい姿勢」「誤嚥しにくい姿勢」

 

特養で働いていると、食事が来たとたんにセッティングしていたリクライニング車いすの角度を90°近くに戻していくスタッフの方がたまにいらっしゃいます。

もちろん良かれと思ってのことです。

 

「寝たまま食べたら危ない。しっかり起きてたべないと!」

 

決して間違った考えではありません。

90°座位で覚醒が上がる方もいらっしゃいます。

私たちは背もたれが倒れたまま食べることはありません。背もたれが倒れたその姿勢は、私たちが食べるには食べにくい姿勢であることは確かです。

 

嚥下障害のある方、飲み込みが危ないと思う方の食事姿勢について考える時、一つ念頭に置いてほしいことがあります。

それは、

 

「食べやすい姿勢」と「誤嚥しにくい姿勢」は違う

 

ということです。

 

座って食べる姿勢(90°座位)は常食を自力摂取するのに適した姿勢です。

下顎の運動、舌の運動、食道の蠕動運動はその姿勢で最も効率よく動きます。

90°座位で食卓上の食事をしっかり認知することで、その後の上肢の運動が適切にプログラムされます。

常食の円滑な自力摂取を目指すならば、私たちが普段食べる姿勢である90°座位が適していることは間違いありません。

 

しかしそれは、あくまで嚥下障害が無い方についての場合です。

嚥下障害のある方の食事でまず優先されるのは、「安全に食べる」ことです。

 

90°座位はメリットもありますが、嚥下障害がある方にはデメリットも大きいです。

 

舌の力が低下していれば、食塊を水平方向に送り込むことが困難になります。

気道と食道が交差する部分が垂直であるため、食塊はその部分を重力の影響で素早く落下します。喉頭の機能に低下があると、食塊の落下速度に喉頭運動のスピードが追い付けない事態が生じます。

 

このようなデメリットの影響で誤嚥を生じてしまうならば、安全のため代償的な姿勢をとる必要があります。

 

必ずしも食べやすいわけではないけれど、障害された機能を補う代償手段として姿勢の調整があります。

代表な代償的な姿勢には「リクライニング位」「側臥位」「頸部回旋位」「頸部前屈位」などがあります。

 

頸部前屈位については前回まとめているのでそちらをご覧ください

 

ryo-kobayashi.hatenablog.com

 

 

リクライニング位のメリット・デメリット

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リクライニング位

 

90°座位とリクライニング位の違いは重力の影響によります。

90°座位では口腔内の食塊は下顎方向へ力を受けるだけで、咽頭側へ送り込むには自身の力が必要です。

 

リクライニング位では重力が咽頭方向へ加わります。(上の図青い矢印)

そのため、口腔内の食塊は送り込む力が弱くてもある程度自然に咽頭側へと流れています。

 

この方向への重力の作用は、咽頭へ食塊を送り込む助けになります。

そのメリットの反面、食塊が自分でコントロールできずに咽頭へ流れ込んでしまうことにもなります。

 

頸部前屈位で咽頭を広げ、とろみで流入速度を遅くする等の対策を行い、デメリットを補うことはできます。

 

また、咽頭でも重力の影響が生じています。

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座位では上から下へと重力がかかります。

そのため咽頭残留した場合、喉頭蓋や梨状窩(上の図の青い矢印、黄色から内側へ)を乗り越えて声門下へ食塊が落ちていきやすくなります。

(ちなみに、赤い部分が食道入口部です)

 

リクライニング位にすることで、食塊は咽頭後壁を伝わりゆったりと食道方向へ流れています。

咽頭に残留したものにかかる重力の方向は垂直ではなく食道入口部のある方向になり、座位と比較して声門下方向へ落ちにくくなります。

 

 

もう1点。座位とリクライニング位の違いは、口の奥から食道への角度です。

上の図で言うとオレンジの矢印です。

口の奥から食道の角度は90°座位では垂直ですが、リクライニング位ではその角度が緩やかになります。

 

口の奥から食道への角度が緩やかになることのメリットは食塊の流入速度が遅くなることです。

 

 

食塊が口の奥から咽頭へ送り込まれると、「嚥下反射」が生じます。

喉頭が前上方へ挙上することで喉頭蓋は気道を守り、その間に舌・口蓋・咽頭の筋肉の力・重力・下咽頭の陰圧により食塊は食道へ押し込まれます。

 

この時、喉頭の動きよりも食塊の動きが速いとどうなるでしょう?

気道防御が不十分で無防備なところに、食べ物が現れることになります。

その結果、喉頭蓋が閉まりきらなかった隙間から食べ物が侵入し、誤嚥となってしまうことがあります。

 

とろみをつけることで流入速度を遅くするのと同様の考えで、リクライニングの角度をつけています。

 

以上のようにリクライニング位は重力や角度の影響で誤嚥防止に資する部分が大きいですが、

・重力により舌根沈下気味になる⇒喉頭蓋反転が妨げられることがある

咽頭期嚥下の持続時間の延長

・鼻咽頭の閉鎖圧の低下

などのデメリットが生じます。

 

お一人お一人の障害像に合わせて、その方にとってベストな姿勢を探していく必要があります。

 

次回は「食事の姿勢・側臥位」についてまとめていきます。

 

 

参考文献

 

 

 

 

 

食事の姿勢について①-上向き·頚部伸展位はなぜ危ないか?

なぜ頸部伸展位は危ないのか

 

食事介助の際、「上向きにならないように」「顎が上がらないように」という注意点はどんなものにも記載してあることが多いです。

 

上を向いている・顎が上がっている状態を「頸部伸展」している状態と言います。

この頸部伸展位は嚥下にとても不利な姿勢です。

それは喉頭の解剖的構造に由来します。

 

 

喉頭の解剖的構造

 

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舌骨上筋群・下筋群

喉の筋肉と軟骨の作りは上の図のようになっています。

軟骨組織が、複数の筋肉や腱によって吊り下げられる構造です。

舌骨を中心に考えて、上から舌骨にくっついている筋群を舌骨上筋群、舌から舌骨にくっついている筋群を舌骨下筋群と言います。

これら喉頭を支えている舌骨上筋群と舌骨下筋群の、収縮と弛緩とのバランスで喉頭は動いています。

 

「ごっくん」と飲み込む時、のどぼとけが上下に動きます。

のどぼとけは甲状軟骨という大きめの軟骨です。上の図では筋肉の下に埋もれて見える白い枠が甲状軟骨です。

甲状軟骨は甲状舌骨筋という筋肉で舌骨と繋がっていて、飲み込む際には一緒に前上方へと運動します。

舌骨が前上方に動くために、舌骨上筋群は収縮し、舌骨下筋群は弛緩しています。

 

この際もし舌骨下筋群が十分に弛緩していなかったとします。

舌骨は上方向に動きたいのに、下方向へも引っ張られている状態になります。

反対方向の力が邪魔をして、舌骨は十分な動きをすることができません。

 

少し話は変わりますが、筋肉が十分に収縮するには収縮するだけの長さが保たれていることが必要です。

もともと縮み切っている状態では、それ以上縮むことはできません。反対に力をかけて伸ばされている状態から縮もうとするのは、もともとの長さから縮もうとするときよりもよりたくさん力が必要になります。

 

もともとの筋肉の長さを生体長と言います。筋肉は生体長にあるとき、最も力を出すことができます。

 

さて、ここで頸部伸展位について話を戻します。

頸部伸展位では舌骨上筋群、下筋群ともにぐっと引き延ばされることになります。

両者ともに筋肉は生体長よりも引き延ばされます。

その結果舌骨上筋群は十分に収縮することができなくなります。

その上、本来弛緩しなければいけない舌骨下筋群も引き延ばされることによって、元の長さに戻ろうと収縮方向へ働いてしまいます。

 

舌骨上筋群は十分な出力ができない上、反対方向の力を加えられてしまいます。

上下から筋肉がくっついていて、そのバランスを調整し運動を行う喉頭の構造故に、頸部伸展位は喉頭の上方向への運動を大きく阻害することになるのです。

 

じゃあ頸部を前屈させればいい?

 

「上向きが危ないから、下を向かせて食べさせればいい」

単純に考えるとそうなります。

頸部伸展位で食べるよりは、過屈曲でも下を向かせた方が誤嚥のリスクは軽減すると思います。

 

ただ一言に「前屈」と言ってもいくつか種類があり、それぞれメリットとデメリットがあります。代表的な三種類をご紹介します。

 

①頭部屈曲位(後頭骨-C1の前屈・顎引き位)

頭を下げないで、あごだけを引いた姿勢です。

咽頭腔全体が押しつぶされるように狭くなります。

喉頭蓋谷が狭まりますが、喉頭蓋が咽頭後壁に近付き反転できない*1との所見もあります。

咽頭収縮不良で喉頭蓋谷等に残留があるケースで、残留のクリアランスを図る際には使えるかと思います。

 

②頸部屈曲位(下位頸椎C1-C7の屈曲)

お辞儀をするように頸部を屈曲させる姿勢です。この際自然と頭部も屈曲してしまうことが多く、①のデメリットの影響を受けることが予測されます。

頸部屈曲のみでは喉頭蓋谷は広がりますが、頭部屈曲の要素が入ると相殺されてしまいます。

食道入口部の開大には③頸部前屈突出位よりもこの頸部屈曲位が有利だとする報告があります。

 

③頸部前屈突出位(下位頸椎の屈曲+やや顎を突出させる)

お辞儀をするように頸部を屈曲させ、そこかからやや顎を前に出させた姿勢です。

喉頭蓋谷、咽頭腔や梨状窩が広がります。咽頭が広がることで食塊の通路が広がり、また喉頭蓋谷が広がり食塊との粘膜の接触面積が大きくなることで、嚥下反射が起こりやすくなると言われています。*2

 

一人ひとりの状況に合わせて、その方に適した前屈を誘導することが必要です。

過度な前屈位は先行期~咽頭期全ての動きを阻害することになります。

食べさせる前にしっかりと姿勢を確認して、安全で快適な食事時間を提供していきたいですね!

 

 

参考文献

脳卒中の摂食嚥下障害 第3版

 

 

 

食べて治す!頸部聴診法と摂食嚥下リハ実践ノート

 

 

*1:脳卒中の摂食嚥下障害 藤島一郎

*2:脳卒中の摂食嚥下リハビリテーション 藤島一郎

ユマニチュード的排泄介助

ユマニチュードの技術

ユマニチュードはイヴ・ジネスト、ロゼット・マレスコッティの二人によって作り出された、知覚・感情・言語による包括的コミュニケーションメソッドです。この技法は「ケアする人とは」「人とは」「ケアとは」を問う哲学と、それに基づいた実践的なテクニックから成り立ちます。*1

前回、ユマニチュードの哲学についてまとめさせて頂きました。
今回はユマニチュードの具体的な技術の一つで、私が実際に教わってとても納得した「排泄介助=おむつ交換」についてまとめていきます。

繰り返しになりますが、ここに書くのはあくまで「私が解釈した」ユマニチュードの技術です。
その神髄に触れるには、やはり先生方から直接教わるのが一番です。興味を持たれた方は、ぜひ研修への参加をご検討ください!
humanitude.care

ユマニチュードの「触れる」とは?

具体的なおむつ交換の方法に入る前に、ユマニチュードでの「触れ方」についてご紹介します。
「触れる」はユマニチュードが大切にする四本の柱の一つです。

私たちが普段行う「触れる」には様々な意味を触れた相手に伝えます。
ゆっくりと広い面積で触れることで「愛情」や「優しさ」を伝えることができますが、力強く小さな面積で「掴む」と相手には「敵意」や「攻撃」のメッセージが伝わってしまいます。
認知機能が低下し、「触れられる必要性」の理解が困難になってしまった方々には、「触れる」ことが与えるメッセージに注意を払う必要があります。
私たちの手がその方に与える刺激に、常にポジティブなメッセージを載せていく必要があります。


私たちは、たとえ触られることが嫌であっても、必要性が理解できれば触れられることを受け入れることができます。
病院での診察や接骨院での治療は、その状況が理解できているので、私たちは知らない人から触られることに抵抗しません。
必要性が理解できているので、他者から「触れられる」ことを受け入れることができます。

けれど、認知機能が低下した方たちはその「必要性」を理解するのに困難を生じます。
口腔ケアをしなければ、口の中は汚いままで誤嚥性肺炎に繋がるかもれない。
おむつ交換をしなければ不潔で、臀部がかぶれたり尿路感染に繋がるリスクがある。
そんな「必要性」が理解されないまま、口や下半身といったプライベートな部分に私たち介護職員は触れていかなければいけません。

何でか分からないのに、嫌なところが触られそうなので、その方々は抵抗します。
私たち介護職員にとって、口腔ケアやおむつ交換はやらなければならないことです。その人のために、行わなければならないことです。嫌がられても、抵抗されても、その人のことを思って、やらなければいけない。
だから、抵抗する手をつかみます。振り払おうとする腕を、強い力で押さえつけます。
その時私たちは、狭い範囲で、強い力で、その方々に触れます。私たちのその「触れ方」がその方々に伝えるメッセージは「敵意」「攻撃性」です。
相手のことを思って私たちが行っているケアが伝えているのは、「敵意」と「攻撃性」になってしまっているのです。

こんな悲しい悪循環を生まないために、ユマニチュードはポジティブなメッセージを与える「触れる」技術を提唱しています。

・広い面積(指を広げて)で、ゆっくり触れる。
・親指で掴まない(親指を使わない)
・鈍感な部分から、段階を踏んで触れる。(例:背中→肩→顔)
・ある程度の重みをかける
・関節を触らない

体位交換時手足をまとめたり屈曲させたりするときも、基本的に下から手のひらで掬い上げるようにして触れます。
「掴まない」というのは意識しないと結構やってしまいがちです。「掴む」刺激が与えるメッセージはやはり攻撃性に近いので、注意していきたいですね…。

ユマニチュード的おむつ交換

1つ大事な点ですが、ユマニチュードは「触れる」ことで「絆を結ぶ」と考えています。
そのため、ケアの間どちらかの手は必ず相手に「触れている」必要があります。
慣れないうちは難しいのですが、少し意識してやってみると利用者さんの反応が変わってくるので面白いと思います。

さて、いよいよ本題のおむつ交換の技術について整理していきます!

まずベッドの高さを調整します。
ケアの高さ=恥骨の高さ、移動の高さは大腿の1/2がベッドの上端になる高さ(おろした手がベッドに届かない高さ)です。
毎度高さを調整するのは面倒かもしれませんが、私たち自身の体を守ることもとても大切です!

体を小さくまとめる

側臥位にする前に、体を小さくまとめます。
両腕を胸の上においてもらい、両下肢をできれば屈曲します。
その際の腕の運び方、足の曲げ方に、ユマニチュードの「触れる」技術を用います。つまり、掴んではいけません!

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関節をはさんだ二つの骨を支える


腕を胸の上へ移動させる際、図の赤い部分を下から手のひらで掬い上げて支えて移動します。
少し手間に感じるかもしれませんが、慣れてしまえば手首をつかんで移動させるのと時間的には変わりません。


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手の甲で大腿を押し上げる・足底支えるように膝を曲げる

膝を曲げる際、図の赤い部分に手を当てます。大腿の下に入れる方の手は、はじめ手のひらを下向きにしておきます。
手の甲で大腿を押し上げる方向に動かしつつ、足底を支えるように押して膝を曲げます。大腿下に入れていた手は、ふくらはぎの後ろ側を支えるように当てます。

胸の上に腕を置き、膝が曲がりました。これで体が小さくまとまったので、次は側臥位にしていきます。

側臥位をとる

片手を肩甲骨の下に少し入れて隙間を作ります。手を下に入れる際は、ベッドマットを押し下げることを意識します。
作った隙間から、もう片方の手を入れて隙間を大きくします。その手が大きくした隙間に、元の手を肘くらいまで奥に入れます。
一気に手を深く入れるのではなく、じわじわと掘るように手を深く入れていくイメージです

肘まで入れた手で背中から骨盤にかけてを支えながら、もう片方の手で膝を倒します。
側臥位へと姿勢が変わるとき、自分の体がその方の顔の前にくるように移動します。向きが完全に変わったら、元の立ち位置に戻ります。

ここまでで側臥位がとれました。ここから陰部洗浄・おむつ交換にうつっていきます。

陰部洗浄

この部分が教わっていて一番衝撃的でした。
「陰部洗浄を側臥位で行う」と言うのです!!
考えてみれば、羞恥心への配慮や拘縮のある方には側臥位の方が適しているなと思いました。それまでそんなことを思いもしなかったのは、私の固定観念だったのだろうなととても反省しました…。

陰部洗浄の手技自体は、皆さん行われていらっしゃるのと大きな違いはありません。
ただただ「側臥位」です!

おむつ交換

側臥位にする前に、テープは外してくるくる畳んで押し込んでおきます。この時も、意識するのは「ベッドマットを押し下げる」ことです。

新しく入れるテープ止めおむつは、縦に一度引っ張って伸ばし、軽く谷折りにしておきます。
こうすることで、ギャザーがしっかりと立ち、「中央」が分かりやすくなります。

テープ止めおむつのはしのひらひらとした部分にはファイバーがありません。

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テープ止め模式図

図の赤丸をおむつの「中央」とします。
この「中央」を仙骨から4横指上、指2本分ベッドマット側の部分へ当てます。
自分の腰あたりでおむつをずれないように抑えながら、おむつを下へ押し込みます。
この時端の方のシーツを引っ張りながら、ベッドマットを押すように入れ込んでいきます。


入れ込んだら、側臥位にした時と同様の方法で背臥位にした後、鼠経にギャザーをしっかりと沿わせていきます。

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鼠経部ギャザーの沿わせ方

まず、おむつの前に出ている部分を軽く引っ張ってたるみをなくします。
前に出ている部分の真ん中あたり、テープの部分付近(赤丸の部分)をもって、鼠径部に回すように沿わせます。
同様に反対側も鼠径部にしっかりとギャザーを沿わせます。

ギャザーをしっかりと沿わせたら、テープを止めていきます。
ユマニチュードでは足が自由に動きやすいように、面白い止め方をしています。

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テープの止め方(青=上側、黄色=下側)

上側のテープを鼠経に沿わせる形で止め、下側のテープを上側のテープを固定するイメージで下から上へ止めます。
おむつの上端はあまり固定されずにひらひらとしてしまうのですが、足の可動性はこの止め方だと段違いです!
研修ではお互い普段のやり方とユマニチュード的方法の両者を体験してみるのですが、股関節の可動性が全然違います!
ユマニチュードは「人は動くもの」という定義をしているため、このように動きやすい方法を採用しているのだと思います。


お一人お一人ベストなケアの方法は違うかと思います。
その方にとってのベストを探す手数の1つとして、こんな方法もあると知っておくと役に立つことがあるかもしれません!

*1:ユマニチュード入門